Second Wear 堕天使のセンス!
12着目 推し活の定義(解釈雑多)
* 聖岳はじめin通学路 10/5(火)AM7:40 *
『いや、データで渡してくれないと着られないんじゃが』
昨夜の堕天使のド正論がよぎって、俺は重いため息をついた。いつもは晴々しい気持ちになれる朝日セラピーや朝チュンも、今日この日ばかりは無力だった。
「データ……データなぁ」
呻きながら、俺は持ってきたガーメントバッグを顔の前に掲げる。
この中には、昨夜に縫った第一の羽衣が入っている。基本は肩掛けの学生バッグに荷物をまとめて、手荷物を作らない俺だが、今日はそうも言ってられない。
服のデータ化なんて、俺一人じゃ絶対無理だからなぁ……。
なんせ三ヶ月前まではパソコンの電源も点けられなかった男だ。市川に根気よく教えてもらって、ある程度扱えるようになったものの、根っこはアナログ人間のまま。
「あいつには助けられてばっかr」
「おいおいオイスタァァーーーーっ!」
しみじみと日頃の感謝を振り返っていたら、バァン! って背中が爆ぜた。
「いっっっ……づ」
手の平の形をした激痛と熱が背中に刻まれ、声無く悶える。背中を押さえて、前方を睨めば、自転車のハンドルにもたれて笑う市川が視界に入った。
「あっはっはっ、よぉ、はじめ。おはレビぃ!」
「おはレビ……朝からテンション高いな」
「そりゃ、あんな朗報あったらテンション上がるだろーっ! レヴィアたんがRAVFICにエントリーするんだからよぉ!」
ギクンッ、と肩が跳ねる。そして昨夜の出来事がフラッシュバックする。
レヴィアたんのDMと直々のデザイン依頼、一時とはいえレヴィアたんと二人っきりで話したこと、そして―――巻尺越しに感じ取った、レヴィアたんの柔ら…………っ‼︎‼︎‼︎
「どしたぁ、はじめ⁉︎ なんで急に手擦りまくってんだ⁉︎」
指先によみがえる、あの、何とも言えない、ふわふわな感触。
俺はお手手とお手手のしわを合わせて、指先の幸せを誤魔化そうとした。
「べ、べつにぃ?
拝んでるだけだし。レヴィア様のいる方角に祈り捧げてるだけだし」
「やめろ、いくらなんでもそれはキモい! ガチ恋どころじゃねぇ領域じゃん!」
「恋じゃないよ、愛だよ。
俺は彼女が幸せだったら何でも良いんだ。アガペーアガペー」
「だめだだめだ! それじゃ信仰だよ、ガチの偶像崇拝だよ! 推し活なんてなぁ、下半身の欲に根差してるくらいが丁度良いんだって!」
その下半身の欲と激闘繰り広げてんだよ、こちとら‼︎
思い出したのはそれだけじゃない。採寸の時の……声とか、恥ずかしがってる仕草とか、あれが他の眷属じゃなく、自分だけが目にしたものだなんて、考えただけでも
「たまんねぇなぁーーーー‼︎」
「どうした、はじめ⁉ なんで膝から崩れ落ちてんだ⁉」
住宅街の往来で朝っぱらから顔を覆って膝を突く俺。
言葉にするとかなり痛い。心なしか市川の視線に棘を感じる。
けどそんなことよりも、この胸の中で暴れる愛おしさが狂おしい。
好きすぎて辛み。
そんな相手に、
『妾は、宵月レヴィアは! 聖岳はじめが作った羽衣を所望しておるんじゃ‼』
あんなこと言われたら、応えたくもなる。
彼女の信頼に報いて、彼女が満足する服を作りたい。
プロのデザイナーとして、俺はすべきことをしなければならない。
「なぁ、市川。ちょっと聞きたいんだが」
「お、おぉ、その体勢のままか。もうちょっと人目に配慮してくれたら、市川さん助かるわ」
俺は足に踏ん張りを入れて立ち上がると、手に持ったバッグを市川に見せる。
「この中に俺が昨日縫った服があってな。これをどうにかしてデータ化しないといけないんだ」
「データに? 実物の服を? なんでそんな面倒なことを?」
「――頼む」
俺はその一言だけで全てを訴えかける。
すると、市川の細目がキランと真剣な輝きを帯びた。
「――つまり。そういうことか」
「――あぁ、そういうことだ」
どういうことだ?
市川が何を確かめたのか分からんが、とりあえず俺も目をキランと光らせる。
何かと通じ合った俺達は、何の意味を持つか分からない握手を交わした!
「放課後、服飾部に行くぞ。天海なら服のデータ化ができる筈だ」
「お、おぉ、そうなの……か?」
市川がどういう風に解釈したのか知らないが、とにかく問題は何とかなりそうだ。
それに天海と会うのは都合が良い。
カタログの感想を返さなきゃいけなかったからな。
* 聖岳はじめin服飾室 10/5(火)PM15:37 *
「そんな、暇、無い!」
被服室に入って速攻、天海に断られた。
ただ正直断れたショックよりも……チア服姿の姫宮さんが、同じくチア服姿の天海にウエストをまさぐられている絵面の方がインパクトでかかった。
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