3着目 二次元(Vtuber)に触りたいなぁーー!
* 聖岳はじめin廊下 10/4(月)PM20:00 *
どうやら愛は足りなかったようで、レヴィアたんはリエルに負かされた。
眷属として不甲斐なし。それはそれとして、レヴィアたんのホラー配信を楽しみにする自分もいた。
「いやぁ~、にしても重大発表って何のことだろねぇ?」
でも市川の頭の中は今回の配信の最後で告知された重大発表でいっぱいだった。
喋りながら市川は階段の手すりに腰掛けて、滑り落ちる。ダン! と階段の踊り場に勢いよく着地した。
「おい馬鹿ッ! 音立てんな! 警備の人来るだろ⁉」
唇の前に人差し指を立てて、ひそひそ声で怒鳴る。
もうとっくに生徒が残っていて良い時間じゃない。けれど市川はそんなこと構い無しにひょいひょい進んでいく。
「ホラー配信も楽しみだけどさぁ、あぁも期待煽られたら気になるよな~」
シカトかよ。でも、市川の言うことは分からんでもない。
重大発表――――さっきの配信の最後にレヴィアたんが告知したそれは、今晩の雑談枠の配信で発表するらしい。
「そうだな……3Dモデルの公開とか?」
「それは前にやっただろぉ~。ほらウォーキングがバリカッコ良かった回」
階段の手すりに腰を落として、甲高い擦過音を奏でながら会話する市川。
あーもう知らん。警備の人に見つかっても無関係装うぞ、俺は。
そうして市川は滑り落ちた勢いをあっさりと足で殺すや否や、人差し指をクルクル回して、何かを思い出そうとする。
「ほら、なんて言うんだ? モデルが……ファッションショーとかで歩く……」
「ランウェイのことか?」
「そう、それだよ! ヤバかったよな、あの時の盛り上がり。前世モデル説も出てたしな」
前世……あんまり馴染みのない言葉だけど、意味は分かる。
要はVtuberをやる前は、何をやってたかってこと。俺は唇に親指をあてがって、記憶をまさぐる。
「……なんか見たことあるんだよな、あの歩き方」
役者にとっての演技、野球選手にとってのバッティングフォーム。モデルのウォーキングもそれらと同様、一人ひとり違って同じものは一つとしてない。
別に分かったからってどうもしないけど……俺はついレヴィアたんの前世について考えて、
「おい、はじめぇ! 聞いてんのか⁉」
パンッと加わった後頭部の衝撃で物思いから中断された。
自然と眦が吊り上がっていく。
「ん? なんでそんな睨んでんだ? そんなことよりさぁ! ア・レ! どうだったんだよ!いやー俺さんとしたことが、こんな胸ワク案件を忘れちまうなんてな!」
「アレ? 胸ワク?」
なんのことだか、まっったく分からない。首を傾げるばかりの俺にじれったく思ったのか、市川はその案件とやらをサクッと切り出した。
「――【ホロアクティ】だよ!
「いや、舐めれる訳無いだろ」
あー、あれかー。
SFとかでよく見る、空中にブォンって映像を投影するアレ。
アレがついに開発されたらしいのだ。
SF世界への道を切り開いたその企業の名は【エリシオン】。
一部の
けれど、【エリシオン】はホロアクティを世間に流通させるため、βテスターを募集し……見事、俺はそれに当選したのだ。
「あれ元はと言えば、お前が勝手に募集したんだよな」
「少しでも確率上げたかったんだよ! で、どうなんだよ、ほんとに出たの立体映像⁉ いや重要なのはそこじゃねぇ!」
わざとらしい含みを持たせる市川の物言いが煩わしい。
分かってるよ、何が言いたいのかは。
【ホロアクティ】のメイン機能は二つ。
一つは立体映像の投影。そして二つ目が――――立体映像への干渉だ。
そしてこの場合で言う『干渉』とは即ち――――触ること。
「前に市川の部屋行った時ビックリしたなぁ。
抱き枕の数にもびっくりだけど、壁一面に
「市川さんの手の平は、いつ如何なる時も柔らかみを求めている。ただし自室限定」
「良かった。外でもそうだったら、どうしようかと思った。友達がお縄にかかるところなんか見たくねぇからな」
「エェ……いや、三次元は……イヤァ」
「お前、末期だな」
マウスパッド愛好家と解釈してたけど、そんなレベルじゃなかった。友人の中々の突き抜けっぷりを聞いて、俺はさりげなく距離を取りながら、市川の意図を組む。
「お前の期待はよく分かる。要は、二次元女子に触れるんじゃないかってことだろ」
「そうだよ! いや誰だって一回は思うだろ⁉ 画面の向こうの美少女に触れてみたいって! はじめもレヴィアたんの羽根とか触ってみたいだろ⁉ 頭撫でてみたいだろ⁉」
ったりめぇだ、このすっとこどっこい。
だがな、市川。おかしいと思わないか?
もし【ホロアクティ】にそんな期待通りの性能があったら、俺はさっきの配信を立体映像で見てたさ。レヴィアたんの3Dに触れてたさ。
でもそうしなかった。
その訳を、今ここで実演してやろう。
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