2着目 娯楽の少ない人生を送ってきました

 うわぁ、この天使ドSだわ……。

 そして推しがいじめられてんのに、横で爆笑してる友人も絶対Sだ。

 チャット爛では、リエルの【レビ虐(いじ)】の手際が神懸ってると大盛況。次から次へとコメントが投稿され、流されていく。


「分からん……なんで好きな虐めて盛り上がるのか……」

「えー? いや、まぁそういう文化としか言えないかなぁ」

「奥深し、Vtuber……」

「そんな深い意味はないんだけどなぁ~。はじめってホント浮世離れしてるよな」


 そうだなぁ。

 俺の前職は、ファッションデザイナーだった。

 母親が日本最高峰のファッションブランド【Siiシィ Forteフォルテ】の社長。後継ぎ教育か知らないが、中学入学と同時に、ひたすら服を縫い続けるお手伝いをさせられ。


 そして15の時に、母のコネで作品集コレクションを任されたが売上けっかは大コケ。その後も一応、学生デザイナーとして活動していったが――17になった今年の春、ついに母に見捨てられ、今に至る。そう振り返れば漫画・ラノベ・アニメ・ゲーム……娯楽と言えるものとは縁遠い人生だったなぁ。


 市川は金色に染めた髪を後ろに流しながら、転校当時の俺の様子を語っていた。


「いやー完璧ガラパゴスの住人だったよな。海原クラスの中の孤島だったもんな。連絡先聞いて、住所書いたメモ渡された時はマジ混乱したね」

「その節はどうもお世話になりました」


 俺は感謝の意を込めて深々と頭を下げる。

 すると市川は「真面目か」ってまた笑った。いや、でも冗談抜きで市川がいなかったら、俺、間違いなく高校生活に馴染めなかった。


 それに、市川がレヴィアたんを布教してくれなかったら……この世界を知ることもなかった。


 カキィン! という音が鳴る。

 カーピィの振るう木槌がガノンゼルフを吹っ飛ばした。


『あっ! やった! やったやった倒した! 倒せたよ! アドバイスくれた眷属達ぃー! ありがとぉーーー! ほんとにほんとに、ありがとぉーーーー!』


 ありがとうと連呼して、無邪気に喜ぶレヴィアたんが微笑ましくて、目を細める。

 所詮は他人事。他人がゲームをやってるところを眺めてるだけなのに。

 なんで、こんなに癒されるんだろうな。


「市川ぁ」

「なんだー?」

「――ありがとな、俺にレヴィア様を教えてくれて」

「大げさだなぁ。市川さん、照れちまうぞ。……まっ、そこまで言ってくれたら布教した甲斐があったわ」


 市川はおどけるように肩をすくめてみせた。そのタイミングで放課後に居残った生徒に『帰れ!』と告げるチャイムが鳴り始める。


だが配信はまだまだ続く。なら……後は分かるよな。

市川の顔を見て、俺達は言葉無しに頷き合う。

帰るわきゃねぇだろが‼


『はーい、それじゃあ後9勝です! 頑張ってくださいね、レヴィア様ァ? リエルも張り切っちゃいますからァ~♡』

『ふっ、魔王を降したわらわと桃色の悪魔ならば、9連勝など容易い……え、リエリー? なんでキャラ変えて……ヴァイク⁉ ゴリゴリの強キャラではないか⁉ ちょっ、手加減して⁉ これ配信終わらな……イヤァァァァーーーーーっ!』


『レヴィアたん、絶殺ぜっころ入りまーす♡』

『手加減してください……お願いします。手加減を! 慈悲を! 愛をくださいぃぃ~~~!』


 刹那、宵月レヴィアの眷属達は一様に悟る。スパチャを贈るのは今だと。


 俺達は揃って、なけなしのバイト代を赤いコメント欄に変えた。

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