第2話


 現在午前六時三十分。

 エレベーターの中。

「中を開けろ」

 ダッシュケースの中に物騒なものが入っていた。

「拳銃って何に使うんですか」

「護身ようだ。別に殺すためじゃないさ」

「リボルバーですよ」

 中に入っていたPCを落としそうになった。

「ゴム弾だ安心しろ」

「重い」

「頭を狙えよ」と言い僕にも拳銃をくれた。

 ドアが開く。

 慌てて腰後ろに隠した。


「これが死体ですか」

 目の前のカプセルホテルの人が眠るようなところに死体はあった。

 僕は死体を見るのをこれで四度目だ。

 母方のおじいちゃん、おばあちゃん。

 そして父方のおじいちゃん。

 そして今。

 とうわけで、僕は、こんなことに目を眩んでいた。

 死んだ人間を見慣れているわけではない。

「沖縄県警から連絡がありました。ただいまもってして、把握探偵事務所、私がこの現場を管轄します。以下の禁止事項を皆さんに配ります」

 みんなは紙を渡していくショウコさんを見ていた。

 外に出るなとか、捜査が終わるまでここの客を泊めておくとか。

 みんな集まり死体をもう一度確認した。

 三畳程の広い一部屋だった。

 死体は仰向けの状態で、首が思いっきり絞められていた。

 どんなに苦しかったのかわかるのが、首にある手の引っ掻いた後だ。

 日本人、身長おおよそ百七十五センチ。

 細い、中性のような顔立ちの男性。

「クンクン、死んで三時間後だな」

「匂いでわかるんですか」

「下の匂いでな」たしかに、部屋はその匂いで覆いつくされていた。「名前は?」

 ホテルチェックインをする女性に聞いた。

「喜望シユウ二十三歳です」

「あの喜望財閥の?」

「いとこだって自慢してました」

 あーいるいる、人脈を自慢したがる奴。


「ショウコさんこれって」

「ああそうだな自殺という可能性もある」

「手の跡でそれは……」

「あくまで可能性だ」

「すべてを見通すって…… 可能性は一つずつつぶして行きましょうよ」

「推理というものはすべての可能性を導き出すということでもある。その中から本物を出すんだ」僕を見た。まるですべてを任せろと言っているようだ。「みなさん、お集まりましたか。では私から自己紹介をさせてもらいます。把握ショウコです。死体は県警に渡します」

 いまこのマンションで滞在しているのは、7人。


 日本人の翼哲郎つばさてつろうさん、男性、四十五歳、身分調査ということで何か手がかりとなるものはない、保険証もないなんて一体どういうことなんだ。

 少々ハゲており若干太り気味。身長と体型が僕とそっくりという感じだ。

「犯人はこの中にいますよ、僕ではありません」

 そして、匂いがワキガくさかった。

 緊張している、いやそんなことはないよな。

 一番あやしいのが逆に、怪しくさせなかった。

 まあこんな人が犯人なのはありえない。

 なぜなら一番怪しいからだ。

 こんなメタ推理をしていたためか、この人ばかり注目していた。

 それを感づかれた。

 翼さんはこちらを睨んでいた。

 この人犯人でしょ。

 ショウコさんが僕の足を踏んできて、こちらからもにらまれた。


 次にこちらも日本人、灰田泊はいだとまりさん。

 この人は、きれいな和服を着ていた。

 茶色の端物をしている。

 腰には木刀が刺さっていた。

 中二病?

 と思ったら、こちらを見ていることに気が付いたのか、手と腕のの入れ墨を見せてきた。

 なんだなんだ。

 これは反社じゃないか。

 日本の警察が出ないわけだ。

 こんな状態の人間が人を殺すのか。

 それはない。

 いくらなんでも、そんなことはありえない。

 おいおいたばこをこんなところで吸うな。

 部屋一面、煙に覆われるのはそんなに時間はかからなかった。

 こわい。

 あまり見ないでおこう。

 身分証明の品は保険証であった。

 あとタスポも出してきた。

 ここはコンビニじゃないんだよ。

「なんや嬢ちゃん、いいケツしてワシをうたがってるんか」

 大阪人まるだし。

 なんでこんな絵に描いたような人間が、いるんだ。

 反社丸出しだしケツ丸出し、もっと隠すようなことしないかな。

 ショウコさんがちらりとジャンバーを捲らせて、その男に何かを見せつけた。

「えらい物騒やのう」

 しくしく、下がる。

「ええ、まあ話がわかるようで助かります」

「こわい、わかあった、おとなしく自己紹介をする」

 声が裏返っていた。

 独身三十八歳。

 身長は、僕の一回り上の百八十。

 体重は七十五キロ。

 体重だけは僕と同じようだ。

 それだけで、納得した。

 体を鍛えているから、殺すのもたやすい。

 この人も怪しくなってくる。

 まあ翼さんのほうがもっと怪しいけど。


「ジャルマ・ビン・セトワールです」

 英語しか話せないようだった。

 なんとショウコさんは英語を話していた。

 僕は英語のことなんてまったくとわからない。

「元軍人、沖縄が忘れきれなくて、もう一度、渡日した」

 俺にわかりやすく教えてくれた。

 なんだろう。僕に教えるのやめてもらっていいですか。

 まるで僕がボスみたいじゃないか。

「ユーアフローム?」

「沖縄、ユーアーフローム?」

「US」

 何とか会話できた。

 なんか気に入れられたのか長文で聞いてきた。

「He can't speak English well」

「おk」

 どういうことだ。

 英語の偏差値二十の僕が理解できない。

 や、や、でショウコさんに頼んだのであった。

 これは本当に、どうしようもないぞ。

 なにより僕を見ているのがなんともいやらしい。

 ケツをずっと見ているのだ。

 怖い。

 ホモ、それとも自意識過剰。

 どっちにしろ笑えない。

「おk、おk、ファッキンホット」

 確かに沖縄は熱い。

 秋というのに、こんなにも熱いのはしょうがないものだ。


「あ、あーしは右田ネムだよ。よろしくね」

 突然と目の前に現れたのは女性。

 あはい、よろしくお願いします。

「元気ないねどうしたんだい、おねーさんが解決してあげる」

「今日オールしたんで」

「なるほどね」

「さすがにここまでくると、立ち眩みがしてきます」

「そういう時は追いビール!!」

 ビールを渡された。

「あの~仕事中なので後でもらいます」

「刑事さんだっけ?」

「いや助手です」

 なんだなんだとずけずけとショウコさんが引っかかってきた。

「今日が初めての仕事でな。案外感はいいかもしれない」

「何それウケル」

 説明はいらない。

 化粧でごまかしているが多分三十代なかば。

 出会いを求めてやってきたって感じだ。

 そんなんでいいのかね。

 いやダメだろう、僕みたいな人間をターゲットにするなんて。

 確かに最初の第一印象は、大事だけどさ。

 それでも、なにか違うことがある。

 人が死んでるのに、慣れていることだ。

 僕は慣れていない。

 だから僕の元気がなくなったのかもしれない。

 ”初めての現場“というものが僕には荷が重かった。

 ネムさんの胸は大きく、服はだぼだぼ。

 もしかしたら太っているのかもしれない。

 いや、これは巨乳だな。

 最高。

 身分証は保険証。

 神奈川の住所が載っていたので、神奈川の人だろう。

「人死んで緊張してんやろ」

「いや、童貞なので緊張しています」

「なにそれ~ きっしょわら」

 ん? わらは余計じゃないか。

 いちいち言葉に出すだなんて、携帯の変換が頭のなかにある人なのかな。

「思った言葉がそのまま出る人は嫌いです」

「えなに、怒っちゃった?」

「いい加減にしないとぶっ飛ばすぞ」

「ひいいこわ、近寄らんとこ」

「うそです」

「だよね~」

「私の家来はビビりでな、よく言うだろ、弱い犬ほどよく吠えると」

「いつからあなたの家来になったんですか」

「そんなもの最初の契約書にサインしたじゃないか」

「そ、そんなー」

「「あり得るかも♪ミルク色の異次元♪」」

 動物ブレイカーだっけ。

 確かそんな名前のアニメのフレーズだったはずだ。

「ココアちゃんが泣いてるぞ」

「かわいそう」

「せめて三次元の人にしてもらえませんかね」

「誰もおまえを好きになる人なんていない」

「え、それはそれで悲しい」

「あーしはDV男大好きですけどね」

「三十代膣の呼吸」

「きゅんきゅん」

「ひどいよ二人して」

 泣き真似をするあーしことネムさん。

 無事このおっぱいが揉まれますように。

 ちなみに僕はロリコンだ。

 だから発情なんてしなかった。


 閑話休題。

 それから五人目の登場。

 そしてひっそりと声を上げたのを遮ったショウコさん。

「もしかして、キョウコじゃないか」

「はあ、ばれた」

「どんだけ声おとしてたんだよ」

「ショウコさんに見られたくなかったからだよ」

 身長は僕と同じくらい大きい。

 こんな巨大な女の子に囲まれてなんとなくだが、うれしい気分になった。

 あれキャラ設定はロリコンと書いてあったのに。

 それとホモが一人いるぞ。

 後二人も女性だ。

 合コンかな。

「合コンできますね」

「同じことを二度も言うな」

「あー俺この人に思考盗聴されてる」

「統合失調症めが」

「やかましいわ、それでショウコさんとはどんな関係なんですか」

「旧友だな」

「やだな今も昔も親友ですよ」

 僕の言葉に何かあったのかこういった。

「高校で美脚シスターズと呼ばれていたよ」

「よくしゃべりましたもんね」

「父親の稼業を継いだんだろうあれからどうなったんだ」

「コロナで失業しました。貯めたお金で沖縄行こうかなって」

「なんそれうけるわ」

 あ、僕の声。

 口調が馬鹿になってるって?

「あーしは馬鹿じゃない」

「うけるかああああああああああ」

「ひいい、ごめんなさい」

 僕の調所ぐちゃぐちゃだよ。

「大変だったんだな、フミも送らずすまない」

「大丈夫ですよ、失業保険で食いしのげますから」

「どうせなら私のところで働かないか?」

 聞いていてのはショウコさん。

「先輩に助けられっぱなしはだめですよ、私で犯人をさがしますから」

「頼もしいな、聞いたか犯人三対一だぞ」

 ショウコさんを人の居ないほうへと呼んだ。

「キョウコさんが犯人だったらどうするんですか」

 ひそひそ声、大丈夫だ聞こえてはいないだろう。

「昔っからドジだから大丈夫だ」

「それまったく信用できませんよ」

「いいんだよ」

 そして僕は、ネムさんの近くに座った。

 おっぱい当たらないかな。

「なに話してたの?」

「今夜一緒に眠れませんかということをですね」

「私と寝ましょうよ」

「自分ロリコンなんで」

「ほかの二人が軽蔑してるよ」

「いえ私たちは「きにしないでください」

 二人の同じ顔をした双子が話しかけてきた。

 どうやら息がピッタリ合うようだ。

 そして紹介は二人に渡った。

 中学生の子供のようだった。

「タイショウさん「私たちはツクとヨミです」」

「なんか違うんだよな」

「何が「ですか」

 俺は小学生がいいの。

「じろじろ「見ないで」

「無し」

「私たち「私たち拒否された⁉」

「おい下僕、いいやロリコン」

 酷い 呼び名。

 まあ合っているからどうしようもなかった。

「なんですか」

「タイショウなんて言いずらいだろ」

「じゃあ下僕で」

「自分で自分を下僕というんじゃない」

「そうですか、ならショウで」

「ショウか」

「そりゃめでタイショウ」

「よーポン‼」

 腹をたたいた。

 みんなして笑っていた。

 よかった、この中には犯人はいなそうだな。

「みんないい人ばかりですね」

「それは思ったよ」

「犯人はいなかったということで。そういうことで今日は出直しましょう」

「お前寝たいだけだろ」

「なんでわかったんですか」

「目がとろりとしているからな」

「そんなに、じゃあコーヒーでも買ってきます」

「オレンジジュースで」

「わかりました」

「ワイもコーヒーや」

「あーしはサイダー」

「俺はコーラで」

「「私たちは」天然水があるのでいいですよ」



 これで七人の紹介が終わった。

 見事に奇人変人だらけだ。

 こんなことってありえるのか。

 ネムさんの太さだったら殺してしまうこともできるだろう。

 みんなそれぞれできるといった感じだ。

 キョウコさんはあり得ない。

 ショウコさんが言っていたから本当だろう。

 しかし美脚シスターズってなんだ。

 恥ずかしくないのかな。

 ロリコンでよかった。

 ネムさんもキョウコさんも、それなりにかわいいからだ。

 ハニートラップだとしたら、ありえないだろう。

 正直だれが殺しているのかわからない。

 誰も殺せないと思う。

 そんなこんなで袋にジュースを入れて運んで行った。

 自動販売機はホテルの受付の近くにあったからだ。

「「タイショウさん」」

 双子が話しかけてきた。

「何でしょうか?」

「食べ物はどうしたら」私たちなにも食べてないんです」

 そうだなあ。

「ショウコさんに聞いてみましょう」

「「はいそうしてください」」


「ショウコさん飯はどうしましょう?」

「お前の給料で寿司でも出前たのむか」

「二人で分け合いましょうよ」

「ケチだなそれでも男か」

「わかりました、僕の金で」

「上出来だ。また一つ借金ができたな」

「どれだけ頼むんですか」

「十人前とノンアルのアサヒだな」

「くそーーもう好きにしてください」

「明日まで続いたら私が払うよ」

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不幸体質な俺が推理小説に出てくるような女性に雇ってもらった件について ガブリアス @Tosa_Miruku

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