不幸体質な俺が推理小説に出てくるような女性に雇ってもらった件について

ガブリアス

第1話

 僕は逃げた。

 昔から不幸体質だ。

 なんだってこんな不良に追われているからな。

「土管にコンクリートでこの沖縄の海に埋めてやる」

「まてこらああああああああああ」

 怖い。

 名前がタイショウという名前なのに、こんなに悲惨なことはない。

 でもいいんだ。

 それが僕なんだ。

 生まれてこのかた、この不幸体質には慣れっこだ。


 そうして逃げることに成功した。

 よしと神様であるこの十字架にキスをする。

 不良に会うときはいつもこれだ。

 慣れっこではないがしょうがなくもない。

 所持金は三千円。

 家から離れて見ようとしたけれど、そんなに上手くいかないものだな。

 でもいいんだ。

 そんな僕でも独り立ちしようと、徳之島からやってきた。

 そして朝も過ぎて、昨日から何も食べていない。

 そんなとき、一つの張り紙を見つけたのだった。

『把握探偵事務所、現在助手を探しております。我こそはというものはこの連絡さきまで、ちなみに社宅、あなたが優秀ならばボーナスも出ます』

 こ、これは……

 やるしかない。

 死ぬならここで死のう。


 俺は親に捨てられた。

 いいや、二十三なのに老後の世話をしまいなのが僕には納得できなかった。

 そしてユーチューブに無断転載をしていたゲームのBGM動画を、広告収入でなんとか2万円をゲット。

 つまりはそういうことだ。

 沖縄までは船できた。

 そんなこんなで携帯はまだ使えるようなので連絡をしたのだ。

 こんなことあり得るか。

 財布を見るとキャッシュカードがない。

 ありえねえよ。

 僕これからどうするんだ。

 怖い。

 不良に襲われた恐怖よりもこっちのほうが高かった。

 これから先の不安。

 そんなことより、電話だ。

「もしもし」

「おうやっときたか」

 どうやら若い女性のようだ。

「おはようございます、こんな朝からすいません、募集の張り紙をみて電話をしました」

「そうか、ならそちらに向かう」

「あの……」

「なんだね」

「お金貸してもらえませんかね」

「それもあとで話そう」

「わかりました」


 最初の印象はそっけない人という印象だ。

 それが僕の上司になるんだから多分やっていけないかもな。

 まあいいか。

 数か月してお金もたまったら、さっさと東京に行こう。

 漠然と東京に行けばなんとかなると思っていた。

 それが、僕の運命的ななんとかになるとは思ってもいなかった。


 しばらくすると、とぼとぼと赤いジーンズに、赤のポロシャツ。

 そして、黒いサングラス。

 なによりも長髪に驚いた僕であった。

 まさかこんな田舎くさい沖縄に、こんな人がいたのかと思うと、なんとなくだが、衝撃を受けた。

 今のは沖縄の人に失礼だな。

 ごめん先に誤っていることを謝っておくよ。

 今日は洒落も効いているな。

 なぜならかなりの美人だからだ。

「声からしてクラスの端っこにいそうな人間だと思ったら思ったよりイケメンじゃないか」

「は、はい」

「ところでなんで僕だとわかったって、そりゃあ、服装のイメージがその通りだったからだよ」

「なんで僕の思っていた、独白を読みきったんですか」

「そんなの簡単さ」

「こわいですよ、まるで僕の心の中をのぞかれているみたいで」

「のぞいてはいない、読唇術の一つさ。口を動かす癖があるだろ、それはキモイからやめたほうがいい」

「もう好きにさせてくださいよ」

「名前は把握ショウコ、見ての通り探偵さ」

「佐部タイショウ、二十三歳です」

「今はやりのキラキラネームか、まあお前さんが生まれた時代にはキラキラネームなんていう洒落た言葉はなかったな」

 まあいい、入れと言われた。

 僕ははい、と一言告げて、二階にある探偵事務所に足を運んだのであった。

 部屋は散らかっていた。

 よく天才の部屋は散らかっていると聞くが、まさにその通りだとこの部屋を見てわかった。

 彼女はいままで孤高の天才だったのだろう。

「ところでうちの収益は国から来ている」

「どういうことなんですか、国から来ているって?」

「国が経営しているといって過言ではない、危なっかしい仕事が多くてな、国の補助金がないとやっていけないんだよ」

「なんですかそれ」

「だから手始めに言っておく、お前はこの仕事続けられるか」

「やります、僕がやります」

「それと一つだけ……」

「なんでしょうか」

「この沖縄は世界各国から狙われている場所でもある」

「そ、そんな戦場なのですかここは」

「そこに銃があるだろ」

 おそるおそる後を見る。

「あれってエアガンですよね」

「正真正銘のガンだ」

「ひいい」

「まあお前に向かって撃たない。それだけは信じてくれ」

「約束ですよ」

「かっこよく自分ごと撃てと言ったら迷わず撃つがな」

「でもどんな仕事内容なんですか」

「よし仕事の始まりだ」

「ここ探偵事務所ですよね」

「ちょっとその前に煙草を吸う」

「ちょっと聞いてますか」

 僕の話はまったくと聞いていない。

 こんな人と仕事続けられるかな。

「社宅完備といったが、ここがお前の家になる」

「へえ、じゃあ今日は片付けで終わりそうですね」

「何を言っている仕事はこれからだぞ」

「じゃあ今日はどんな仕事を?」

「とあるカプセルホテルで事件が起きた」

「なんですかそれは」

「寝込みを襲った殺人事件、中国人のスパイと思われるらしい」

「それならすぐに逃げますよね」

「殺人者の心理がわかってないな、普通なら演技をして滞在しているだろう」

「なるほどね」

「ああつまり、まだ犯人はその中にいる」

「これは探偵事務所らしくなってきましたね」

「わくわくするだろう」

「ヒトが死んでるのにわくわくなんてしませんよ」

「じゃあぞくぞくするだろう」

「は、はい」

「じゃあ私たちもいくぞ」


 結局一睡もしてない。

 眠くなってきたのが、朝なのに納得がいく。

 いままで家では、朝に寝てたのがそのままだった。

「ほら」

 そして、ショウコさんからブラックコーヒーを渡された。

「最初だからな」

 なんとかっこいい女性なんだ。

「ショウコさん」

「なんだ」

「お金貸してください」

「いくら必要なんだ」

「一万位」

「まあいいぞ、給料前払いでもいい」

「僕が辞めたらどうするんですか」

「国からもらったお金だからな」

「でも実際にいたんですか」

「私はいままで一人でやってきた」

「なるほどね」

「いまは、仲間ができてうれしいよ」

「僕、働いた経験がないんですよね」

「それは知っている」

「なんでわかったんですか」

「いきなりお金かせって電話でいったじゃないか、まさに乞食、いままで育ててきた親にもそんなことを言ってきたんだろう」

 ずしりと心にささることを言ってきた。

 ありえない。

 なんでいままで無職でいたことがわかったんだ。

「無職なのは、お前がワキガだからだ」

「なんでそこまで」

「ケアもせず学校に行って、友達はおろか、恋人はいない、そしてなによりもいじめられてきたんだろう」

「そこまでわかったんですか」

「怖いか、まあ昔からズケズケものを言ってきたから、友達がいないのはお互い様だな」

「そうなんですか」

「どうだ、まあ初対面とはいえ、お前が私にびびらなかったのは褒めてやる」

「王様みたいなこと言わないでくださいよ」

「私の王圧に屈したか」

「どんな圧だ」

「なんだ、ビビらずお金貸してって言ったのもお前は私の懐を狙ってきたダメ男ということだな」

「うるせえ」

「調子に乗ってきたな、どっちが上か経験人数で競おう」

「0だよ」

「私は0だ」

 お互い譲らなかった。

「美人がもったいない」

「そういうお前こそ、顔がもったいない、まあ百七十五センチある私より小さいからな」

「日本人の標準百七十はありますよ」

「ひょろがりと思ったら腹が出てたり」

「ビール腹なんですよ」

「二十三でビール腹なんておかしいな」

 笑ってきた。

 たしかに僕はビールが好きだ。

 そしてなによりも酎ハイが大好きだ。

 そんな自分が大好きだが、こんなに馬鹿にされるとは。

「ショウコさんこそタバコくさいですよ」

「いいだろタバコぐらい」

「そんなんで彼氏見つかるんですか」

「犯人は見つかる」

「いいこというじゃないですか」

「まあな」

 信号に止まった。

 車はBMW相当国からお金をもらっているんだな。

「そういえば時給は?」

「日当一万だ」

「へえ、それはすごいことで」

「毎日、休みなんてないぞ、監視するのも私の仕事だからな」

「監視するって何人を監視するんですか」

「いろんな人種だよ」

「沖縄って相当やばいんですね」

「米軍の基地があるからな」

「そうか……テロとか」

「テロはおこらん、日本の警察は有能だからな」

「じゃあなんでほかの国は沖縄を?」

「日本の裏ボスが住むところだからだ」

「へえ」

 裏ボスってなんだ。

「ヤクザとかですか?」

「まあな、山田組とか松下組とかいろいろいるぞ」

「治安がいいのがおかしいよ」

「私のような女がいるからだよ」

「たのもしいな、それよりも僕みたいな一般人がこんなことに首を突っ込んだのが間違いでしたね」

「あの時覚悟したんだろう?」

「まさかこんな危ないところだったとは思いませんでしたよ」

「まあな、犯人に殺されるなよ」

「なにそれフラグじゃないですか」

「不幸体質って最初に言ってたじゃないか」

「そんな不幸体質ってでも…… 最初から僕を見張ってたんですか」

「まあな、私に連絡をくれるのもわかっていた」

「なんですかそれは」

「まあ進んで私たちの裏の奴らの仲間になってくれたのは好都合だけどな」

「何者かの掌の上というわけですか」

「まあな、近くにいるからこちらとしても好都合だ」

「アムコに借金してでも家に帰ればよかった」

「もう家族は捨てたんだろう、いいじゃないか」

「でも、やっていける自身がないというか、監視されたくない」

「なあに今時どんな奴でも監視されているさ」

「スマホとかで?」

「人工衛星だ」

「そんなことがあるんですか」

「まあな」

 車は信号が変わり発進した。

 途中子供が歩いていたため、停止して発進したのだった。

「何か質問でもあるか?」

「ショウコさんって恋人とかいるんですか?」

「経験人数0だぞ」

「まあ美人だからいると思ってた」

「そんなに私が美人か」

「まあ」

「実はな昔はいた」

「へえいつぐらいに」

「高校時代だ」

「悪い人?」

「なんで悪い人になるんだ」

 笑いながら彼女は言った。

「同級生でな、とうの昔に天国へ旅立ったよ」

 遠くを見るような目になった。

「すいません、さみしいこと聞いて」

「いいんだ、たまに思い出すだけでもいい供養になるだろう」

 すこし沈黙が流れた。

 今日あったばかりなのに、正直に話すなんて。

 多分いい人だなとわかった。

「ちょっとワキガくさい、まど開けるぞ」

「いい人だと思ったのに、ってか僕が配慮して開けてるのに」

「やかましい」

 ウィーンと窓が空く。

「いい人だったな、よくだまされる奴だったが」

「僕みたいな人なんだ」

「お前は賢いからだまされん」

「でも、だまされたことありますよ」

「お前は世間をしらないだけだ」

「いいますね、もう降りますよ」

「前からトラックが通ってきてミンチになるだけだぞ」

「久しぶりにこんなに人としゃべりましたよ」

「お前は意外とおしゃべりで、女たらしってだけはわかった」

「高校時代それとワキガでいじめられてましたからね」

「調子に乗るからだ、常に一人を狙わないと」

「なんですか、女だってぴっぴってキープするだけなのに」

「乙女は勝手でいいんだよ」

「んなむちゃくちゃな」

「お前は乙女がどんなものかわかっていない」

「それはあります、ショウコさんのことまったくわからないもん」

「どんな好みの女性かわかるぞ」

「へえ、ためしてみますか」

「あそこでしょんべんをしているババアだな」

「せめて若い子にしてください」

「じゃあ、あのジジイだな」

「男の子になった」

「ははは、ジジイを男の子って」

 腹を抱えて笑っていた。

「酷いですよ」

「わるかった、意外と私との相性もいいのかもな」

「あんたみたいな上から目線で馬鹿にする人嫌いですよ」

「常に上から目線で何が悪い」

「こわい逆らうのやめます」

「だいたいなお前くっさいんだよ」

「ワキガ関係ないじゃないですか」

「おおありだ」

「どんな」

「女性は匂いに敏感なんだ」

「へえ」

「関心するな、私だって女の子だ」

「きれいな返し、反撃したつもりだったのに」

「これでも週に一回は美容師にいくぞ」

「どうでもいい情報きた、誰も聞いてないぞ」

「しかしお前はこんなにもおしゃべりだったとは」

「そんなことより、なんで僕がキープされていじめられてた話も知っているんですか」

「私の指示だからだ」

「もうかなわないよこの人」

「まあいいだろう」

「そうですね」

 そしてついたのであった。

 那覇カプセルホテル。

 五階にあるとわかった。

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