3の扉

 目が覚めると、私はやはりあの部屋のベッドに居た。ベッド横の戸棚の上に、まるで部屋を照らしているかのように燭台が置かれていた。窓に目をやると、カーテンは開いているのに真っ暗で何も見えなかった。私は窓に近付き外の様子を窺う。外は雨が降っているようだった。雨音すら聞こえないが、確かに雨は窓を叩きつけている。

 私は窓から離れ、扉をまた右から開けてみた。私の考え通り、右端の扉も真ん中の扉もびくともしなかった。私はいよいよ左端の扉に手をかけた。他の二つの扉と同じく、木で出来ている扉は蝋燭の光を浴びて、金色の取手が怪しく光る。私は深呼吸をして最後の扉を開いた。

 扉の向こうは暗闇が広がっていた。黒を黒で塗りつぶしたような、光という存在を一切許さない、そんな暗闇。私は蝋燭で中を照らしてみようと試みる。しかし、蝋燭を持った私の手は暗闇に差し込んだ途端見えなくなってしまった。勿論、蝋燭も一緒に。

 私は少し怖くなって手を引っ込めた。手は無事に蝋燭を持ったまま戻ってきた。私は片方の手をもう一度伸ばす。暗闇に沈み込むように、吸い込まれるように、飲み込まれるように、私の手はまた暗闇の中に消えた。そのまま指を動かしてみるが、動いているという感覚すらない。

 試しに蝋燭を、扉の外へ放り投げた。蝋燭は暗闇に吸い込まれ、消えた。落下音でもしないかと耳をすませていたが、一向にそんな音は聞こえてこない。私はつまらないな、と暗闇に今度は両手を伸ばす。このまま、暗闇に飲まれたら。どうなるだろうか。もう一度、この部屋に戻ってくるだろうか。

 私がそんなことを考えながら、手を引っ込めようとしたその時、暗闇が私の手を引いた。私は、暗闇に吸い込まれるように飛び込んだ。

 私は、暗闇の中で永遠になった。


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自殺志願者の夢 @Akatuki-217

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