2の扉
暗い。遠くに、一筋の弱い光が見える。私は光の糸を目で辿る。硝子を包んだ布の間から、それは漏れているらしかった。
私ははっとして起き上がり辺りを見渡す。カーテンの少し開いた窓と、三つの扉。さっきの部屋だ。ずぶ濡れだったはずの髪も服も、何事もなかったかのようにシーツの上に広がっている。
私は扉に目を移す。暗くてよく見えない。カーテンが閉まっているのを思い出し、ベッドから立ち上がる。カーテンから漏れる光を頼りに窓に近付き、カーテンを開ける。雲一つなかった空は今にも降り出しそうなくらいに暗く、月は雲の陰からちらりと顔を覗かせる程度に光を反射していた。
弱い光が照らす部屋の中を移動し、さっき開けた扉をもう一度開けてみようと取手を回す。しかし扉は壁に貼り付いているかのように動かない。私は諦めて真ん中の扉を開けた。
暗闇の中、非常灯が並ぶ廊下。一歩踏み出すと柔らかな布の感触と固い地面が足に伝わる。短い廊下を抜けると、スクリーンを正面に並ぶ客席が出現した。どうやら映画館のようだ。
私は小さな劇場をぐるりと見渡すと非常灯のみを頼りに客席の階段を上り、中央の席に腰掛けた。スクリーンは何も映し出さない。私は身を包む椅子に身体を沈ませ、目を閉じた。遠くから微かに匂うポップコーンの香り。少し暖かく感じる空気。突然光が私の瞼を照らし、私は目を開けた。
スクリーンに映し出されていたのは、燃え盛る炎。私は嫌な予感がして立ち上がった。階段を駆け下り、非常灯が淡く照らす廊下を駆けて劇場と部屋を繋ぐ扉を引いた。その瞬間、熱風が私の身体を包み込む。扉の向こうは、炎の海だった。私は急いで扉を閉め、反対側の扉へ走る。が、こちらは既に扉ごと燃えていた。どうしようもなくなった私は、諦めて部屋のベッドの上で目覚めることに期待した。炎は劇場に侵入し、劇場内の空気を侵食する。小さな劇場はあっという間に炎に包まれ、私は客席に座り目を閉じながらその空気を感じていた。そうして酸素を喰い尽くされるまで、心地良い椅子に身体を預けて、徐々に意識を手放した。
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