第89話 オスマンからの依頼
アリスが【オラトリオ】に加入してくれたおかげで、メンバーの総数も五人となり戦力は大幅に上がった。
現在【オラトリオ】に在籍している者達の職種は剣士が三名、アーチャーが一名、そしてポーター(兼剣士)が一人だ。
近接戦闘職ばかりの構成にも見えるが、全ての冒険者を職業別で分けてみると七割近くが剣士や戦士と言った近接戦闘職となる。
剣士や戦士が多い理由は最も一般的で剣術を覚えればなれるからだろう。
魔法や弓などといった職業はスキルやセンスが大きな要因を占めるので、最初に篩に掛けられてしまうので、数が少ないのは仕方ない。
なので俺達のパーティーも普通によく見る一般的なパーティー構成だともいえる。
全員が剣士のパーティーも意外と多い。
俺達は遠距離職のダンがいるだけでも恵まれていると思って良い。
剣士が多い事が悪いとも言い切れない。
剣士の数が多ければそれだけ、陣形や戦闘方法が研究されているという事で、剣士の為に戦術や戦闘方法や、剣士特化のアイテムなどが開発され続けている。
俺達は全員で話し合った結果、前衛に三名が横並びで進む陣形を採用した。
前衛に三人配置するメリットは魔物が現れた時に、複数人で素早く対応できる事と警戒できる範囲が広くなる事。
次に中衛として俺が入り、全体の指揮とアイテムによるサポートを行う。
勿論、俺も適時、戦闘に加わるつもりだが、基本的にはサポートに徹する。
【
後衛は弓で攻撃が出来るダンが入る。
ダンもかなりの場数を踏んでいるので、今更俺がとやかく言う事は無い。
俺が何も言わなくても、状況に合わせて絶妙なタイミングで援護を行ってくれる。
今では戦況を優位に進める為に欠かせない存在へとなっていた。
やはりガリバーさんにダンを預けたのは正解だったと思う。
未来が見えるチートスキルと類まれなセンスを持つリオン。
化け物染みた親にも匹敵する戦闘力を有するS級冒険者のアリス。
真面目で堅実、間違いが少なく安心して仕事を任せる事が出来るリンドバーグ。
そして粗削りで調子に乗りやすくミスをする事もあるが、勢いがあり才能を開花させつつあるダン。
俺の下に集まってくれたメンバー達は誰もが才能あふれる者達だった。
俺がポーターとして色んな冒険者達とパーティーを組んできたが、このメンバー達が何処まで伸びるのか? それは俺でも予想できない。
それに俺も少しづつ自信がついて来た。
その理由はやはり【魔石喰らい】のスキルの存在が大きい。
このスキルは短時間だけならB級ダンジョンのダンジョンマスターとだって互角に渡り合える位に強力だ。
【魔石喰らい】のスキルを使いこなせる様になれば、S級やSS級ダンジョンにだって潜れる可能性がある。
しかし俺達はまだB級ダンジョンメインにアタックを仕掛けていた。
一度攻略したからと言って、余裕を見せていたら足元をすくわれてしまう。
何度もB級ダンジョンを攻略して行き、攻略出来るのが当たり前という状況が一番良いと考えていた。
そんな時俺は冒険者組合の呼び出しを受ける。
「オスマンからの呼び出しか…… あいつからの呼び出しなんて珍しいな…… 俺に何の用があるんだ?」
新体制でダンジョンアタックを始めようとした矢先、ギルドホームに組合職員が手紙を持ってやってきた。
手紙には俺に冒険者組合に来るように書かれており、俺は冒険者組合があるギルド会館に向かう事となった。
◇ ◇ ◇
ギルド会館の一階ロビーに着き、カウンター側の職員に声を掛けると、職員は確認の為に奥の部屋へと消えていった。
しばらく待っていると職員は戻り、俺を二階にある客間へと案内してくれた。
客間にはオスマンがソファーに座っていた。その後ろにはアニールと呼ばれていた女性も立っていた。
俺は勧められるまま、オスマンの向かいのソファーに座る。
「悪いな。わざわざ来てもらって」
「それは良いんだが、一体何の用だ?」
「実は、【オラトリオ】に受けて貰いたいクエストがあるんだ。その話の為に呼ばせて貰った。すまんな」
「お前には世話になっているからな。ギルドの職員を使ってまで声をかけてきたんだ。お前にとって重要なクエストって事なんだろ? 無理難題じゃなければ、協力するのは構わないが……」
「そう言って貰えると助かる。クエストの内容だが、実はある貴族の護衛をやって欲しいんだ」
「貴族の護衛?」
「そうだ。でも護衛と言っても屋敷の警備がメインになるだろう。実は依頼主は俺が世話になっている伯爵で、おさめる領地の端には鉱山もあってな。その鉱山で働く者達が最近暴動を起こしているらしいんだ。だから話し合いに行くらしいのだが、戻って来るまでの間、伯爵の屋敷を警護して欲しいと頼まれてな」
「なるほど、家屋の警備って事か…… まぁ、その位なら」
「もちろんそれだけじゃない。屋敷を守るのもそうだが、今回は一人娘が家に残っているみたいなんだ。だからその伯爵令嬢の護衛も兼ねる必要があるって訳だ。こんな重要なクエストは知らない奴等には任せられないからな」
「一ついいか? 貴族なら自分でやとった傭兵団とかいるんじゃないのか?」
「確かにお前の言う通りだ。しかし伯爵はその傭兵団を引き連れて暴動の首謀者と話し合いに向かうらしい。確かに丸裸で行く方が無謀ってもんだからな。母親は少し前に病気で亡くなったらしいから屋敷には一人娘だけになってしまう。傭兵団が居ない分、手薄となった屋敷を守る者が必要になったって訳だ」
「話の流れとクエストの内容はだいたい分かったが、その伯爵が話し合う期間はどの位なんだ?」
「俺が聞いているのは一、二週間位で帰れるとの事だ。まぁ、多少の前後はあると考えた方が良い」
「一、二週間か……」
俺がそう呟いた時、声が掛けられた。
俺に声を掛けてきた人物はオスマンの背後で様子を見守っていたアニールさんだった。
「ラベルさん、もし今回の依頼が成功すれば、貴族との接点がもてます。貴族との接点を持っていると何かと便利ですよ。本部長がわざわざ貴方に声をかけた意味をお考え下さい。」
「お前、何を言っているんだよ。早く部屋から出ていけ」
オスマンが邪魔くさそうにそう言った。
「本部長、もし【オラトリオ】様がこのクエストを受けるのなら、色々と手続きが必要となります。迅速な手続きを行う為に私が待機しているのです。私が部屋から出たら、本部長が面倒くさい手続きをやる事になりますが?」
どや顔でそう言い切るアニールの言葉を受けて、オスマンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
(どうやら今回のクエストはオスマンが俺の為に用意してくれたっぽいな。なら断る事は出来ないぞ)
俺はそう決断すると、オスマンに声をかけた。
「わかった、今回の依頼を受けさせて貰うよ」
「そうか。お前ならそう言ってくれると思っていたよ。アニール、手続きを進めてくれ」
「もう準備は出来ています」
アニールさんはそう告げると、そのまま俺にクエストの依頼書を渡してきた。
その依頼書に俺はギルドの名前と、自分のサインを書く。
「これでクエストは受領されました。今から詳細な情報をお伝えします。私について来てください。」
そう言うとアニールは俺について来る様に促す。
「ついて行けばいいのか?」
俺はアニールさんの後を追う様に彼女の後をついて行く。
移動の途中で俺はアニールさんに話しかけた
「どうやら、あいつが迷惑をかけているようだな」
「ラベルさん、誰が誰に迷惑を掛けているのですか?」
「いや…… いつもオスマンが迷惑を掛けているだろ?」
「私は部下で本部長が上司です。上司を支えるのが部下の役目です。お気になさらなくていいと思いますが?」
「それでもお礼を言わせてくれ。俺もオスマンには何度も世話になっているからな。オスマンの事をこれからも頼むよ」
「わかりました。では私からもお願いがございます。本部長はどうやら友人が少ないみたいですので、これからもラベル様が良き友人でいてくれればと思います」
「あぁ、任せてくれ」
その後、俺は正式にクエストを受領し、ギルドのメンバー達と共に伯爵の領地に向かう事となる。
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