第72話 白銀の世界
二回目のダンジョンアタックで、俺達はなんと一日で五階層にまで降りる事ができた。
それは普通では考えられない、まさに限界を超えた攻略速度だと言える。
その原動力は、サポートを名乗り出てくれた【グリーンウィング】のメンバー力だ。
彼らが絶えず先行し、進路上の魔物を全て倒してくれたのが大きい。
俺達はただ最短のルートを突っ走るだけで、気付けば五階層にたどり着いていた。
その後も【グリーンウィング】のメンバーは互いに連携を取りながら、ポーションを湯水の様に使い、最後まで殆ど変わらない速度を十階層まで維持し続けてくれた。
その結果、十階層にたどり着いたと同時に役目を終えた彼等は力尽き、次々に地べたにへたり込んでいく。
俺は【グリーンウィング】のメンバーの傍に移動すると、全員に向けて頭を下げた。
「君たちに無理をさせてしまった。たった二日で十階層に到着出来たのも全部みんなのおかげだ。本当にありがとう」
「いえ、私達に出来るのはこの程度の事です。私達も休憩が終わりましたら、地上へと帰ります。【オラトリオ】の皆様は早く十階層にお向かい下さい」
【グリーンウィング】を代表して、フランカさんが総意を述べる。
俺が【グリーンウィング】のメンバー全員に視線を向けてみると、誰もが満足した晴れやかな表情で笑っていた。
「お言葉に甘えて、俺達は今から先に進む。帰還時も気を付けて下さい」
「私達の事は大丈夫です。全員で力を合わせる事が出来れば、どんな相手であっても乗り越えられると分かりましたから。さぁ十階層に行ってください」
フランカさんはそう告げると、俺達を見送ってくれた。
「リオンちゃん、頑張ってね。絶対に無理はしちゃ駄目だよ」
「ありがとう、エリーナちゃん」
「ダンさんも気を付けて下さい。戻ってきたら【セカンドアタック】の話を聞かせて下さい」
「へへへ! このまま攻略してくるから、ハンネルも土産話を楽しみに待っててくれよな」
「みんな準備はいいな。俺達は今から十階層に向かう」
俺が手渡したフロアギミック用の装備を身に着けると、十階層に俺達は足を踏みいれた。
十階層は前回も攻略しているので問題は無いだろう。
俺の予想通り、ダンやリオンは此処まで一戦も出来なかった鬱憤を晴らすかの様に、現れる魔物を我さきとばかりに倒し始めた。
「いやぁ~、これは凄い。私が入る隙がありませんよ」
リンドバーグが感心した様子で嘘のない感想を述べる。
「リンドバーグの言う通り、確かに二人は強くなった。けれど、まだまだ実戦経験が圧倒的に足りないんだよ。だから必ず何処かでポカをすると思う。その時はリンドバーグ…… お前がフォローしてやって欲しい」
「分かりました。私がフォローできるなら、その時は頑張らせて頂きます」
リンドバーグは笑顔でそう言うと、五匹の魔物を相手取る二人をサポートする為に、剣を抜き二人の元へと駆け出した。
その後も俺達は順調に攻略を進め、二十階層へとたどり着いた。
ここまで来るのに掛かった日数は六日間で俺の予想よりも早い。
スタートは出遅れてしまったが、ここに来る日数で一、二日は巻き返しているだろう。
まだまだトップとは差をつけられているが、この分で行けば何処かで追いつける可能性は十分にある。
★ ★ ★
二十階層は一面が雪景色で、このステージには雪に紛れた魔物が生息しているとの事だ。
「うわぁ~、すっげぇぇぇな。見える限り真っ白じゃねーか」
「うん本当に、凄く綺麗!!」
リオンとダンは雪景色に感動し、興奮気味である。
俺達の国は冬でも雪が降るほど寒くならないので、二人は雪と接するのが初めてだった。
「二人共、綺麗だけではないですよ。この雪の中を進むのは足を取られるので疲れる上に、途中で倒れたら確実に凍死ですよ。もちろん戦闘になった時も本来の戦い方が出来ません。足を止めて戦うダン君なら大丈夫ですが、動きで敵を翻弄するリオンさんは特に油断しないで下さい」
リンドバーグはそう告げると、実際に歩いて見せた。
雪の絨毯にリンドバークの足が喰い込み、くるぶし位迄足が沈み込む。
「リンドバーグさん、ありがとうございます」
「私とリオンさんの前衛は足を止めて、敵の攻撃を受け止めるか。それが無理ならギリギリまで惹きつけて避けながら一撃で倒す方がいいでしょう」
「うん。やってみる」
リンドバーグは的確なアドバイスをしていた。
やはり彼がギルドに加入してくれたのは大きい。
「それにしてもこのローブ…… 真っ白って、まるで雪と同じみたいだな」
ダンはケラケラを笑っていたが、俺は白い色で装備を注文していた。
白色の染色作業の分、他のパーティーよりも仕上がりに時間が掛かったのが、出発が遅れた原因だ。
「良い所に気付いたな。敵に気付かれない様、雪と同化出来る様に態々白く染めて貰ったんだよ」
「へぇー、そうだったんだ。流石ラベルさんだ」
「魔物には種類があって、視覚で冒険者を察知したり、音や体温で察知する場合もあるが、やはり多くは視覚だろう。だから多少の効果はある筈だ。ただでさえ戦い辛い場所なんだ。戦闘は少ない方が良いと思ってな」
こういう偽装工作をやる冒険者は少ないのだが、俺は長年の経験から効果があると体感で理解していた。
「さて、準備も終えた事だ。進んで行くぞ」
「はい!!」
俺達は一歩づつ雪に足を喰い込ませながらゆっくりと進んで行った。
地形は多少の不利はあるが、雪が無ければ草原だと思える広大なステージである。
障害物も少ないので地図が作り辛いのが難点だ。
しかし地形の特徴を詳しく書き込みながら、俺は地図を作成していく。
その後、十五分程度歩いた時、俺達は魔物と遭遇する事となった。
真っ先に気付いたのはリオンで、手をあげて立ち止まると、前方に指をさした。
リオンの指の先には一匹の巨大な魔物の姿がある。
「出たぞ、ジャイアントベアーだ。普通は黒い毛色をしているんだが、どうやら保護色で白い毛色に変わっているみたいだ。攻撃が見えづらいから気を付けてくれ。まだ幸いにも俺達には気付いていないみたいだ。慎重に動いてこのままやり過ごすぞ」
遭遇したのは体長二メートルを超える巨大な白熊だった。
目は赤く、鋭い爪は黒光りしている。
白く鋭い牙をむき出しにしていた。
ゆっくりとその巨体を動かしながら、歩いていた。
「魔物は気付いていないんだろ? ラベルさん、倒さなくていいのか?」
「あぁ、戦闘は極力避けるべきだ。どうせ戦う羽目になるんだからな。お前達はこの機会に魔物の大きさや動きなどを観察しておくんだ。一度見ておけば、ある程度の予想は出来るだろう」
「うん。了解した」
「あいよ」
俺達はフードを深くかぶり直すと、雪に紛れながらジャイアントベアーの観察を行った。
しばらくすると、ジャイアントベアーは少しづつ離れて行き、そのまま姿をけしていく。
白色ローブは俺達の姿を雪と同化させてくれていた。
「この階層の魔物はとにかく強力だ。一撃でも貰えば致命傷になる場合もある。絶対に油断だけはするなよ」
俺の言葉に全員が頷いてくれた。
魔物が完全に過ぎ去った後、俺達が再び移動を始めようとした時、頭上から白い雪が降り始める。
「雪だ!! 雪が降って来た。俺、雪が降るの初めて見たぜ」
「うん。私も同じ」
降り始めた雪を見つめ、楽しそうに話し合う二人を横目に俺は不安に駆られていた。
「ヤバいな……」
俺の呟いた言葉通り、新しい試練が襲いかかろうとしていた。
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