第71話 セカンドアタックに向けて!

 【グリーンウィング】の騒動を終えた後、念願のフロアギミックを用意できた俺達はB級ダンジョンを攻略する為に動き始めた。

 この一ヶ月間、【デザートスコーピオン】に掛かりっきりでいた訳ではなく、ちゃんとB級ダンジョンの情報も集めていた。

 最前線の攻略組が一週間前に【セカンドアタック】に向かったと言う情報は入っている。

 俺達が一週間も遅れた理由、それは【グリーンウィング】の問題のせいだけではなく、フロアギミックの装備を揃えるのに時間がかかったのが大きい。


 だがこの程度の遅れだけで二回目のアタックに挑める為、運が良ければ追いつけるかもしれないと俺は考えていた。


 それに今回のアタックは【グリーンウィング】のメンバーが途中までサポートしてくれると申し出てくれている。

 最初は限界階層まで協力すると言って来たが、俺の方から十階層までなら協力を受けると返した。


 そう言ったのには理由があり、その理由を俺が説明した後も【グリーンウィング】のメンバーはそれでも協力をしたいと言うので、今回の作戦会議が開かれる運びとなったのだ。


 ギルドホームに集合したメンバー達は空きスペースに机を並べて臨時の会議室を作り上げた。

 会場を作成した後、ギルドマスターの俺とフランカが隣同士で座り、互いの連携について意見を出し合い始める。

 俺の隣にはリンドバーグが座り、補足の情報を出してくれた。

 他のメンバーは適当に座り、俺達の話し合いを聴いている感じだ。


 リオンはエリーナと仲良く隣で座って楽しそうに笑い合っているし、ダンもハンネルと何やら話し合っていた。


 俺達が【セカンドアタック】について話し合っていると、威勢よく扉が開かれ金髪の美女が笑顔で入って来た。


「いやぁー。お父様が最近やる気出しちゃって。私まで引っ張りまわされて全然ここへ来れなかったよ…… って。あれ…… お客さん?」


 入って来たのはアリスだった。

 アリスにとって【グリーンウィング】のメンバーとは面識が無い為、面食らっている様子だ。


「アリスさん!!」


「アリスねーちゃん。久しぶりだな」


 リオンとダンが手を上げて挨拶を投げかけた。


「アリスか、久しぶりだな。カインの奴に振り回されているなら俺からも言ってやろうか?」


「いやぁー。それは大丈夫なんだけど。この人たちは一体……」


「お前が知らないのも無理はないな。丁度いい機会だから紹介しておくよ」


 俺はアリスを近くに呼ぶと、フランカと【グリーンウィング】のメンバーにアリスを紹介した。


「彼女は俺の知人の娘さんで、アリスって言う冒険者だ。冒険者ランクはB級でいいんだよな?」


「えっ!? うん、それでいい。アリス・ルノワールです」


 アリスも突然の事で困惑しているが、【グリーンウィング】のメンバーに向けてお辞儀をした。

 紹介されたアリスを見て、【グリーンウィング】のメンバーの数名がアリスの美貌を目の当たりにして惚けていた。

 惚けているメンバーの一人にハンネルも入っている。


「アリス、この人は【グリーンウィング】のギルドマスターのフランカさんだ。今は俺達と同盟関係を結んでくれている。今日はダンジョンを一緒に攻略する為の話し合いをしていたんだ」


「フランカ・ヴェーダと申します。【オラトリオ】様には大変なご恩があり、僭越ながら、今回のダンジョンアタックをお手伝いをさせて頂く事となりました。よろしくお願いいたします」


 優雅に立ち上がり、挨拶を行う。

 エルフ特有の気品と美しさがあり、見る者を魅了する魅力が溢れ出ている。


 互いの挨拶が終わった後アリスは新しい椅子を隣の部屋から持ってくると。

 何故だかリンドバーグと俺の間に割り込んできた。


「私も話を聞かせて欲しい。参加できるか分からないけどその位はいいでしょ!!」


 強めの圧があり、俺も頷くしか出来ないでいた。


 その後も話は進み、具体的な話へと移って行く。


「それでは十階層までは私達が先行し、道を切り開きますのでラベル様はアイテムを温存して下さい」


「それではフランカさんの負担が大きいでしょう。十階層まで共にレイドを組んで進んだ方が……」


「いえ、今回ご協力出来るのは十階層までです。ならばそれまでの礎として尽力したいと考えます」


「あのー…… なんだか二人共、距離が近くないですか?」


 俺とフランカさんは熱が入りすぎて、アリスの言う通り互いに近づきすぎていた。

 アリスの指摘を受けて、俺はバッと距離を取る。

 申し訳なくなりフランカさんの方に視線を向けてみるとフランカさんは頬を赤らめている。

 フランカさんに申し訳ない事をしたと反省した。 


 一方、アリスは俺を見つめながら冷ややかな笑みを浮かべている。

 その視線を見た俺は何故だか分からないが、カインの妻で旧友のマリーを思い出し、背筋に冷や汗が流れた気がした。


「確かに失礼だったな。つい熱が入ってしまったようだ」


 俺は取り繕った様な言葉を告げた。


「いえ、私は全然気にもなりませんでしたので、お気遣いは無用でございます」


 フランカさんも普段の調子を取り戻している。


「私もそのアタックに参加したい!! 私も参加するからラベルさんのパーティーに入れてよ」


 突然アリスが突拍子もない事を言い出した。

 そのギラついた瞳を見れば本気だと言う事は理解できる。


「お前、何言っているんだよ。これは単なる探索じゃないんだぞ。その位はわかるだろ?」


「……だって!!」


 少しだが、涙目になっている様にも見えた。

 

「仕方ないな。それじゃ【グリーンウィング】のメンバー達と同じ十階層までならいいぞ」


「一緒のパーティーは無理なの?」


 アリスは不満そうにつぶやいた。


「あのなぁ、今回は攻略を目指したギルド活動なんだぞ。【グリーンウィング】さんと同じように途中までの協力ならまだしも、他ギルドのお前を俺達のパーティーに入れて最後まで攻略するのは違うと思う。確かにアリスがパーティーに入ってくれたら戦力は増強になり、攻略できる確率は高まるがそれでは【オラトリオ】だけで攻略したと言えないだろ?」


 俺はアリスの目を見て説明し始める。

 アリスも分かっているみたいだが、ちゃんと言葉として伝えておいた方が良い。


「どうせ応援で入った冒険者のおかげで攻略できたって言われるのが関の山だ。奴等は他人を蹴落とすためにだけで粗を探しているんだからな。だから俺はギルドメンバーだけで攻略したいと考えている」


「それは、確かにそうだけど……」

 

 応援を入れてダンジョンを攻略をした場合でもパーティーメンバー全員がB級冒険者に成る事が出来る。

 しかし応援で入ってくれた冒険者のおかげでB級冒険者になれたと言われる事が多い。

 なので俺は出来る限り、ギルドメンバーの力で攻略を進めていくつもりだ。

 

 今回の【グリーンウィング】の協力はあくまでも十階層までである。

 更に各パーティーは別であり、混合パーティーでもない。

 その場合なら難癖をつけられたとしても言い訳は立つ。

 なら最初から協力を受けなければと思う人もいると思うが、俺達はただでさえ【セカンドアタック】が遅れている。

 もし十階層までの協力を受けた場合、そのメリットはアイテムの温存と十階層までの攻略日数の短縮であった。


 その二つは確かに魅力的だ。

 友好ギルトの支援なんてこの世界では常識でもあるのだが、俺達は新参の新興ギルドである。

 自分達の力を周囲に知らしめる必要もあるので、今回は十階層までの協力と俺が提案したのだ。


 中には黙っていたら誰にも気づかれないと言う者もいるが、B級ダンジョンクラスになるとやはりどこかで見られている。

 なので何処まで一緒に行動していたか? などと言った情報は必ず何処かでその情報は流れてくる。

 周囲に胸を張る為には、協力を受けるにしても上層と呼ばれる十階層までが限界だった。


「悪いな。単なる捜索程度なら参加するのは問題ないんだけどな。攻略は冒険者の階級にも影響するからな」


 仲間外れにして申し訳ないが、これが現実でもあった。

 

「わかった。そう言うなら私にも考えがあるんだからね。私これで帰るから!!」


 アリスはそう言うと、ギルドホールから飛び出して行った。

 リオンもダンもあっけに取られている。


「すみません。どうやらのけ者にされたと勘違いしているようで……」


 空気が悪くなったので、俺はフォローをいれる。

 

「いえ、アリスさんもラベルさんの力になりたかったのでしょう。その気持ち、私にはわかりますので」


 フランカさんは大人の対応を見せてくれた。


 その後も最後の詰めを行った後、俺達の打ち合わせは終了した。


 明後日、俺達【オラトリオ】は【セカンドアタック】に挑む!

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