第70話 真相
【デザートスコーピオン】が消滅して数日後、俺は一人で【ブルースター】のギルドホームに向かっていた。
要件は依頼料を支払う為で、前金は既に渡しているのだが成功報酬がまだだった。
「ラベル様、いらっしゃいませ。今日はどういったご用件で?」
ギルドホームに入ると、メイド姿の受付嬢が形式的な言葉をかけてきた。
「今日は成功報酬を支払いに来た。今回は助かったよ」
「そう言って頂ければ私達も仕事を請け負った甲斐がございます。今回の成功報酬は金貨四枚となっています」
「わかった。何かあれば次も頼む」
俺は小袋から金貨を取り出すとメイドへと手渡す。
金貨四枚は大金だが、これだけの成果を上げられては支払わない訳には行かない。
「またのご利用をお待ちしております」
メイドは椅子から立ち上がると、スカートの両端を掴み持ち上げると可愛らしくお辞儀をする。
その姿は人形の様に可愛らしい。
街に出れば若い男が彼女に群がって来るのは間違いなさそうだ。
「レクサス達はいるのか? いるのなら御礼を言いたいのだが?」
「今は応接間でサボっていますので、さっさと仕事をしろってケツを蹴り上げてきて下さい」
可愛い見た目からは想像も出来ない毒舌である。
「わかったよ」
俺はそれだけ伝えると一番奥にある応接間のドアをノックし、中へと入った。
「あっ、どうぞ中へ!!」
最初に出迎えたのはプルートだった。
感情を表に出さないこの男の売りは冷静沈着な性格の筈なのだが、何故か今は緊張している上に人格が崩壊している感じだ。
一体どうなっているのだろうか?
部屋の中央では備え付けのソファーにレクサスが座っており、行儀悪くテーブルの上に足を載せながらくつろいでいた。
レクサスの方は普段通りである。
俺に気付いたレクサスが手を上げた後、俺を対面のソファーに座らせた。
「メイド嬢がサボっているからケツを蹴り上げて来いって言ってたぞ」
「チッ、俺達は毎日こき使われているんだ。ちょっとくらい休憩したっていいじゃねーかよ」
レクサスはメイドがいる部屋に向かって、舌を出していた。
「ところでどうだった? 俺達の仕事は完璧だっただろ?」
舌を出して溜飲を下げた後、得意気な表情のレクサスが笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「本当にいい仕事をしてくれた。その礼を言う為に寄ったんだが…… プルートの奴どうしたんだ? 人格が崩壊しているだろ?」
プルートは今も俺の後ろで背筋を伸ばして固まっていた。
本当に何があったのだろう?
「あぁ、それはあんたのせいだよ」
「俺のせい? それは一体どういう事なんだ?」
俺には思い当たる節は何も無い。
「プルートの奴って、何に対しても無関心を装っているけどよ。実は【オールグランド】の…… いやSS級冒険者カインの大ファンなんだよ。あんたが大幹部のスクワードとやけに親しい仲だったから、俺達は興味本位であんたの事を調べてみたんだが。まさか、あんたがあのカインと共にSS級ダンジョンを攻略していたなんて驚いたよ。プルートの奴はそれを知ってあんたの事を崇拝しちまってこんな状態になってるって訳だ」
「良く間違われるが勘違いするなよ。俺はポーターとして同行してただけだよ。あの時の俺は戦闘には参加していなかった。だけど次は俺の力で……」
俺は拳を力一杯握り込んでいた。
色々と在ったが、念願の戦う力を手に入れた。
これからは以前とは違い、ずっと後ろから見ているので無く、俺も戦いに参加できる。
そしていつかはギルドの仲間と共にSS級ダンジョンにも挑むつもりだ。
そんな想いが俺の体を熱くさせた。
「あの時……? まぁいいや。それにしてもよ。あんたの言う通りになりすぎて、こっちが怖くなったぜ。あんたを敵に回した【デザートスコーピオン】の連中が気の毒に思えたぜ」
「それはお前達が集めた情報が正確だったからだよ。あの情報が無ければ此処まで上手く事が運ぶ事も無かっただろう」
「いえっ、流石はラベルさんです!! 【グリーンウィング】が【デザートスコーピオン】を追い詰めた時。我々が出ていかなければ、事態はもっと混乱していたでしょう。あの優しい性格のギルドマスターでは、あれが精一杯だったでしょうから」
後ろで黙って話を聞いていたプルートが急に話に入ってきた。
プルートが言った様に【グリーンウィング】と【デザートスコーピオン】が戦っている時に現れた六人の冒険者は俺達だった。
俺達は気付かれない様にずっと様子を伺っていたのだ。
あのタイミングで現れたのも当然俺の指示である。
【デザートスコーピオン】が素直に改心しない場合も考えて待機していたのだが、その予想は間違えていなかった。
俺達を【グリーンウィング】の関係者だと分からせない為、ローブに身を包み身元が解らない様に変装した。
そうする事で街中に悪評を流された恨みを【グリーンウィング】に行かない様に誘導したのだ。
実際、【デザートスコーピオン】は情報源を潰したくても相手が誰だか解らない状況に陥り、手をこまねいている間に噂を大きく拡散させてしまう事となった。
「それによ。【オールグランド】メンバー達が絶えず【デザートスコーピオン】に張り付いていたのにも驚いたぜ。やっぱ伝説のSS級冒険者パーティーに所属していたってのも伊達じゃないって事だな。あんな大組織を動かせる人間の方が少ないっての」
「スクワードには貸しがあるからな、その貸しを今回で返して貰っただけだ。だから俺が【オールグランド】で顔が効く訳じゃないんだぞ」
「【オールグランド】の大幹部に貸しがある事が、常人にはあり得ない異常だって事に気付かねぇのかよ?」
レクサスは両手を上げて降参のポーズを取って見せた。
「俺も一応はギルド発足メンバーの一人だからな。付き合いが長ければ貸しの一つくらいあるさ。それで【デザートスコーピオン】のメンバーの行方はどうなったか知っているか?」
「それは俺から説明します。ギルド解散後はそれぞれ散り散りとなり、この街で見かける事もなくなりました。別の街に流れたと思います」
「これでこの件は完全終了って事だな」
「それにしてもアンタは今回の件で金貨が何枚飛んで行ったと思っているんだ? どうせ謝礼とか貰ってないんだろ? このままじゃあアンタの一人損にならないか?」
「いや、そうでもないさ。この騒動のおかげでリオンとダンにも年の近い友人が出来た。一応、同盟関係も結んだ事だし、今後も良い付き合いができれば、きっと二人の力になってくれるだろう。ならこの程度は安い投資だと俺は思うぞ」
俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「年の近い友人が出来たって…… なんだよそれ。まるで父親みたいじゃねーかよ。 あっ、あ~~~っ!!」
レクサスが何かを思い出して大声を上げる。
「うるせぇな。一体何を叫んでいるんだよ?」
「俺はちゃんと仕事したんだから、リオンちゃんにちゃんと俺の事を伝えてくれたんだろうな!!」
すっかり忘れていた。
「あ~っ。うん、伝えた」
「何だよ。今の間は!? 本当だろうな? 嘘ならぶちのめすぞ!!」
レクサスがそう言った瞬間、いつの間にかレクサスの背後に回り込んでいたプルートがレクサスの首をロックする。
「お前が暴言を吐いていい人じゃないんだぞ。レクサス、わかっているのか?」
そう言いながらギリギリと首を締めあげた。
「ぐるぅじぃ…… やばぃってぇぇ」
レクサスは連続タップをしているのだが、プルートがロックを外す事は無く、レクサスはそのまま落とされる事となった。
「先ほどはこの馬鹿が失礼しました。依頼なら全力で頑張りますので、また来てください!!」
「あぁ、また頼むよ。それよりレクサスは大丈夫なのか?」
レクサスはソファーの上で屍と化していた。
「大丈夫です。何発か殴れば起きると思いますので、それより本当にまた来て下さいよ」
キラキラとした瞳で言われると嫌とは言えない。
「わかった。また来るよ」
その後、退室する俺をプルートは外まで見送ってくれた。
この騒動が終わったから、これでやっとダンジョン攻略に集中できそうだ。
今はB級ダンジョンが出現して一ヵ月と少し経った位である。
B級ダンジョンは出現してから二カ月前後で攻略される事が多い。
たまに一月位で攻略される時もあるのだが、それは稀で頻度としては多くない。
B級ダンジョンの出現サイクルは二~三カ月なので、その位で攻略するのが一番儲けが良いとされていた。
ダンジョンギミック用の装備も既に出来上がっているので、後はダンジョンに挑むだけである。
攻略組の連中は既にダンジョンギミック用の装備を整え、一足先にダンジョンアタックを再開していた。
焦る気持ちもあるが、今からでも十分挽回できると俺は思っている。
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