第69話 デザートスコーピオンの末路
【デザートスコーピオン】のメンバーは、武器を回収された状態で全員が一か所に集められていた。
更に殆どの者が負傷をしているので、今から反撃を試みても勝てる見込みはゼロである。
疲れ果て、ぐったりと地面に這いつくばる【デザートスコーピオン】の前にフランカが近づいた。
「私達の勝ちです。今後も私達に手出しをするつもりなら、今度は殺すつもりで対応します。覚悟してください」
「チッ、言う事を聞かせたいなら、見せしめに俺を殺すなりしな!! 言っておくが、これはもう戦争だぜ。どちらかが服従するまで終わる事はない。今、俺を殺しておかないと絶対に後悔するぞ。俺はどんな手を使ってでもお前達を潰してやるぜ」
この男は【デザートスコーピオン】のギルドマスターだ。
一番のくせ者である事はフランカも理解している。
だが自分達が敗北したにも関わらず、脅迫を仕掛けてくるとは思っておらず、フランカも流石に驚いた表情を浮かべた。
「脅迫してきても無駄です。負けた貴方達が幾ら強がって見せても私達には効きません。もし私達の条件を飲まないというのであれば、こちらもそれなりの覚悟があります」
「ほぅ、仲良しギルドのお前達の覚悟がどれ程の物なのか? 見せて貰おうじゃねーか」
相手は余裕のある笑みを浮かべる。
何故、これ程まで相手が強がっていられるかと言えば、理由は簡単だった。
すでにフランカの性格を見抜いて、どうせ大した事も出来ないだろうと予想したからだ。
実際に予想通りであり、心の優しいフランカはこれ以上彼等に危害を与えるつもりはなかった。
しかし突然状況が変化する事となる。
「おい、見て見ろよ。面白い事が起こってるじゃねーか?」
「どうした? 魔物でも現れたのか?」
「ほれ、あそこ見てみろよ。どうやらギルド同士の争いみたいだぞ」
現れたのは六人組のパーティーだった。
全員がフード付きのローブに身を包んでいる。
霧の為、顔までは確認できないがダンジョンアタック中の冒険者パーティーの様だ。
ただ六人の内、二人は身長が低く、その一人の冒険者はフードに納まりきれない長い髪が見えていた。
「ねぇ、あのシルエットって……」
エリーナが何かに気付き、一人を指さしながら隣に立つハンネルに小声で声を掛けた。
「うん、僕もそうだと思う。僕たちには何も言ってなかったけど、ずっと傍にいて見守ってくれていたんだね」
ハンネルがそう答えた瞬間、【デザートスコーピオン】のギルドマスターが叫びだした。
「おいっ!! あんた達、助けてくれ! 俺達はこいつらに襲われたんだ。頼む、冒険者組合で、俺達が襲われた事を証言してくれ!! もちろんお礼はするからよ!」
「なっ何ですって!? どの口で、そんな嘘をいうのですか!? 今まで散々私達を襲っておきながら!! 恥を知りなさい!!」
フランカは弱者を演じるギルドマスターの変わり様に驚いていた。
「マジかよ。金をくれるってよ!? 別に証言してやってもいいが、あんた達は何処のギルドなんだよ?」
ローブの男が問いかけてきた。
「俺達は【デザートスコーピオン】だ。そして襲って来たのは【グリーンウィング】の連中だ。見てくれこの酷い有様を!! 仲間も全員やられてしまった」
ギルドマスターは大げさな態度を取ると、ボロボロになった仲間をアピールし始めた。
「何だって!? 【デザートスコーピオン】ってあの威張り散らしていた生意気なギルドの奴等だろ??」
「そうだ、そうだ。間違いない!! 【俺達はA級ダンジョン経験者!!】って威張り散らしてた糞ムカつく奴等だ。なんだよ負けてやがるのか。こりゃ面白れぇぇ、しかも相手は捜索ギルドの【グリーンウィング】だってよ。最近、【グリーンウィング】が【デザートスコーピオン】に襲われてたっていう噂も聞いた事があるから、どうせ返り討ちに合ったんだろ? 情けねぇな、口だけギルドだったって訳かよ」
「あははははっ。こりゃいい話のネタが出来たぜ。今から帰って皆に広めてやろうぜ」
「おい…… なんでそうなるんだ? 普通は違うだろ? どっちが悪いか見て分からねぇのかよ? おいっ、ちょっと待ってくれぇぇぇ~!!」
縋り付こうとするギルドマスターを無視し、ローブ姿の六人組は無言で姿を消した。
【デザートスコーピオン】のギルドマスターは思惑と違う結果になった事に唖然となっていた。
そして自分達が負けたという噂を広められる事を想像して、屈辱と恥ずかしさで地面を強く殴りつけた。
逆にフランカはホッと一息を吐き、再び主導権を取り戻す。
「くそがぁぁぁぁ!!!」
「ふふふ、ザマァ見なさい。貴方の目論見は失敗の様ですね。これ以上は何も話す事は在りません。私達の話はこれで終わりです。後から襲われたくもないので、当然武器は回収しておきます。せめてもの罪滅ぼしとして、魔物達に怯えながら帰還しなさい」
フランカがそう言い捨てると【グリーンウィング】のメンバー達は背を向け地上へと帰還を始めた。
その後、周囲に人影がない場所まで移動すると【グリーンウィング】のメンバー達は手を取り合い、勝利の美酒に酔った。
力に屈せず戦い、勝利を掴んだ事に全員が涙を流す。
そしてラベル達【オラトリオ】に対して、返しきれない大恩を感じた。
★ ★ ★
【デザートスコーピオン】達が一日かけて地上に戻った時には【デザートスコーピオン】と【グリーンウィング】の噂話で街中が持ち切りとなっていた。
【デザートスコーピオン】はゴロツキの集まりだったので、当然評判も悪かった。
しかも何処で話が漏れていたのか。
今までの悪行が全て明るみに出ており、【デザートスコーピオン】の居場所は何処にも存在しなかった。
当然【デザートスコーピオン】の味方が現れる事もなく、メンバーは何処に行っても馬鹿にされるようになる。
汚名返上に【デザートスコーピオン】は【グリーンウィング】に対して報復をしようと試みたが、何故かダンジョンでも街の中でも誰かに見られ続けた。
流石に人目がある所では報復する事が出来ずに、時間だけが過ぎていった。
結果、プライドは高い癖に実力は無く、欲の塊だが小者で汚い事しか出来ない中途半端な冒険者が、利害だけで集まっていた【デザートスコーピオン】には、義理や人情など最初から無く利用価値が無くなれば【こんなギルドにはもう居られない】と言い捨て、一人、また一人とギルドから去り始めて行く。
そして戦闘から一か月後には【デザートスコーピオン】というギルドは自然と消滅していた。
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