第73話 ホワイトアウト
降りだした雪は時間の経過と共に勢いを増し始めた。
更に強風も加わり、周囲は吹雪と化し視界は十メートル程度と変わる。
真っ直ぐ進むだけでも、雪を含んだ強風に抵抗され押し返されそうになり、魔物と戦っていないにも関わらず体力が消耗していく。
しかし立ち止まる訳にも、引き返す訳にも行かないので、俺達は避難できる場所を探しながら行進を続けた。
いくらフロアギミック対応の耐冷ローブを装備していても、装備の隙間から入り込む冷たい風が俺達の体温を下げてくるので、今は早く風が当たらない居場所を見つけて暖を取るのが最優先だ。
「みんな、止まってくれ。そこに倒木が転がっているぞ」
俺達の数メートル先には長さ十五メートル程度の枯れ木が数本倒れていた。
この吹雪で倒れたのかもしれない。
「みんな、この倒木を利用して臨時の避難場所を作るぞ」
「避難場所を作る!? 俺達で?」
ダンはビックリした様子だ。
「確かにこのまま吹雪の中を進むのは危険でしょう。幸いにも倒木の太さは二十センチメートルはありそうですし、骨組みとして十分使えそうですね。では早速準備をしましょう」
ダンと違い、ベテランのリンドバーグは俺の考えを理解し、行動に移そうと動き始める。
「あぁ、この吹雪の中を歩き回るのは得策ではないからな。俺とリンドバーグが倒木を切断して材料を集めるから、その間にダンとリオンはこの場所の雪をどけて地面が見える様にしておいてくれ」
「うん。わかった」
「雪をどければいいって事だよな? その位なら俺にも出来そうだ」
「それじゃ、リンドバーグは俺と倒木を裁断して骨組み集めだ」
「わかりました。指示してください」
俺はリュックから折り畳み式のノコギリを取り出すと、リンドバーグと共に枝を払ったり、倒木を等間隔で切る事で木材を手に入れていく。
材料が集まった後は、木材をリオン達が雪かきを終えた地面を少しだけ掘っ立てながら木材を組み立て始めた。
流石に釘とかは持って来ていないので、スパイダーの魔石を使い蜘蛛の糸で骨組みを縛り上げる事で木材を固定していく。
骨組みの大枠を長方形に組み上げた後、更に格子状に払った枝を取りつけた。
その後、取り付けた枝の上から雪を叩きながら重ねる事で、雪で作った小屋を作り上げる。
雪を固めた事で雪は氷と化し、この強風下でも崩れない強度を持っている。
小屋の内部の雪を外に出しているので、シーツを敷けば座る事も寝る事も可能だ。
雪が降るステージでは色々な方法で、寒さを凌ぐ方法が編み出されている。
今回は倒木が在ったので、簡単に作る事ができた。
実際に中に入ってみると、風も入って来ないので休息するには十分だろう。
「すっげーな。簡単に小屋ができたぞ」
「それに小屋の中って温かい」
「流石ですね。ここまで効率よく小屋が出来るとは私も思ってもいませんでした」
「雪越しには色んな方法があるから、その状況に応じた方法を覚えて置く事だ。それらの方法を組み合わせる事で、どんな状況でも対応出来る様になる筈だ」
全員、寒さで体も冷えていたので、一時的に小屋の中で木を燃やし身体を温めながら吹雪が止むのを待つ事にする。
その後も吹雪は何時間も続き、俺達は見張り役を交代しながら休息を取った。
全員が雪小屋の中に入った後、入口部分を雪で塞ぎ小さくする。
こうする事で室内に入って来る風を減らせる上に、魔物に気付かれる可能性も少なくなる。
無風の雪小屋の中にいれば耐冷ローブのおかげで寒さも感じないので、眠る事もできた。
全員が数時間の睡眠をとった頃には吹雪も止み、外は真新しい銀世界を作り上げていた。
実際に俺が外に出てみると、吹雪で雪は積もっているが、雪は固く締め固められているので進むには問題が無さそうだ。
俺は全員に声を掛けると、荷物をまとめ攻略を再開させた。
吹雪の間は寒さで俺達を苦しめてくれたのだが、吹雪が止んだ今は頭上から降り注がれる光が雪で反射し、周囲一帯が光の世界へと化す。
光が眩しすぎて、瞳が焼けてしまう。そんな感覚が俺達を襲った。
「全員フードを深く被れ! このまま光を見続けていたら目が焼けてしまうぞ」
俺達は対応策として出来る限りフードを深くかぶり、目元から下は布で覆い日焼けを防ぎ、光を直接見ない様に工夫した。
その状態でしばらく進んでいく。
途中、魔物の姿を何匹か確認したのだが、俺達は気付かれていない。
距離もあるが、理由はそれだけでは無い。
俺達のローブが白色な為、魔物は俺達を認識出来ていないのだ。
戦闘を行わずに、この極寒のステージを進んでいる俺達の行進速度はけた違いに速い。
実力差がある場合の戦闘は数分程度で終わるのだが、実力差が大きくない戦闘は何十分も戦う事もある。
更にこの極寒の中では雪で足を取られるので、戦闘時間も長くなってしまう。
その事をわかっている俺はチャンスとばかりに行進速度を上げていく。
しばらく進んで行くと、リオンが急に声を上げた。
「この先で、一面氷が広がっているよ」
俺も先を見つめ、、進路上には視界一杯に広がる大きな湖が立ちはだかっていることに気がついた。
湖面は凍っており、歩く事も可能だと思えた。
湖畔までたどり着いた俺は選択を迫られる。
一つは湖を迂回する方法進路だ。
その時は右ルートか左ルートなのかを選ぶ必要がある。
そして残る選択肢はこのまま真っ直ぐ氷の上を突き進むルートだ。
何もなければ一番早いルートだが、もし戦闘になれば一番危険なルートでもあった。
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