第60話 帰還と出会い

 フロアギミックを抜けた俺達はその後もアタックを続け、今は十四階層に到達している。

 既にダンジョンに潜ってから一週間が経過していた。


 俺達の攻略速度は速くも遅くも無い平均的で、もっと先に進んでいるパーティーがいるのは確実だった。

 俺の予想なら攻略の最前線は二十階層、二つ目のフロアギミックまで到達している筈だ。

 ここで俺達が無理をしなくても彼等がダンジョンから帰還した後なら二十階層のギミックは判明するので焦ってはいない。


 情報を隠す冒険者がいると思うだろうが、フロアギミックの情報は高値で売れる為、黙っていても必ず別の誰かが売ってしまう。ギミックの情報は高値で売れるが情報を買って貰えるのは一番速かったパーティーのみで、二番目では一銭にもならない。

 なので今は情報を隠したりせず、速く情報を持ち帰り高値で売る流れとなっている。

 ギミック階層に辿り着いたパーティーの内一定の割合で、ギミックの調査を行った後、そのまま帰還するパーティーが存在した。

 それはギミックの情報を誰よりも速く売る為だ。


 冒険者の稼ぎ方は様々だ。

 素材を集めダンジョンを攻略したり、ギミックなどの情報を売る。

 または民間の依頼を受けたりと稼ぎ方は数多く存在した。




★   ★   ★




「この通路を抜ければ十五階層だ。十五階層を確認したら俺は一度地上へ戻ろうと思う」


「えー嘘だろ!? ラベルさん、なんでだよぉ。俺はまだ全然余裕だ。もっと進もうぜ」


「うん。私もまだ大丈夫だよ。もっと先に進んだ方がいいと思う」


 ダンとリオンが不満を口にした。


「二人共落ち着いてください! マスターも我々がもっと先に進める事は解っています。ですがダンジョン攻略は進むだけでは成り立ちません。帰る事も考える必要があります。確かにマップが在るので帰還の時間は短縮されますが、それでも十五階層から帰還するには二日程度は必要です」


「それはそうかもしれないけど…… 俺達が帰っている間にダンジョンを攻略されてしまうかもしれないじゃん」


「うん、そうだね。みんな強そうだったし」


「それは大丈夫でしょう。初見でB級ダンジョンを攻略出来たら化け物ですよ。C級ダンジョンと同じに考えているのであれば、全く次元が違います」


「それはそうかも知れないけど……」


「ダン君、大丈夫ですよ。新しい情報を集めて、しっかり準備を行えば次のアタックで必ずこのダンジョンを攻略できます。私を信じてください」


 流石はリンドバーグである。

 俺の意図を読んでくれて二人を諭してくれた。


 俺達はC級ダンジョンを五時間で攻略した事がある。

  

 もし同じ程度に考えているならダンは痛い目を見るだろう。

 まずC級ダンジョンとB級ダンジョンでは階層の広さが違う。

 C級ダンジョンの倍以上の広さをもち、現れる魔物も強い。


 肉体的、精神的負担はC級ダンジョンの数倍だ。

 それに気づいた時は魔物に取り囲まれているというのはよく聞く話。


 ここまで来るのに特に苦戦はしてこなかった。

 しかしそれは俺とリンドバーグが二人を引っ張ってきたからだ。


 やはり経験者が一人増えるだけで、攻略難易度は大きく変わるんだと俺も再確認していた。

  

「俺は最初から十日分の食糧しか用意していなかったんだよ。これ以上進むなら食糧は現地調達するしかないぞ」


「現地調達!? ダンジョンに私達が食べられる物があるの?」


 リオンが驚きの声を上げた。


「そうだ。これはいつか教えようと思っていたが、例えばここに到達するまでにあった森のステージの大木に実っていた果実とかは食べられる。他にも各ステージで食べ物を得る事は可能だ。ダンジョンでは何が起こるか解らないからな。食べられる物を知っておくのも大事な事だ。帰り道で見つけたら食わせてやるから覚えておくといい」


「そうなんだ」


 その後、全員が帰還する事に納得してくれたので、俺達は十五階層を確認した後アタックを中断して引き返す事にした。


 帰りの速度は進行の倍以上の速さで帰っていく。

 理由はリンドバーグも言っていたが、マップを作っている為である。

 道に迷う事も無く、最短距離を最速で走り抜ける事が可能だ。

 一度マップを作っておけば、帰りも早く二回目のアタックでも早く移動する事ができる。

 それを二人が分かってくれたなら十分だった。


 俺はダンジョン攻略において、マッピングも重要な要素の一つだと考えている。

 その重要性を二人に教えていきたい。

 

 その後二日掛けて俺達は二階層まで戻って来た。

 この階層は森のステージで、俺が二人に説明した食べられる果実が実っている筈だ。

 ただ帰還するだけじゃなく、俺達は食べられる果実を探して森の中を移動していた。

 

 しばらく探し回っていると果実が実った大木を見つけて、俺が木に登り全員の分を採取する。

 生で食べられる実で分厚い表皮をナイフで切り取ると、中の白い実を手渡した。


「ほら食べてみろ」


「へぇー 旨そうじゃん」


 ダンは白い果実を口に放り込んだ。


「うげぇぇ。変な味だ」


 ペッペッと唾を吐き出しながら感想を告げた。


「ダンジョンで食べられる物が存在するだけましだぞ。味を期待してどうする」


 リオンも顔を歪めながら果実を食べていた。


「不味いのは慣れるしかないな。でもこの果実は食べられるから、絶対に覚えておけよ」


「うん、わかった…… んっ!? ラベルさん冒険者が近づいて来る。気を付けて!!」


 リオンが警告を発してきた。


「全員構えを取れ! 冒険者の襲撃なら躊躇するなよ」


 全員が構えを取った数秒後、森の木々をすり抜けて近づいて来る二人の冒険者が現れた。

 二人の冒険者は俺達の前で急停止をする。


「すみません。助けて下さい。僕たちは冒険者に襲われているんです!!」


 二人は若い少年と少女で見た目はリオンとあまり変わらないと思えた。

 少年の方は青いローブを装備しているので、魔法職の様だ。

 金色の綺麗な髪を肩まで伸ばしており、一瞬見ただけでは女の子と間違われる程の美少年だ。

 

 もう一人の少女は、少年とよく似た顔立ちで一目で美少女と分かる。

 少年と同じ肩まで髪を揃えているが、頭には赤いリボンを付けている。

 少女の装備は弓を肩から下げているので、職業的にはアーチャーや斥候だろう。


「冒険者に追われているだと!? 一体どういう事だ」


 俺がそう告げた瞬間、新たに五人の冒険者が現れた。


「チッ、面倒くさい事になりやがって」


 先頭の冒険者は俺達の姿を見て、頭をかきながら悪態をついていた。


「おい。俺達はその二人組に用があるんだ。お前達に用はない。さっさと何処かに行け」


「ラベルさん、どうするの?」


 リオンが不安そうに声をかけてくる。

 リオンの顔を見れば助けてやれと言っているのが分かった。

 ダンも同じ様な視線で俺を見つめていた。


 俺は仕方なく、リンドバーグに視線を向けるとリンドバーグは大きく頷いてくれた。


「たった二人の子供を大人五人で追い回すのは、いい趣味と言えないな」


「こっちにも事情があるんだよ。別に殺そうって訳じゃないが教育は必要だ」


「どんな教育をするのか? 予想は出来るぞ。まったく胸糞が悪い! どうしても教育したいなら今回は諦めて俺達のいない場所でやれ」


「なんだと? お前は俺達に喧嘩を売りたいって訳か?」


「喧嘩を売っているつもりはないが、売られた喧嘩は買わせて貰うぞ!!」


 俺の一声をきっかけに、ダンが弓を構え、リオンとリンドバーグが抜剣した。

 俺は魔石を手に取り、いつでも口に放り込める体勢をとる。

 俺達の行動に合わせて五人の冒険者達も抜剣し、構えを取った。 


 その後、一分程度の沈黙がながれ、先頭の冒険者が突然剣を引いた。


「ふん。今回だけは見逃してやる。次、また俺達の邪魔をするのならその時は容赦しない。それだけは覚えておけ!!」


 そう捨て台詞を吐くと、俺達の前から去って行く。


「君たち、大丈夫?」


「あんな奴らに追われて何したんだよ」


 リオンとダンが少年、少女に声を掛けた。


「すみません。僕たちが巻き込んでしまって。僕の名前はハンネル・ブリューゲル。僕の隣にいるのが双子の妹のエリーナ・ブリューゲルです。僕たちが所属しているギルドは【グリーンウィング】というギルドで、襲って来たのは【デザートスコーピオン】という敵対しているギルドの冒険者です」


「俺達は【オラトリオ】だ」


 あの情報屋から教えて貰ったギルドとこんなに早く会ってしまうとは、俺は自分の運の無さを嘆いた。

 しかしこのままこの二人を放置した場合、この子達は帰り道にあの冒険者に襲われるかもしれない。

 それでは助けた意味がない。

 なので地上に出るまでは一緒に行動を共にする事を提案した。


 二人はその提案に飛びついてきた。

 やはり不安だったのだろう。


 その帰り道に俺達は【グリーンウィング】と【デザートスコーピオン】がどうして敵対する事になったのかを聞いた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る