第61話 デザートスコーピオンとグリーンウィング

 俺達は助けたハンネルとエリーナと共に、地上へと向かっていた。

 助けた二人は元気で、怪我をさせられる前で良かったと思う。


 先頭はリンドバーグ、その後ろにリオンと双子の妹のエリーナが続いており、リオンがエリーナに何やら話しかけている。

 俺は兄のハンネルと並んで歩き、俺の後ろにはダンが周囲を警戒してくれている。

 魔物が近くにいる様子も無いので、ハンネルはお礼を告げると共に襲われていた事情を話し出す。

 話し方も穏やかで、素直な少年だと俺は感じた。

 

「僕達が所属している【グリーンウィング】と襲ってきた【デザートスコーピオン】は現在対立していまして。なので【デザートスコーピオン】の奴らに見つかると追いかけ回されるんですよ」


「俺もそんな噂話を耳にしたが、どうして対立しているんだ? 聞いた話によれば死人が出たとか…… 血生臭い話もあるみたいだな」


「噂が一人歩きしているみたいですね。ご心配をかけました。確かに痛めつけられて怪我人は出ていますが、死人までは出ていません」


「それじゃ、対立している理由ってのは?」


 一方からの話だけで信じたりはしないが、話の流は把握できるだろう。


「僕達【グリーンウィング】は所属しているメンバーも十人しかいない小規模ギルドなんです。ですがみんな家族の様に仲が良くて、ダンジョンでは互いに助け合いながら素材を集めたりしています」


「捜索組のギルドって訳だな」


「そうです。そして【デザートスコーピオン】はA級ダンジョンに潜っていたギルドみたいなんですが、A級じゃあ荷が重かったのか? 最近、B級ダンジョンに戻ってきたんです」


 ハンネルが言う事はよくある話だ。

 B級冒険者パーティーがA級に挑戦して痛い目を見て、自分の限界を知り挫折して古巣に帰る。


 A級ダンジョンで活躍する上位冒険者の割合は全冒険者の中で二割程度である。

 管理ダンジョンを攻略する為の実力と、どんな逆境でも折れない強い精神力が必要となる。

 一方、心を折られ挫折した冒険者は古巣へと帰るが、A級ダンジョンに挑んだというプライドだけは捨てきれずにいる冒険者が多い。


「それでどうなったんだ?」


「はい。向こうから声を掛けてきて、一緒にダンジョンを潜る事になったんです。【デザートスコーピオン】は攻略組なので彼等が魔物を倒して、僕達が素材を集めるって事が決まりました」


 これもよくある話だ。

 違うギルドが一緒にダンジョンに潜り、効率よくダンジョン攻略を行う。


「結構素材も集まって、地上に帰ったんです。そして分配の話になったんですが、【デザートスコーピオン】が素材の殆どを力づくで僕たちから取ったんです。僕達も抗議したんですが、攻略組相手に喧嘩しても勝てなくて…… そのまま」


「そりゃご愁傷様だったな。だけどそれはお前達にも責任があるぞ、人を見る目が無かったって事だ。授業料として素材は諦めるしかないと思うが」


「僕達もそうしようと話し合ったんですが、話はそれだけは終わらなくて」


 よくある話だと思っていたが話はまだ続くようだ。


「その後、何も言わなくなった僕達を見下して【デザートスコーピオン】が僕達に今後も自分達の為に働けと言ってきて、嫌がらせをする様になったんです」


「成程、弱腰を見せたせいで付け込まれたって訳だな」


「はい。幾ら無視しても相手の方から近づいてくるんで、僕達も困っているんです」


 要するに【グリーンウィング】は運が悪くたちの悪い奴らに目を付けられたという訳だ。


「今回の件は大手に頼んで、手を出さない様に間に入って貰うのが一番手っ取り早い解決方法だぞ。自分達だけで対応しようとしても実力は相手の方が上なら聞き入れて貰えないからな」


「わかりました!! 一度マスターに伝えてみます。だけど僕達は大手のギルドと繋がりが無くて…… 助けてくれるギルドがあるかどうかが……」


「心配しなくてもラベルさんに言って貰えれば余裕だろ? だってラベルさんって【オールグランド】のギルドマスターと大親友だもんな!!」


 話を聞いていたダンがニシシと笑いながら、爆弾を放り込んできた。


「えっ!? 【オールグランド】って言えばこの国で一番大きいギルドじゃないですか!!! 【オールグランド】のギルドマスターって言えばSS級冒険者のカイン様ですよね? そんな凄い人と大親友だなんて……」


 ハンネルは口をあんぐりと開けて驚いていた。


 俺は初めて出会った知りもしない他人を助ける程の善人ではない。

 なのでこの問題にも関わらないつもりだった。


 俺がチラっとハンネルに視線を向けてみると、助けてほしそうなキラキラとした目を向けてきていた。


 更にその横には妹のエリーナ、そしてリオンも一緒に並んでいた。


「ラベルさん、私からもお願いします。エリーナ達を助けてあげれないかな?」


 リオンが俺に懇願してきた。

 リオンとエリーナは年齢も近く同じ女性冒険者である。

 移動中も仲良く話をしていたと思っていたが、二人はいつの間にか仲良くなっていた様だ。

 

 確かに関係のないギルド間の争いに巻き込まれたくは無いのは本当だ。

 だから頼まれても動く気はない。

 しかし頼んでくる相手がリオンの場合は話が違ってくる。


 リオンは俺の大切な仲間であり、幾つもの死戦を共にくぐり抜けてきた。

 更に死にかけていた俺を助けてくれた恩人でもある。

 あの筋肉ゴリラに頭を下げるのは癪だが、こういう案件はスクワードに丸投げすれば上手く収めてくれるだろう。

 

 何だかんだ言っても、どうやら俺はリオンに弱いみたいだ。


「はぁ~ 仕方ないなぁ…… ただし俺が動く前に【グリーンウィング】のギルドマスターに話をしてくれ。もしギルドマスターが俺に任せてくれると言うなら、ギルドマスターと会わせてくれ」


「はいっ!! ありがとうございます!!」


 その後、地上に戻った俺達は連絡方法だけを確認し、一旦別れる事となった。


 助ける事になるだろうが、一方だけの情報で動くのも危険だ。

 ハンネルが嘘を言っているとは思えないが、俺の方も今回の真相を調べた方がいいだろう。

 リュックの中には丁度よいチラシも入っている。

 あの二人は中々食えない冒険者だったし、一度依頼してみるのも悪くない。

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