第59話 フロアギミックと魔石

 二階層を突破した俺達は更に先を目指していた。

 リオンとダンは初めてのB級ダンジョンにも関わらず、普段通りの動きが出来ている。

 その理由として、今日までみっちりとダンジョンでの立ち回り方を教えてきた事が大きい。

 もちろんリンドバーグもB級ダンジョンは慣れた場所なので、動きに問題はなかった。


 二階層は森のステージだったが、三階層と四階層は荒野のステージに変わっていた。

 俺達はダンジョンに潜っている筈なのだが、目に映る景色は地上にある荒野と同じだ。

 空を見上げれば直視できない程のまぶしい光が降りそそぎ、つむじ風も吹き荒れていた。

 この階層に現れた魔物は【ファイアーマウス】と【キャタピラー】と呼ばれる魔物達。 

 【ファイアーマウス】はネズミと呼ばれているが、身体の大きさは大型犬と同じ位あるので、対峙した時の威圧感は大きい。

 動きは素早く、口から火を放って攻撃してくるが、攻撃は直線的で冷静に対応すれば、特に苦労する魔物でもなかった。


 【キャタピラー】は身体を丸く曲げる事で背中の固い皮膚で身体を守る事ができる。

 そのまま転がりながら攻防一体の攻撃で冒険者を襲う魔物である。

 キャタピラーは障害物に激突すれば動きを止め向きを修正する為、そのスキを狙えば簡単に倒す事ができる。


 そこで俺は二種類の魔石を手に入れている。


 五階層から九階層は普通の迷宮ダンジョンで、そこで数種類の魔石を手に入れる。

 手に入れた魔石の中にはゴブリンの亜種と【ブラックドッグ】の上位種である【サーベルタイガー】の魔石などが含まれていた。


 休憩に入る度に俺は一つずつ魔石を食べて、その効果を確認していた。



「大体わかって来たぞ。C級で手に入る魔物の上位互換の魔石を食べた場合は、出来る事は同じだけど魔力消費は大きくなるが、効果もアップするって感じか。長い時間能力を使用したい場合はC級の方が都合が良くて、ダンジョンマスターなどの強敵と戦う時は上位の魔石を食べた方がいいって事だな」


 体力と魔力の消費も考え、休憩中に検証する魔石の数は一つだけと決めている。


「【ファイアーマウス】の魔石は身体能力向上と火の耐性が上がっただけだし、【キャタピラー】の魔石は身体能力の向上と背中の部分が固く硬質化している感じだな。ダンゴムシって言えばいいのか? こんな能力どんな状況で使えばいいんだ?」


 戦闘に使える魔石から、あまり使えなさそうな魔石と種類は豊富だったが、一つだけ共通している事は身体能力も向上してくれる点だった。

 身体能力が向上した事は高難易度のダンジョンを挑む俺には好都合だった。

 当然C級ダンジョンの魔石よりもB級ダンジョンの魔石の方が身体能力の上昇率は高い。


 手に入れた全ての魔石の検証も終え、俺は自分にあった魔石を分別していく。




★   ★   ★



 B級ダンジョンに潜って今日で五日目。

 俺達はフロアギミックが待ち受ける十階層にたどり着いた。


「みんな聞いてくれ。この下り坂を進んだ先が十階層だ」


 俺は十階層に続く通路の前で立ち止まり、声をかけた。


「十階層はフロアギミックが発生している階層だから、ギミックを確認した後一度九階層に戻る予定だ。手持ちの装備でギミックの対策が出来るのであれば再び挑み、今回用意した装備で対応できない場合はそのまま帰還するぞ」


「フロアギミックってラベルさんがいつも言ってたヤバい階層の事だろ?」


「その通りだ。相当ヤバい所だから油断するなよ。ダン、お前が一番危なっかしいんだからな」


「わーってるって、俺も馬鹿じゃ無いからな。無茶はしないって!!」


「ダンはいつも軽いのよ。もっとラベルさんの言う事をちゃんと聞いて行動しないと!」


「へいへい。リオンねーちゃんはいつもそれだ。それでフロアギミックってどんな感じだったっけ?」


「お前なぁ、何度も説明してやったのに…… まぁいい、十階層に入る前にもう一度復習するぞ」


 俺は復習を兼ねて、二人に向けて説明を始めた。


「フロアギミックというのは、フロア全体が一つの試練となっている階層の事だ。それが灼熱の暑さだったり、極寒の寒さの場合もある。この二つは良く出てくるギミックだな。珍しいギミックと言えばA級ダンジョンでフロア全体が巨大な湖だった事もあったぞ。当然、水の中から魔物が襲ってくるからな」


「ひぇぇー、湖ってどうやって進むんだよ。泳ぐのか?」


「その時は前の階層で木材を調達して、いかだを作って攻略した。フロアギミックの数は無数にあってな、どんなギミックが発生しているかは行かない事にはわからない」


「一度、フロアギミックの階層に到達するまでギミックが解らないって事かよ」


 ダンも理解してくれたようだ。


「ダンがまともな事を言っている。ラベルさん危険だよ引き返した方がいい。きっと悪いことが起こるかも」


「リオンねーちゃん、流石にそれは酷いだろ!!」


 リオンはダンがまともな事を言ったので驚いていた。


「ダンジョンの情報はギルドが公開しているし、冒険者達の噂話、後は情報屋からも手に入れる事ができるぞ」


「フロアギミックの対策はダンジョン攻略において最重要事項の一つと見られています。今回はダンジョンが発見されたばかりなので、勿論フロアギミックの情報はありません」


 二人に対し、俺とリンドバーグがフロアギミックの説明を行った。


「説明はそんな所だ。今から十階層に入るぞ」


「うん」


「おっけい」


「マスター、先頭は私が引き受けます」



 下り坂を下りていく俺達は大量の汗をかき始めた。

 この感覚には慣れている。

 何度も体験したギミックだった。


「一般的なギミックだったな。これなら持ってきた装備で対応可能だ」


「うへぇぇー暑ちぃぃー」


「本当。凄く暑い。汗が止まらない」


「砂漠のステージですね。砂漠のステージでは【サンドワーム】と呼ばれる魔物が現れるかも知れません。アリ地獄を発生させ、冒険者を引き込みますので注意してください。どちらにせよ一度九階層に戻って対策しましょう」


 砂漠のステージは見渡す限りの砂漠だ。

 体感温度は五十度を軽く超えているので、対策なしで進むのは自殺行為である。


 砂漠は緩やかな起伏の地形だが、先は見渡す事は出来ない丘が幾つも見て取れた。

 歩くたびに砂に足を取られるので、重装備の冒険者にとっては辛いステージだろう。

 遠くの景色は蜃気楼で大きく歪み、その暑さを物語っている。


 俺達は一度九階層に戻り、水分補給を行った後、耐熱ローブを装備する。

 ローブと言っても薄い生地で作られた防御力皆無のローブ。

 だが魔力が込められており、一定温度までの熱を通さない効果をもつ。


「このローブを着ていれば、暑さをしのぐ事ができる。戦闘で破れる場合もあるが、補修すれば使えるから遠慮なく言ってくれ」


 全員が耐熱装備を着込み、再び十階層に舞い戻る。


「すっげー。全然暑くない!!」


「本当、これなら戦える」


「よし!! じゃあ砂漠を進むぞ。全員あまり離れずに誰かが助けられる距離を保とう」


 先頭をリンドバークが進み、そのすぐ後ろにリオンが並び、俺が中衛で遠距離攻撃が出来るダンが後衛として続く。


 しばらく歩いていると、前方の地面が盛り上がり始め、そのまま盛り上がりが俺達に迫って来るのがわかった。


「【サンドワーム】です来ました!!」


 リンドバーグが叫んだ。


「【サンドワーム】は攻撃する瞬間にだけ姿を見せる。その一瞬を見逃すな」


 俺の指示を受けて、前衛の二人が左右に展開した。

 リンドバーグの少し手前で【サンドワーム】が地中から姿を現す。

 体調は三メートルを超える大きなミミズの化け物で、身体の先端に何百本という牙を生やした大きな口を開いていた。飛び上がった状態で空中から一番先頭にいたリンドバーグ目掛けて急降下してくる。


 リンドバーグは慣れた動きで、サンドワームの攻撃を回避した。

 サンドワームは再び地中に潜ると大きな音をさせながら俺達の周囲を走り回っていた。


「次出てきた時を狙ってやる!!」


 ダンはそう叫ぶと、弓を構えた。

 俺は注意深くその様子を伺う。

 魔石を口に放り込み、ダンが狙われた時は俺が助ける準備を行った。


 しかしサンドワームが狙ったのはリンドバーグであった。

 地面の膨らみ方から攻撃を察知したリンドバーグが華麗にサンドワームの攻撃を避けた。


「喰らえー!!」


 その瞬間、ダンが矢を放った。

 しかし放たれた矢はサンドワームのすぐ脇を通り過ぎていく。


「嘘だろ!? 俺はちゃんと狙ったんだぞ」


 俺が想像した通りであった。


「熱で空気の流れがおかしいんだ。遠くになれば陽炎で狙いもつけ辛く、狙いを付けて放っても空気の流れで軌道が歪む。こういうステージは弓を扱う冒険者は苦労させられる。ダンも覚えておけよ」


「ふむふむ。そういう事か、じゃあ歪む矢の動きを予測できればいいって事だな」


 ダンは簡単そうに言っていたが、軌道を修正する事自体がどれほど難しい事かダンもすぐに気づくだろう。

 

 サンドワームの方は次の出現ポイントを先読みしたリオンに待ち伏せされ、出てきた瞬間に頭を切り飛ばされていた。

 リオンという先が読める天敵がいた事が、サンドワームにとって最大の不運だ。

 戦闘を終えた俺もスキルを一旦解除する。


 更に進んでいると、リオンが後方の俺達に向かって叫びだした。


「ラベルさん、足元から襲ってくる!!」


 その瞬間、地面が凹みはじめ、砂がどんどん地中に吸い込まれていく。


「アリ地獄か!? ダンも巻き込まれるなよ。中央にはサンドワームがデカい口を開いて待っているぞ」


 アリ地獄とはサンドワームが使ってくるスキルの事で、砂漠の砂を動かし冒険者を地中へと引きずり込む。

 

 俺とダンはアリ地獄が広がる前にその場から離脱した。

 俺がダンに視線を向けるとダンは三本の矢を構えていた。


「狙いがズレるならズレる程度散らばせばいいって事だよな?」


 ダンはそう言うと、三本の矢を散らばしながら放った。

 三本の内二本はサンドワームの脇をすり抜けたが、最後の一本は脳天を貫いていた。


 サンドワームはそのまま力尽きて動かなくなる。


「やったー! ラベルさん、こうやれば良かったんだな」


 ダンは嬉しそうにはしゃいでいたが、俺もこれ程早くこのステージに対応出来るとは思ってもいなかった。


 安全を確認した後、魔石と放った矢の回収を行うために俺達は休憩を取る事にした。

 日焼け防止の為、顔に塗るクリームと水を全員に手渡した。

 

 その後、俺は素早くサンドワームの魔石とダンが放った矢を回収すると皆の元へと戻って行く。


 水分補給を終えた後、早速手に入れた二つのサンドワームの魔石の一つを口に放り込んだ。


 俺の予想なら身体が柔らかく軟体動物の様な感じになると予想していたのだが、結果は違っていた。


「土を操れるっ!? へぇー、こいつは面白い」


 サンドワームの魔石は土を操れる能力だった。

 しかし土を操れると言っても、自由自在と言う訳ではなかった。


 慣れない今は、時間をかけて直径二メートル程度のアリ地獄を作るのが精一杯で、それだけでも結構な魔力を消費していた。

 しかし慣れればもっと上手く扱える様になる筈だ。

 消費した魔力はマジックポーションを飲み回復させておく。

 

 ここはダンジョンの中で、いつ魔物に襲われるか分からない。

 練習は地上に戻ってからする事にして、今は先に進む事にしよう。

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