第14話 C級ダンジョンの攻略が終わって
C級ダンジョンを攻略した二日後、俺はリオンを部屋に呼び出していた。
呼び出した理由は色々あるのだが、簡単に言えば誰にも聞かれずに話をしたかったからだ。
若い女性をおっさんの部屋に呼びつけるのもどうかと考えたが、どうしても誰にも話を聞かれたくなかった。
俺の心配をよそにリオンは嫌がる事もなく、俺の部屋に来てくれる事になったのでホッと胸をなでおろす。
約束の時間に俺の部屋にやって来たリオンを備え付けの椅子に座らせた。
部屋の中央に小さなテーブルを設置しており、テーブルを挟んで向かい合う形で俺も椅子に座る。
「リオンに相談があるんだが、まずはこの金を受け取って欲しい」
「相談? それに…… こんな大金、一体どうしたの?」
俺が手渡した布袋の中には金貨が十枚入っている。
思い出したくもない金額ではあるが、実際金貨十枚と言えば大金であり、外で女の子が一人で持っていると知れたら攫われかねない。
「まずはこの金について説明をしたい」
「うん」
「この金は先日攻略した
「売った金だと思ってくれって???」
リオンは困惑した表情を浮かべた。
「そう言ったのには理由があってな。実はダンジョンコアはまだ売っていないんだ。だけどリオンはお母さんの為にお金が必要だろ? だから相場の金額でダンジョンコアを買い取らせて貰いたい」
「どうして売ったらダメなの?」
「もちろん今からその理由も説明させてもらう。前に軽く話したと思うが、俺は今、大きな権力を持つ馬鹿野郎に目を付けられていてな。もし俺達がダンジョンに潜っている事を知ればまた嫌がらせをしてくる可能性が高い。アイツが俺に取った手段は陰湿だから、出来る限り俺がダンジョンに潜っている痕跡を隠しておきたいんだ」
「うん」
「ダンジョンコアを売れるのは冒険者組合だけで、売る際にも色々と情報を記載する必要がある。そうなればきっと俺達の情報がアイツの所に届いてしまう」
「うん」
「リオンは解らないかも知れないが、剣士とポーターの二人だけでC級のダンジョンを攻略したって言うのは物凄い偉業なんだ。この情報が広まれば俺だけじゃない。リオンだって好奇の視線が向けられる筈だ」
「そんなに凄い事なんだ。全然知らなかった」
「だから俺は今すぐにはダンジョンコアを売らない事にした。そうなるとお母さんの治療費でお金が必要なリオンは困ってしまうだろ? だから今回の様な買い取りという形を取らせて貰いたいと思う。相場はちゃんと時価を調べているから心配なら自分でも調べてくれていい。冒険者組合に行けば相場はすぐに確認できるからな。それでどうだろう?」
ダンジョンコアの費用は俺の貯金から出している。
数十年間、ダンジョンに潜る事以外の事はしてこなかったので、貯金はかなり貯まっている。
なので買取位は何でもない。
俺の問いかけに対するリオンの返事は早かった。
「理由は分かった。私の事まで気を使ってくれて本当にありがとう。私はラベルさんの決めた事に反論するつもりはないよ。ダンジョンを攻略出来たのだって、捨てられた私にラベルさんが手を差し伸べてくれた結果なのだから」
リオンは笑いながら言ってくれた。
「そうか、それじゃ今後もダンジョンを攻略する事ができたならコアの管理は俺に任せてくれるか?」
「うん。全てお任せする」
「話はこれで終わりだ。今日は体を休める為の休日だったのに、呼びつけて悪かったな。後は自由にしてくれ」
「ううん。全然大丈夫。それよりこれを受け取って欲しいの」
リオンは小袋の中に入っている十枚の金貨の内、五枚を取り出すと俺に渡してきた。
「半分? どうしたんだ?」
「最初に決めた事だよ。私の取り分は五割でラベルさんが二割、そして残り三割がアイテムとか準備金だって!! ダンジョンコアの売値の相場が金貨十枚なんでしょ?」
逆に俺が驚かされた。
リオンは俺が売値の金額、全てを渡していたと気づいたのだ。
俺は別にリオンがちゃんと返金してくるか? とか試した訳じゃない。
金貨十枚程度なら俺にとっては痛い金額ではないので、ギルド会館で調べた相場をそのまま無意識に袋に入れていただけだった。
俺のミスに気づき、決められた事はしっかりと守る。
そんなリオンの姿勢に俺は信頼を覚えた。
「貰っても、いいのか?」
「いいのか? じゃない。私達は
「あぁ、わかった。ありがとう」
俺はリオンから金貨五枚を受け取る。
「ラベルさんは今日どうするの?」
「俺か? 俺は次のダンジョン用のアイテムの補充とかで市場を回ろうかと思っているが?」
「私もついて行ってもいい?」
「買い物にか? 別にいいが、お母さんの傍についてやらなくても大丈夫なのか?」
「兄弟が見てくれているから大丈夫。それに最近は攻略で沢山のお金が入る様になったから、良質のお薬を買えるようになったし、回復スキルを持っている治療師の人にもみて貰えてるの。だからお母さんも日が経つにつれて元気になってきてる」
「そりゃ、良かったな。そういう事なら俺の方は構わないぞ。なんなら今から出かけようか?」
「うん。私も装備の新調を考えていたから、ラベルさんのアドバイスが欲しい」
「アドバイス? 自分が使いやすい武器を選べばいいと思うが…… まぁ気になった事があればアドバイスさせてもらうよ」
「うん。お願いします」
リオンはまた嬉しそうに笑う。
★ ★ ★
市場にたどり着いた俺達は適当に流しながら、良品が無いか確認していた。
市場には何十年も通い続けているので、顔見知りも多く、歩いているだけでも何人から声を掛けられた。
「おっラベル、今日は仕入れか? 今日は良質のポーションが入っているぞ。見て行けよ」
「おっそうか? 後で寄るよ。買う時は安くしろよ」
「ラベルさん。新しいアイテムを作ってみたんだ。次ダンジョンに潜る時にでも使ってくれよ。それで使った感想を聞かせて欲しいんだ。もし売れそうなら量産も考えているんだ」
立ち寄る店で俺は気さくに話しかけられ続けた。
「ラベルさん、凄い。人気者!!」
「一応、数十年通い続けた庭だからな。この市場の事なら隅から隅まで知っているぞ。ハンスの野郎も商店にまでは手を回していない様で助かったよ」
幾つかの店舗を回り、ポーションや薬などの常備品を買い揃えていく。
その途中で武器屋があるのでリオンを連れて店の中に入っていった。
店のカウンターにはスキンヘッドの強面の男が腕を組んで立っていた。
その迫力におされリオンが俺の後ろに隠れる。
「親方、久しぶり。ちょっと相談に乗って欲しいんだが」
「ラベルか、どうした?」
「この子はリオンって言うんだけど、剣士をしているんだ。リオンに武器や防具を見繕ってやってくれないか?」
次にリオンへ声をかける。
「リオン、親方は俺が信頼する武器職人だ。だから安心して相談するといい」
俺がリオンを紹介すると親方はリオンに近づき、全身を見渡した。
「それで嬢ちゃん、どんな装備が欲しいんだ?」
「えっと…… 剣。ずっと使っていたから傷んできているの」
「嬢ちゃん、ちょっと腕出してもらってもいいか?」
少し怯えていたリオンに俺は大丈夫だと声を掛けた。
リオンが腕を差し出すと、親方はリオンの腕の太さを自分の手を握って測っていた。
「嬢ちゃん、今使っている剣を見せて貰ってもいいか?」
「うん」
リオンは自分の剣を親方に差し出した。
親方は剣の長さやバランスを測っていた。
「剣の長さはどうだ? この剣より長い方がいいのか? 短い方がいいのか? それを教えてくれ」
「もう少しだけ長い方がいい」
「解った。ちょっと待っていろ」
一旦店の奥に姿を隠すと、数分後、一本の剣を手にしていた。
「この剣なんてどうだ? たぶんお嬢ちゃんに合っていると思うぞ」
手渡された剣で素振りするリオン。
リオンの表情が納得の表情へと変わっていた。
「うん。この剣がいい。買いたい!!」
「気に入ってくれたか、それは良かった。買ってくれるのなら…… そうだな。ラベルの紹介だから安くしといてやるよ。本当は金貨一枚って所だが、特別に銀貨十五枚でどうだ?」
金貨一枚を銀貨十五枚にまけてくれるのなら、リオンは銀貨五枚得した事になる。
「有難うございます。買わせて貰います」
「リオン、武器が決まったみたいだな。それじゃ俺の方から防具をプレゼントさせてくれ。親父、リオンのような女の子でも扱えるガントレットは無いか?」
「おう。丁度いいやつがあるぞ。男達にはサイズが小さすぎて売れ残ってた商品だから、嬢ちゃんにはぴったりだ。銀貨五枚でどうだ?」
「よし。それをくれ!!」
「ラベルさん。防具も自分で買うから大丈夫だよ」
「リオンは本当ならC級ダンジョンを攻略してC級冒険者を名乗れる筈なのに、ダンジョンコアを売れないせいで、誰も認めてくれない。これは俺の詫びなんだ。俺を助けると思って受け取ってはくれないか?」
「そんな事全然気にしてないのに、でもありがとう。大切に使うから」
「これからもよろしく頼む」
「うん。任された」
俺達は互いに笑いあった。
リオンにはこれからも世話になる。
ダンジョンに潜る事は大きな危険を伴う事だ。
たかが防具一つであるが、この防具で彼女の命が助かる事があるなら安い買い物である。
俺はリオンに出来る限りのサポートをしたいと考えていた。
そしてC級ダンジョンを攻略した俺達は、次のステップとして本来ならB級ダンジョンの攻略を目指すのだが、B級ダンジョンを目指すにはどうしても足りない物があった。
それはレアな回復アイテムでもなければ強力な武器や装備でもない。
(二人だけじゃ。どんなに頑張ってもB級ダンジョンは不可能なんだよな。新しい仲間をどうにかして見つけないと……)
B級ダンジョンに出てくる魔物はC級より何倍も強い上に当然複数で攻めてくる。
リオン一人で対応させるには負担が多すぎるのだ。
隣を歩くリオンに視線を向けて、俺はこの難題をどう乗り越えればいいかを考えていた。
何故ならこの街の冒険者全員が俺とは組んでくれない状況なのだから。
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