第15話 新しい仲間とギルドの新設
親方の店を出た後、俺達が並んで歩いていると俺の背後に軽い衝撃が伝わった。
振り返ってみると、走ってきた少年が背中にぶつかって来たみたいだ。
オレンジ色の短髪と日焼けで小麦色に焼けた肌、着崩れでボロボロとなっている服が印象的だった。
「おっと、おじさんごめんよ」
「おっおう。気を付けろよ」
少年はそう言うと走り去っていこうとした。
「あいでででで!!」
次の瞬間、俺の横にいた筈のリオンがいつの間にか少年の前に移動しており、少年の腕を取り捻り上げ拘束していた。
少年は腕を捻られ、痛みで手に持っていた小袋を地面に落とした。
「あっその袋は俺の……」
「ラベルさん、今この子に財布を掏られたんだよ。この子どうする? 憲兵にでも突き出す?」
「ごめん。ごめんって!! もう二度としないから。頼むよ許してくれよ」
俺は小袋にお金を小分けにして持ち歩いている。
一つの小袋に入っている金額は小さいので取られたとしても被害は少なく、憲兵に突き出す程でもないと思った。
なのでこれから二度とスリをしないと誓ってもらえば俺としては許してやってもいい。
「本当、憲兵だけは不味いんだよ。じゃあ気が済むまで殴ってくれたらいいから」
少年は憲兵に突き出される事を相当恐れている様子だ。
スリの未遂程度なら労役刑に処される事もない筈なのに、何か理由でもあるのだろうか?
気になった俺は少年に質問してみる。
「どうして憲兵に突き出されたくないんだ?」
「言えば許してくれるのかよ?」
「そうだな。理由にもよるがとにかく話してみろ」
「ちゃんと話すから絶対に突き出したりしないでくれよ。実は俺は孤児院に住んでいるんだ……」
話を聞けば少年は孤児院の為にスリをしたみたいであった。
国からの補助金だけでは子供たちにおなか一杯ご飯を食べさせれないと嘆いていた職員の言葉を聞いて、どうにかしたいと思ったらしい。
もし憲兵に突き出されたら、孤児院の補助金すらなくなる可能性があるから許して欲しいとの事だった。
俺は少年の目をジッと見つめた。
俺には少年が嘘をついている様には見えなかった。
今まで何十年と癖の強い冒険者達と過ごしてきたんだ。
相手の嘘を見抜けなければ、自分の命を冒険者に預けるポーターという職業を今日まで続けてこれなかっただろう。
「わかった。そういう理由なら今回だけは見逃してやるが、もう二度と犯罪なんて起こすなよ?」
「でも学もなく、お金もない俺達のような孤児がお金を稼ぐ方法なんて何もないし……」
少年は絶望に満ちた声でそう呟いていた。
「ラベルさん。私がこの子をとらえる事が出来たのって、スキルの力で見えていたからなの。もしスキルが無かったらきっと気付いていなかった。動きがとても速い。この子には才能があると思うんだけど……」
リオンも少年の力になりたいと思っているようだ。
突然、少年に冒険者になる才能があると言い出した。
俺も同じ事を考えていた。
この少年の瞳には強い意志があり、そんな人間は大きく成長する。
それは俺が今まで多くの冒険者を見てきた経験からの推測であった。
そして一つの答えにたどり着く、街中の冒険者が俺の敵なら冒険者じゃない者を冒険者に育てればいいと!!
「お前名前は何ていうんだ?」
「俺のなまえ? ダンだけど……」
「ダンって言うのか。ダン良く聞け、お前はお金を稼ぎたいと本気で思っているんだな?」
「それはもちろんそうだ」
「それが仮令(たとえ)危険な事であっても逃げないといいきれるか?」
「俺に何をさせる気だ?」
「お前が本気なら冒険者になる気はないか?」
「俺が冒険者になるだって!?」
「あぁそうだ。冒険者になれば自分の力で金を稼ぐことが出来る。そうすればお前を育ててくれた孤児院にだって仕送りする事もできるぞ」
ほんの少しだけダンは考えていたが、すぐに俺を見つめて頷いた。
「俺でいいなら。俺でも冒険者になれるなら…… 俺は冒険者になる」
「よし、よく言った。安心しろ、いきなり魔物と戦えとか無茶は言わない。ダンが本気で冒険者になる気があるなら俺が育ててやる。俺に付いてくる覚悟はあるか?」
「おじさんは冒険者だったんだね」
「いや俺はまだ冒険者じゃない。俺は冒険者を目指しているポーターだ。でもお前を捕まえたリオンはC級ダンジョンを攻略した一人前の冒険者だぞ」
ダンは冒険者にしてやると言ったおっさんが実は冒険者でもなかったと知って、ビックリしていた。
俺自身も自分で言っていて恥ずかしかった。
「こんな俺でも冒険者になれるのなら、俺は冒険者になる。冒険者にしてくれ!!!」
ダンは大声で叫ぶ。
いつの間にかリオンはダンの拘束を解いていた。
「あぁ、任せろ。さっそくお前には冒険者になる為の訓練をうけてもらう。ここで逃げ出すようじゃ冒険者には決してなれないと思え」
「分かった」
俺はそう言うダンとリオンを連れて街を離れていく。
移動の途中でダンの事をきいてみた。
ダンは捨て子で年齢は十四歳、リオンが十六歳なので二つ年下となる。
身長はリオンと同じ位あり、見た目で言えばどっちが年上なのか? 俺には区別がつかない。
★ ★ ★
俺達は街を抜けて、広大な草原にたどり着く。
この辺りには大きな敷地を囲っている柵が幾つもあり、柵の中には数十頭の牛が牧草を食べていた。
俺は牛を眺める男性を見つけて声を掛けた。
「ガリバーさん。お久しぶりです。お元気でしたか?」
「おぉぉ、ラベルじゃないか? 久しぶりだな。カインの噂は聞いている。大丈夫か?」
「カインの方もスクワードが捜索隊を率いて救いに向かっているから、たぶん大丈夫です」
「はっは、俺もお前と同じ意見だ。幾ら歳をとって現役を退いたとはいえ、あのカインがただの人間相手に後れをとる訳がないだろうよ。それにスクワードが向かっているなら安心だ。それで今日は何の用で来たんだ?」
「今日はガリバーさんにお願いがあって来たんです。この少年をダンジョンで戦える様に鍛えて欲しい」
「お前の横にいる少年を鍛えるのか? ちなみにどの位まで教えればいいんだ?」
「そうですね…… 最低限、ダンジョンに潜れる位は教えてやって欲しい」
「ふむ…… お前には借りがあるからな。こんなワシで良ければ力を貸そう」
「ガリバーさん、ありがとうございます」
「して小僧、俺の稽古はちょっとキツイが音をあげる事は許さんぞ」
「俺は冒険者になるんだ。どんな訓練だって耐えてみせるよ!!」
「ダン、よく聞け。この人はガリバーさんと言って、有名な冒険者だった人だ。ダンは今日からガリバーさんの訓練を受けてもらう。この人の教えを忠実に守れば、必ず凄い冒険者になれる。ガリバーさんが認めてくれたら訓練は終了で俺とリオンと共にダンジョンに潜る事になる。それでいいか?」
「わかった。おじさんありがとう」
「気にするな。もし訓練が辛かったり、冒険者に成りたくなかったら逃げたらいい。俺も無理強いはしない。だけど本当に冒険者になりたいと願うなら、ガリバーさんから多くの事を学び取るんだ」
「うん。わかったよ。俺は絶対に逃げない。って言うかおじさんの名前って聞いてなかったね」
「俺はラベル。そして彼女がリオンだ。今日から俺達は仲間だ、宜しく頼む!」
「宜しくお願いします」
「ダン君、宜しくね」
俺が手を差し出しダンが握り返す。
俺達の握手の上にリオンが自分の手をのせた。
「二人に提案があるんだが、俺はこれから冒険者組合に行って、新しいギルドを作ろうと思う。ギルドのメンバーじゃなければ入れない管理ダンジョンとかもあるからな。それでいいか?」
「私達のギルド……」
「何だかトントン拍子に話が進んで、俺には話についていけないよ。俺が冒険者になれるとも限らないのに」
ダンが不安そうにしていた。
「なに、ガリバーさんの指導を受けるんだ、ダンが逃げ出さない限り絶対に大丈夫だ」
「俺を馬鹿にするなよ。逃げたりなんかするもんか!!」
「それじゃ、新しいギルドで待っている」
俺とリオンはダンを残してギルド会館へと向かう。
その途中、リオンが話しかけてきた。
「ラベルさんが言うから大丈夫なのは解っているんだけど、あのガリバーさんってどの位凄い人なの?」
「そうだな…… あの人は俺が知ってる化け物の内の一人だな」
「私はラベルさんが言う化け物のレベルが怖いよ」
「大丈夫だって、根はやさしい人だから。ダンも死にやしないよ」
そう言いながら、俺は昔のパーティーメンバーの事を思い出していた。
その後、冒険者組合に到着した俺達は、そこでハンスのダンジョンアタック失敗を知る事になる。
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