第12話 カインの救出 その1

 時は遡り、ギルドの合同会議が襲撃されたという情報が入ってから三日後、スクワードは自分が編成した救出部隊を連れて隣国【アイスバード】にたどり着いていた。


 普通、【オールグランド】のある首都【ストレッド】から【アイスバード】まで行くには馬を使い潰したとしても、五日は掛かる。

 しかしスクワードは最短ルートを選択し、街道も無い森や山岳地帯を自分達の足だけで走り続け、最短日数でたどり着いている。

 それはトップ冒険者達にしか出来ない芸当だった。

 現役を引退したスクワードも常に先頭を走り続け年齢を感じさせない実力を示していた。


 今回、救出隊に選んだ冒険者達は戦闘に特化している事は勿論だが、数人は特殊能力にも秀でた者を選んでいる。

 万全を期する為、十名のメンバーの中にはS級冒険者パーティーが一つ丸ごと入っていた。


 最高戦力を使って、どんな状況であったとしても必ずギルドマスターを連れて帰るつもりだ。


「あのカインが不意打ち程度で殺されるとは想像し辛いが、何があるか解らんからな……」


「心配する方が馬鹿らしいわ。きっと見つけ出しても「来るのが遅い!!」って愚痴られるだけよ」


 スクワードの隣に立っているのは、仮面をつけた女性だった。

 細身の体とくびれた腰、腰の高さまで伸ばした金色の髪は滑らかに流れ、光り輝いていた。

 あふれ出す雰囲気だけでもマスクを取れば絶世の美女である事は容易に想像できるだろう。

 そんな彼女は、ギルドマスターの事を全く心配してない様子だ。


「娘なのに心配じゃないのか?」


「私が言うのもなんだけど、お父さんは人間じゃないわ。あれはきっとゴリラよ」


 彼女の名前はアリス・シャルマン。

 【オールグランド】に三組しか存在しないS級冒険者パーティーの一つを率いている。

 父親はギルドマスターのカイン・ルノワール。

 父親と共に母親もSS級冒険者であり、その血を引き継いだアリスは生まれながらにして天才であった。

 しかし親の七光りと呼ばれる事を嫌い、冒険者になった時から顔には仮面をつけ、名前も母方の性を名乗っている。

 けれどその実力は飛び抜けており、両親の良い所取りをした本物の化け物だとスクワードも認めていた。


 S級冒険者になってからは極秘の任務をメインに受けており、余り目立った行動はとっていない。

 

「アリス。親父がゴリラなら、お前はゴリラの娘になってしまうぞ。ゴリラの娘でいいのか?」


「スクワードおじさん。私が仮面をつけている時はアリスじゃなくて、シャルマンよ。どこで聞かれているかわからないから気を付けてよね」


「そうだったな。悪かった」


「分かればいいのよ。さっきの質問なんだけど私はお母さんの血を引き継いでいるから、ゴリラじゃないわ。どちらかで言えば、お母さんが呼ばれていた【百の魔法を操る狂戦士ハンドレッドバーサーカー】よ!!」


「ゴリラも狂戦士バーサーカーも変わらない気がするが……」


「大違いだわ。だってゴリラには品がないじゃない」


「それじゃ冗談はここまでにして、まずは情報を得る事から始めるぞ。最初に今回会議の護衛をしていたギルド【氷原の王者】のホームに向かう」


「それが良いわね」

 

 目的地が決まったスクワード達は【アイスバード】最大のギルド【氷原の王者】で情報を得る事にした。


 


★   ★   ★




 ギルドの合同会議は隣接する六カ国の代表のギルドが一年に一度集まり、国を跨ぐ問題や共通のルールなどについて話し合う。


 開催国は持ち回りとなっており、六年で一周する。

 会議の開催は開かれる国の冒険者組合が陣頭指揮を執るのだが、動くのは会議が開かれる国の代表ギルドのメンバー達だ。

 会場の用意から警護まで会議が終わる一週間、昼夜問わず働き続ける。

 もし各国の代表のギルドマスターに怪我でもされたら国際問題にもなりかねないのだ。


 毎年、開催国となる国の冒険者達はこの会議が終わるまで、気が抜けない日々が続く。


「この度は不甲斐ない事態になってしまって、申し訳ございません」


 事前にアポイントを取っていたので、スクワードがギルドホームに着いた時には、ホーム手前でギルドの幹部が総出で出迎えていた。


 全員が疲れ果てた表情をしており、碌に睡眠も取れていないのは一目瞭然だった。


「【オールグランド】のスクワードだ。それでどういう状況なんだ?」


「はい。会議を襲ったのは数十名の手練れです。会場に遠距離で攻撃を仕掛けてきて、外に注意を向けた瞬間、どうやって内部に入り込んだのかわかりませんが、会議室に更に数十人の男達がなだれ込んで来たと部屋の中を守護していた冒険者が申しています。部屋の中には十名の冒険者を配置しておりましたが、抑えきれずに乱戦となってしまった様です」


「乱戦になったんなら。各ギルドのギルドマスターがいるんだ。そう易々とやられたりしないだろう?」


「それが、突然地面に穴が開いたみたいで、転移のスキルか魔法を使用されギルドマスター達の行方が分からなくなってしまいました。本当に申し訳ございません」


「マスター全員の行方が分からないのか?」


「いえ。転移させられたのは二名で、カイン様とアイシャ様です。

 残されたギルドマスターと我々で、襲って来た者を殲滅する事は出来たのですが、飛ばされたお二人の行方はまだ分かっていません」


「事情は分かった。俺達もさっそくマスターの捜索に移りたい。申し訳ないが、地理に詳しくないんで、数名案内役の冒険者を斡旋してくれると助かる」


「そう仰ると思っていました。既に三名のギルドメンバーを用意しております。どの冒険者も地理に詳しい者達ばかりです。気兼ねなく使い倒して下さい」


 三名の冒険者がスクワードの前に整列していた。


「流石に準備が良いな。悪いが今すぐ俺達を会議があった建物に案内してくれ、一度現地を確認しておきたい」


「わかりました。会場はこの近くです」


 スクワードは会議場へ移動を始めた。

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