第9話 ハンスの誤算 その1
ハンス達がSS級ダンジョンの攻略を開始して今日で五日目が経過していた。
今は十五階層を進行中である。
ハンスが予想してたよりも速い速度で攻略が進み、出だしは順調そのものだ。
「ふはははは。もう十五階層だぞ。この調子じゃ十五日もあれば攻略できそうだ」
「あの約束忘れないでね」
猫撫で声でレミリアが甘えてくる。
「何でも買ってやるっていう話か? あぁ任せろ。このアタックが終わった後、俺はこの国に存在する唯一のSS級冒険者になるんだからな。SS級冒険者になれれば、金の方から寄ってくる様になる」
野営のテントの中で酒が入ったコップを片手にハンスは上機嫌だった。
SS級冒険者は記録を見ても今までで五組しかなく、現存するパーティーは一組もいない。
その理由はSS級ダンジョンの攻略の難しさと数十年に一度しか発現しない発現率の低さ。
その為、幾ら実力を持っていても、活動期間内にSS級ダンジョンが発現しないという不運な冒険者も大勢いる。
ハンスは持って生まれた幸運で年齢的にも、経験的にも、金銭的にも最高の状態で最高難度のSS級ダンジョンに挑む事ができている。
こんな好条件で攻略出来なければ、ハンスはもう二度とSS級冒険者の称号には手が届かないだろう。
ハンスもそれを解っているので、気合を入れて準備を行った。
失敗が許されないこのレイドに参加させるメンバーを厳選し、次に装備やアイテムを揃え、陣形や進行ルート、戦闘方法を決定させた。
ハンスは悩んだ末、前衛に三角形の形にパーティーを配置し、三つのパーティーが決まった時間ごとに回転しながら最前線を入れ替るスタイルを採用した。
これはハンスが考案した陣形で、前衛の各部隊が均等に休める様に考えた結果だ。
前衛の三つのパーティーは最も能力が高いS級冒険者のユニオンのパーティーとベテランのA級パーティーに任せている。
次に中衛にハンスの主力パーティーが入る。
ラベルが抜けた補充としてA級ダンジョンにも潜った事のある従順なポーターを加えており、人数的には前回と変わらない。
前衛と後衛の両方に最も早く応援できる為と説明しているが、それは建前でただ戦力を温存しておきたかっただけだった。
最後に後方の守りとしてリンドバークが率いるパーティーが付き従っていた。
リンドバーグを負担の少ない後方に配置したのは、もちろんハンスの采配だった。
「前衛部隊に伝えろ。ダンジョン攻略では前線の維持が最も大切だ。回復アイテムは惜しみなく使え。ポーションは前回の十倍以上持ってきているんだ。どれだけ使っても尽きる事はない」
ハンスは気前よくアイテムを振舞っていた。
今回用意したアイテムの購入費は全てギルドの運営費から捻出している。
気前よく振舞っても、ハンスの財布は痛まない。
こういう所でケチらないのがハンスの良い所でもあった。
しかしハンスはSS級ダンジョンを甘く見ていた。
この場所がどれほど危険な場所なのか?
表面的には解っているつもりだが、本質的には全然分かっていなかった。
前回、このダンジョンに挑んだ時はアイテムの管理から進行ルートの決定まで戦闘以外の全ての業務をラベルに押し付けていた。
メンバー達はラベルの決めたルートを進行し、現れた魔物を倒す事だけに全神経を集中していたのだ。
なのでハンスは初めてSS級ダンジョンの指揮を執るのである。
ハンスの進行はいたってシンプルだった。
豊富な資金で大量に用意した回復アイテムを湯水のように使い、最大の戦力で真っ直ぐ最短ルートを突き進む。
ルート上に危険な魔物がいたとしても、最強ギルドの精鋭達が簡単に蹴散らしてくれると考えた。
どんな障害だろうと自分達を止める事は出来ないと。
そしてハンスの予想は的中した。
しかも予想以上の結果となった為、自信をつけたハンスが更に増長していく事となる。
快進撃の原動力は、やはり前衛に配置しているユニオン率いるS級パーティーだった。
彼等の突進力は凄まじく、出現する魔物達を軽々と踏み潰していく。
このダンジョンが最大難度のSS級のダンジョンだという事を忘れる位の圧倒的な強さを見せてくれた。
ハンス達は破竹の勢いで攻略階層を重ね続けた。
しかし二十五階層にたどり着いた時に、勢いがパタンと止まる事になる。
二十五階層は森林のステージで、無数の木々で作られた視界の悪い自然のダンジョンが待ち受けていた。
見上げれば空が存在し、天空からは光が注いでいる。
光が注がれ、木々の隙間には光の筋が何本も浮かび上がり、その神秘的な風景はまるでエルフの森に迷い込んだかのようだ。
しかし森には姿を隠蔽する厄介な魔物や他に飛行する魔物が大量に生息していたのだった。
そしてこの階層で化け物染みた力を発揮していたS級パーティーの弱点が露わとなる。
ユニオンのパーティーは近接戦闘がメインの為、飛行する魔物を苦手としていたのだった。
ギルド内でもっとも攻撃力の高いパーティーが長い年数、S級で止まっている理由、それはパーティーのバランスが近接職に偏りすぎていたのだ。
型にハマればどんな強敵だろうと軽々と粉砕していく反面、苦手な魔物が相手になると本来の力の半分も発揮できない。
今まで順調だった分、この停滞がどれほど重要な事なのか理解できてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます