第8話 ハンスの大規模攻略
「S級のパーティーが二組にA級のパーティーが三組…… 参加総人数が二十五人。十分過ぎる戦力だな」
メンバー表を見つめていたハンスはこれから行う偉業の成功を確信し、笑みを浮かべる。
「前回、私達がアタックした時は確か四十階層まで行けたんだっけ?」
「あぁ、あの時は調子も良かったしな。あのおっさんが引き返そうと言わなければ、そのままダンジョンマスターだって倒せていた筈だ」
ハンスは当時の事を思い返し、一瞬だけ表情を曇らせた後、イラついた表情に変わる。
「ふふふ。もぅ怒らないで。あの邪魔者も追い出したんだし、これでもう貴方を止める者はいないわ。後はハンス、貴方の名前を国中に轟かせるだけね」
「あぁ、必死にここまで成り上がってきたんだ。俺はこのまま、この国の頂点を目指してやる」
「素敵…… それでこそ私が惚れた男よ。ねぇ…… SS級ダンジョンを攻略して私達がSS級冒険者になれた暁には何かご褒美を買って欲しいんだけど」
猫なで声でレミリアが背後からハンスに抱き着いた。
豊満な胸の感触を背中で感じ、ハンスも満更ではない様子。
「いいぜ。何でも買ってやる。今の内に欲しい物を見つけておけよ」
「うふ、約束よ。やぶったら許さないから」
可愛く甘えるレミリアを抱擁しながら、ハンスは次のステップに着手しようとしていた。
ハンスはこの国最大のギルドマスターという一つの頂点に立った。
しかしこの程度で満足する様な男ではなかった。
ハンスが次に狙って居るのは称号である。
それもほんの一握りしか取得できない特別な称号。
その称号さえ持っていいれば一生遊んで暮らせる絶対的な称号。
その欲している称号が手が届く所にきている事をハンスは理解していた。
ハンスは何としてでも手に入れるつもりだ。
SS級ダンジョンを攻略したという称号を!!
【オールグランド】には三つのS級パーティーが所属している。
一つ目はハンス率いるラベルが加入していたパーティー。
最後にS級となったのでS級としての年数、またA級からS級になるまでの期間が最も短い。
最短年数でS級まで成り上がった、有望視されていたパーティーである。
ギルド内の評価も高く、最もバランスが取れているパーティーと呼ばれていた。
次にユニオンと言う重戦士率いる超攻撃特化のパーティーだ。
三組のS級パーティーの中では一番古株となっている。
筋骨隆々の重戦士のユニオンと肉弾戦を得意とする近接戦闘メインのメンバーで構成されており、【攻められる前に攻め滅ぼせ!】を目標に掲げ、ダンジョンに挑み続けている。
最後はカインの捜索メンバーに選ばれているシャルマンのパーティーだ。
ちなみにシャルマンという人物は表に出る事は殆どなく、出てきたとしても仮面を装着し、顔を隠しているのでハンスも詳しくは知らない。
残るS級と言えば古参の幹部であるスクワード位だろう。
A級は多くいるが、トップ冒険者と呼ばれるS級冒険者はそう易々となれる称号ではない。
そしてこの【オールグランド】で最高ランクはやはりマスターであるカインだった。
カインはこの世界でたったの五組しか存在しない。SS級パーティーの冒険者だったのだ。
スクワードとカインは既に現役を引退し、ダンジョンに潜る事はないが、カインの輝かしい実績や全世界でも数名しか居ないSS級の冒険者という名誉は一朝一夕で追いつける様な軽い物ではない。
この国のトップを目指すハンスにとってSS級冒険者の称号は喉から手が出る程欲しい代物だ。
だからこそハンスは、前回のアタックでSS級ダンジョンを調子よく攻略していたのに、何を思ったのか? 四十階層に入り、急に引き返しを提案したラベルの事を本気で恨んでいた。
ラベルが追放されたその理由、ハンスの野望をラベルが邪魔をしたからだった。
その制裁としてラベルは追放された上に、子供染みた嫌がらせまでも受けていたのだ。
★ ★ ★
複数のパーティーが連携し、共にダンジョンを攻略する事を
自分が主役となり総勢二十五名で行う
SS級ダンジョンは攻略された検証数が少ないので確実とは言えないが、残された資料から考えるに限り、五十階層が最下層だと思われている。
ハンスは数ヶ月前、たった五人でダンジョンの四十階層まで攻略している。
残りはたったの十階層。
前回が少数の五人に対して今回は二十五人の大所帯の上参加メンバーが豪華だ。
最大の戦力はユニオン率いるS級パーティーだろう。
次に何度もA級ダンジョンを攻略しているベテランのA級の冒険者達。
実力は折り紙付きで、どう見ても失敗する要素が見当たらない。
ハンスは簡単にSS級ダンジョンを攻略できると思い込んでいた。
「ふははは。こりゃ場合によっては俺が戦わなくてもダンジョンを攻略してしまう可能性だってあるぞ」
ハンスはそんな悠長な事を考えたりして高らかに笑う。
★ ★ ★
今回、
B級冒険者だったのだが、ハンスが無理矢理パーティーを再編成させ、A級冒険者パーティーにねじ込んでいた。
ハンスの命令に忠実で絶対にノーとは言わず、ハンスも小間使いとして重宝しているので今後も自分の近くに置いておくつもりだ。
ハンスは進捗状況の確認の為、リンドバーグを執務室に呼び寄せた。
「リンドバーグ、準備の方はどうだ? 予定日に間に合いそうか?」
「ハンス様に報告します。準備は八割方終了しています。後三日もあれば完了すると思います」
「途中に寒冷地の階層があったと記憶している。防寒対策は出来ているのか?」
「はっ。前回のアタック時に作成した地図に出現する魔物の特徴や各階層の構造も詳細に記載されていましたので、準備に抜かりは無いかと!!」
「よし。それでは当初の予定通り、一週間後にSS級ダンジョンにアタックを掛ける。全メンバーに体調管理を怠るなと伝えておけ!!」
「了解です!!」
「このレイドだけは何としても成功させなければいけない。期待してるぞリンドバーグ」
「任せてください。私をここまで押し上げてくれたハンス様には恩義があります。精一杯務めさせて頂きます」
リンドバーグは深々と頭を下げると、その体勢のまま回れ右を行い、部屋から去っていく。
★ ★ ★
一週間後、SSダンジョンの入り口には総勢百人を超す【オールグランド】のメンバー達が集まっていた。
周囲にはメンバーよりも多い数の見学者が今から開始される
ハンスは多くの視線を受けながら、これから始まる伝説に奮い立っていた。
自分が物語の主役である事がハンスの興奮を更に一段階押し上げる。
集まる視線は嫌らしい物ではなく、期待を含んだ視線だ。
心地よい視線に晒されながら、ハンスは第一声を発した。
「我々は本日、歴史の一ページを刻む為にこの場所に集まっている。ギルドの状況はとてもいいとは言えない。風の噂で【オールグランド】はもう終わったなどと、下らない話が聞こえてくる。だからこそ私はSS級ダンジョンの攻略に着手する事を決めた。この国で最強のギルドは何処だ?」
「俺達、【オールグランド】だ!!」
「そうだ。その通りだ。今回のアタックが終わった俺達には、誇れる事が一つ増えている。今から三十年後、自分の孫が今日の事を書かれた英雄譚を読んで、自分の祖父が伝説のギルドにいた事を知った時、「SS級ダンジョンを攻略していた時におじいちゃんは何をしていたの?」と聞いたなら、こう答えたくはあるまい。「多くの冒険者に守られ後方で隠れていたんだ」と。そうではない、俺達は孫の目をまっすぐ見てこう言うべきだ。「おじいちゃんは最前線で魔物を相手に一歩も引かなかった」と。これで私の気持ちはわかっただろう。いつも、どこでも、お前達のような勇敢で素晴らしい冒険者を率いて戦える事を私は誇りに思っている。後れを取るな!! 私に付いてこい。英雄譚に名前を残したければ命を懸けて戦い抜くんだ」
「おう。やってやろうぜ!! 俺達がこの国最強のギルドだって事をここに実証するぞー!」
「伝説に名を残してやろうぜ!!」
「俺達はマスターについていくぞーー!!」
盛り上がりは最高潮に達し、ハンスは自分の演説に酔っていた。
参加者全員が雰囲気に飲み込まれ、興奮状態と化していた。
見物者達もハンスの堂々とした演説に盛大な拍手を送っていた。
出発は最高の形で始まり、いよいよSS級ダンジョンの攻略が開始された。
しかし今回のダンジョンアタックはハンスにとっては悪夢の始まりでもあった。
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