第7話 たった二人のダンジョン攻略 その2

「リオン、俺達が最下層にこれただけでも快挙なんだぞ。無茶をして怪我でもしたら勿体ない。準備を整えてもう一度来てもいい筈だ」


「うん。解ってるけど、初めて最下層まで来たんだから、私ダンジョンマスターを見てみたい」


「見てみたいって、子供かよ…… って本当に子供だったな。化け物じみた強さを持っていたから、すっかり忘れてたぞ。はぁ…… 仕方ない。今回は俺が気を張ってサポートしないとな」


 俺は帰る事を諦め、慎重に最下層の中を進んでいった。


 このダンジョンに出てくる魔物はゴブリンと呼ばれる魔物達だ。

 俺が作るマップには地図以外にも出現する魔物も書いている。

 理由は帰る時の安全を確保するため、厄介な魔物が出てくる道は出来るだけ避けて通りたいからだ。


 出来上がった地図を見てみると、ダンジョンの出現モンスターは地下一階層から五階層まではゴブリン。

 六階層から十階層の間がホブゴブリンと呼ばれているゴブリンの上位種族の魔物。

 そして十一階層から二十階層はゴブリンエースと呼ばれる更に上位個体が出現していた。

 このダンジョンはゴブリンだけが生息するゴブリンダンジョンなのだろう。


 なら推測するにあたって、ダンジョンマスターはゴブリンエースの上位個体であるゴブリンジェネラルの確率が高い。


 ゴブリンエースは単体で攻撃をしかけてくる事は無い。

 必ず複数体で縄張りに侵入した敵を襲う。

 少ない時で二体、多い時は六体同時に現れる事もあった。


 一人で六体を同時に戦うのはベテラン冒険者でも難しい筈だ。

 しかしリオンは先読みのスキルで未来が解る。

 なのでどの個体から攻撃すれば効率がいいのか? 

 逆に攻撃を仕掛けられた時はどの方向に逃げれば反撃に移れるのか? 

 などの判断に迷う事がなく、戦闘において絶対的なアドバンテージをもっていた。


 普通なら不可能と思われる状況でも、リオンにとっては別段難しい状況と言う訳でもなかった。

 更に俺のスキルによる身体能力向上により、動きと力にも余裕がある。


 俺とリオンのスキルの相性は抜群に良いと感じた。


 そうなるとリオンの方は心配しなくても大丈夫なのだが、この階層になると逆に俺がヤバいだろう。

 現れたゴブリン達が都合よくリオンだけを狙う訳ではない。

 勿論、俺がターゲットにされる事もある。

 なのでできる限りゴブリンの死角に身を隠したり、もしターゲットにされた時は、リオンに声をかけて、ゴブリンのターゲットをリオンにすり替えたりもした。


 こんな少女にゴブリンを押しつけるのは申し訳ないとは思うが、これがダンジョンに潜るということ。

 ダンジョンに潜っている以上は自分の役目をしっかりと理解し、その仕事に応じた行動をしなくてはいけない。

 【少女に助けられるおっさんなんて恥ずかしい】とか考えていたらパーティーはあっと言う間に全滅してしまう。

 情やプライドで動けば、自分だけでなく仲間にも迷惑が掛かる可能性が高いのだ。


 俺達が最下層の迷宮を彷徨っていると、大きな広場にたどり着いた。


「着いたな。最奥に魔物の影が見えるだろ? あれがこのダンジョンのダンジョンマスターだ」


「あれがダンジョンマスター…… 凄く大きいわ」


 リオンはそうつぶやくと生唾を飲み込んでいた。

 

「これで満足しただろ? 今日の所は帰るか……って言いたかったけど、どうやら相手さんの方がこっちに気付いたみたいだぞ。こうなったらもう後には引けない。生きて帰るか死んで帰るかの二つに一つだ」


「もちろん生きて帰るよ。私はお金を稼いでお母さんの病気を治すんだから!! 私が死んだらお母さんの薬も買えなくなる」


「だからあんなに金に執着していたんだな」


 俺はリオンが家族を大切にする優しい女性だと知る。

 この戦いは絶対に勝たせてやりたくなった。


「よし、それじゃ任せろ。元S級パーティーのポーターが全力でサポートして、お前を必ず勝たせてやる。先ずは剣を交換するぞ、今使っている剣はもうかなり傷んでいるからな。手入れをしといてやる。替えの剣のバランスは既に調整済みだ」


 ダンジョンマスターは地鳴りをさせながら、走ってきた。

 その巨体は三メートルを超えており、身長の低いリオンとは倍以上の身長差があった。


「リオン解っているとは思うが、絶対に攻撃を受け止めようとは考えるな。全て躱せ!!」


「解ってる」


 リオンも駆け出し、自らダンジョンマスターの間合いに入っていった。

 ジェネラルの全身は種類の違う防具で守られていた。

 きっとダンジョンアタックで命を落とした冒険者達の装備を集めたのだろう。


 ギィィィイーーーー!!!


 ジェネラルは大きな金切り声を上げると、手に持っていたボロボロの大剣を振り上げリオン目掛けて叩きつける。

 その攻撃をリオンは身体をひねりながらかわし、ゴブリンジェネラルの脛に剣で斬りつけた。


 けれど防具に守られているジェネラルには効かない。

 リオンは再度距離を取り直した。


「おいジェネラル!!これでもくらえ」


 俺は大声で叫ぶと、リオンとジェネラルの周りに幾つかの火炎瓶を地面に投げつけ、炎柱のサークルを作り出す。


 リオンとジェネラルはサークルの中にいる状態となる。


 基本、魔物は火を嫌っている。

 周囲に火があるだけで、注意をそがれて動きが鈍くなるのだ。


 炎を目にしたジェネラルは苛立ち、炎を消そうと剣を横に振る。

 しかし剣が巻き起こす強風で炎はより一層高さを増すだけだ。


「今だ。防具の隙間を狙うんだ。回り込んで、膝の裏側を攻めろ」


「了解!!」


 リオンは俺の指示通り、素早い動きでジェネラルの背後に回り込むと、片膝に剣を突き立てた。


 剣が足に深々と食い込み、ジェネラルが片膝を突いた。


「その剣はそのまま捨てろ。リオン、お前の剣だ、こっちを使え!!」


 そう叫ぶとリオンに向けて鞘に収まっている剣を投げつける。


 俺は戦闘の前に預かっていた剣の研ぎを既にすませていた。

 研ぎ専用の魔法石で滑らすだけなのでさほど時間は掛からないのだ。


 リオンは空中で剣を受け取ると、慣れた動作で鞘から剣を抜きゴブリンと向かい合う。


 片膝を突いたジェネラルは、足を負傷しているので、その場から動けないが、眼光鋭くまだまだ戦える状態だ。

 しかし膝を地面に付けているので頭部の位置が下がり、今ならリオンでも首元に剣が届く高さとなっていた。


「俺もサポートをする。リオン行くぞ」


「うん。私には先読みのスキルがあるから、ラベルさんの好きに動いていいからね。私の方がそれに合わせる」


「そりゃ楽でいい。サポーターにとってリオンは最高のパートナーだよ」


 俺はリオンと共に走り出し、一定の距離の所からジェネラルに向けて、白い糸の束を投げつけた。


 これは【蜘蛛の糸】と呼ばれるアイテムだ。

 使えば粘着性が高いゴムの様に伸縮する糸が魔物の身体に絡まり、動きを阻害する効果がある。

 攻防に使えるアイテムなので、ストックは多い。


 ジェネラルは【蜘蛛の糸】を剣で切ろうとしたが、糸がばらけてジェネラルの身体にまとわりついた。

 それを好機ととらえた俺はもう二つ【蜘蛛の糸】をジェネラルにぶつける。

 糸は互いに粘着し合いジェネラルに絡まりはじめる。

 ジェネラルは手で糸を掴むと、無理やり引きちぎろうしたが、余計に糸が絡まり始めていた。


「長くは保たないぞ。ここで仕留めろ」


「任せて。ここまでお膳立てして貰って、倒せなかったら冒険者失格だよ」


 リオンは大きくジャンプすると、ジェネラルの首に剣を深々と突き刺した。


 剣を突き刺されたジェネラルは苦しみながら、地面へと倒れこみ、動かなくなる。


「勝ったの?」


「あぁ、C級ダンジョン攻略おめでとう。これでリオンもC級冒険者だ」


「やった…… やった。やったーー。今まで、何度、ダンジョンに潜っても一度も攻略出来なかったのに、ラベルさんと潜ったら簡単に攻略できるなんて」


「俺の力はそれほどでもない。リオンの力があったから勝てたんだよ」


「ラベルさんはもっと自分の力に自信を持った方が良い」


「そうなのか? それじゃダンジョンマスターからボス専用の魔石ダンジョンコアを取り出して、早くダンジョンから帰ろう。実は俺はもうクタクタなんだよ」


「うん」

 

 初めてのダンジョンアタックで、ダンジョンマスターに出会い、そのまま攻略。

 俺とリオンは順調な滑り出しをスタートさせた。




★   ★   ★




 一方、ハンスもギルドマスターに就任して、初めての大規模攻略レイドを始めようとしていた。

 攻略対象は勿論前回攻略手前で中止したSS級ダンジョンである。


 この攻略を契機にそれまで順調であったハンスの歯車が少しづつ狂い始めていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る