第6話 たった二人のダンジョン攻略 その1

 連携を確認した俺達は、二つあるC級ダンジョンの内、街から遠いダンジョンにアタックを仕掛ける事となった。

 理由は単純で、遠い方がライバルとなる冒険者の数が少ないからだ。

 

 街から近い方は徒歩で一時間半でたどり着けるが、遠い方のダンジョンは片道三時間はかかる。

 攻略時間を惜しんで近い方に冒険者が多く集まるので、人数が少ない方が俺達にはいいと判断した。


 ただリオンは日帰りを希望していたので、俺達は朝日が昇る前に街を出発し、日が沈む時間を目処に街に帰る様にしている。

 B級ダンジョンであれば何日間もダンジョン内に泊まる事にもなるのだが、魔物も弱く、難度の低いC級ダンジョンなら日帰りでも攻略できるだろう。


 幸いな事に朝が早く夜が遅いので、道中他の冒険者とすれ違う事は殆どなかった。

 これなら俺がダンジョンに潜っている事をハンスに知られる可能性は少ないだろう。

 

 俺達と同じ考えで遠い方のダンジョンを攻めている冒険者も何組かいるが、やはりその数は少なく、近い方のダンジョンと比べると三分の一程度位か?

 人数が少ない分、冒険者同士で魔物を取り合う様なトラブルも起きなかったのは幸いだった。


 俺達はダンジョンアタックを始める前に、報酬について話し合っていた。

 これは初めに決めておかないと後で必ず問題が起きてしまう大切な事柄でもある。

 冒険者同士が金の問題で殺し合うトラブルも数多く発生していた。

 

「分け前の話だが、リオンが六割、俺が一割、アイテムの購入や防具の整備に三割でどうだ? 異議があるなら受け付けるぞ」 


「ラベルさんが一割??? あんな凄いスキル持っているし、戦闘中もあれだけサポートしてくれるのに一割なんて安すぎる。私の取り分減らしてもいいから最低三割は取って欲しい…… ううん。絶対に取るべき!!」


「おいおい。リオンはポーターの相場を知らないのか? ポーターは戦う事が出来ないから、危険度は冒険者に比べて格段に低い。だから優秀と認められれば一割、普通で五分、悪い時なんて三分だってあるんだぞ。それを三割って…… 冒険者は怪我一つで引退もする引退率の高い職業だ。金は取れる時に取っておかないと」


「だけど私達は二人しかいないし、どちらが欠けても終わりだから、一心同体!!」

 

 リオンは意外と頑固で、俺が相場を説明しても首を縦に振らなかった。


「解った。それじゃ二割だ! それで許してくれ!! それ以上はこっちが気を遣いすぎてしまうから!!」


 配分が多すぎて困ったのはポーターになって初めてである。

 俺が懇願した事により、リオンが五割、俺が二割、その他ポーションや防具の整備などの雑費として三割に決まった。


 ポーターの俺が二割も貰えるのは破格と言ってもいい超好待遇だ。




★   ★   ★




 報酬も決まり、アタックを始めて数日が経過した。



 リオンとの話し合いでS級ダンジョンも攻略した事がある俺がリーダーとして指示を出す事となった。


 確かにC級ダンジョンは数え切れない位に攻略してきたので、特に断る理由もなく、最初だけという事で引き受けていた。

 リオンは一つの文句も言わず、ポーターである俺の指示に従ってくれている。

 俺はリオンの心情を探ってみる為、毎日ダンジョンに潜って疲れないか? と訪ねてみた。


 するとリオンは首を左右に振る。


「今まで色んなパーティーでダンジョンに潜ってみたけど、どのパーティーよりも二人しかいない今の方が貰える報酬が何倍も多い。それに一日中ダンジョンに潜っているのに身体も全然疲れないし、今までのダンジョンアタックがどれだけ無駄が多かったのかが解った。これも全部ラベルさんの指示のおかげ。やっぱりラベルさんは凄い人」


 素直に褒められてしまった。


 しかし二人だけしかいないこのパーティーの主役はリオンだ。

 もしリオンがリーダーになってみたいと言うのであれば、いつでも交代するつもりだ。




★   ★   ★

 



 更に数日が経過し、今アタックしているのは十三階層。

 ここまでたどり着く間に、俺もリオンの性格を掴み始め、俺達の連携も格段に向上していた。

 ポーターの俺が最も気にしているのは、リオンが何を求めているかに尽きる。


 動きやすい足場を確保して欲しいのか? 斬れが悪くなった武器を交換して欲しいのか? 疲れを癒やすポーションが欲しいのか?

 サポート対象との意思の疎通が出来なければ、完璧なサポートなど出来る筈もない。  

 言われてから動くのではなく、言われる前に動く!

 それが俺が思い描くポーターの理想形だ。


 俺の仕事はそれ以外にも、無駄な体力を消費させない為にマップの作成と進行ルートの決定などと多岐に渡る。

 

 後、忘れてはいけないのが、二人しかいない俺達のパーティーでは自分の身は自分で守るしかないという事だ。

 俺も当然、魔物の標的にされたりもする。

 その時はリオンの邪魔にならない様に、アイテムを使用して身を守ったり、走って引き付けながら時間を稼ぎ、リオンの手が空いた時に倒してもらう。


 その後も毎日少しづつ攻略階層を更新し、一週間後には二十階最下層へとたどり着いた。

 運が良い事にまだダンジョンも攻略されておらず、剣士とポーターの二人だけで最下層にたどり着くなどハッキリ言って快挙だ。

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