第5話 リオンの力

 現在、街の周辺には四つのダンジョンが存在している。

 

 一つ目は出現する確率が数十年に一度と低く、最高難度に指定されているSS級ダンジョン。

 俺が追放される前にハンス達とアタックをしていたダンジョンだ。


 二つ目として、一年に一度の割合で出現し、攻略出来れば上級冒険者と認められるA級ダンジョン。


 そして残る二つが、攻略難度も低いC級のダンジョンだ。


 パーティーを組んだ俺とリオンは、早速C級ダンジョンへアタックをしてみる事に決めた。


 俺達は二人しかいないので、いきなりの無茶は厳禁。

 今回は最初はC級ダンジョンの上層と呼ばれる階層で、お互いの動きを合わせる為に軽く狩りを行う事となった。


 リオンの年齢は今年で十六歳、冒険者となってまだ二年目のルーキーだった。

 冒険者の知識と剣術は養成所で習ったとの事だ。

 

 今までの最高攻略階層は十五階との事で、C級ダンジョンの下層と呼ばれる階層にまで潜れるのなら、野良冒険者としては十分な実力を持ってると判断できる。

 それだけの実力を持っていて、どうして幾つものパーティーから追放されるのか?

 俺は今回の狩りでそれを見極めるつもりだ。


「じゃあ今日は五階層辺りで狩りをしてみないか? 五階層位の魔物なら戦闘系スキルがない俺でも対応は可能だからな」


「分かったそれでいい」


 俺達はさっそくC級ダンジョンの地下五階層に向かった。




★   ★   ★




 今回はC級ダンジョンの上層と呼ばれる地下五階層、強い魔物が出る訳でもないので、用意するのは回復アイテム位で十分だ。


 ダンジョンに潜ると大きな通路の大迷宮となっていた。

 壁には光り輝く光水晶がダンジョン内を照らしているので視界は良好だ。

 このダンジョンは最下層まで全て大迷宮になっている。

 この情報は情報屋から購入した情報なので間違いはない。


 一週間前に出現したばかりの新しいダンジョンで、冒険者達は各階層を隅々まで探索をしている最中だ。

 ダンジョンマスターを倒すだけが攻略ではなく、隠された鉱石や貴重な素材を手に入れる事も立派な攻略といえる。

 冒険者達は命を懸けるに値するリターンを欲しているのだった。


 ちなみに五階層に出てくる魔物を二十体倒して手に入れた魔石をギルドに売れば、街で働く成人男性の三日分の給料に相当する銀貨五枚を手に入れる事ができる。

 

 五階層にたどり着いた俺達はさっそく迷宮内を適当に歩き、魔物を探した。

 ここにたどり着くまでに数回魔物との戦闘を行ったのだが、リオンが変な動きをする事は無かった。

 逆に、素早い動きと的確な判断力で現れる魔物を素早く倒していた。


「うーん。ここまでで悪い所は見当たらない…… って言うか強すぎるだろ? 全く意味が解らん。これ程強いリオンが何故パーティーから追放されるんだ?」


 俺は困惑した。


 けれど五階層に入って、複数体の魔物が同時に現れる様になった位から、次第にリオンが不思議な行動を取るようになってきた。


 何も無い空間で不意に横っ飛びをしたり、また別の戦闘の時は攻撃を加えていた魔物に止めをささずに、ダンジョンの奥に走り出し、影に潜んでいた魔物に斬りかかったりと確かに理解不能な行動が目立つ。


「なるほどな、確かに規則性も無くて読みづらい動きだ……。だけど何か引っかかるんだよな」


 俺はリオンから一定の距離を保ちサポートに徹していた。

 俺のやる事はいつも決まっている。

 リオンが倒した魔物に素早く近づき魔石を取り出して、魔物を灰に変える。

 それが間に合わない時は魔物の死体を壁際に放り投げ、リオンの足場の整理整頓を行う。

 

 またリオンの動きに疲れが現れた際には、素早くポーションを取り出しリオンへと手渡す。

 

 後は、リオンが戦闘だけに集中できるように。

 周囲の索敵と切れが悪くなった武器の手入れに地図の作成位だろうか?

 慣れた作業なのでそつなくこなす。


 俺自身はサポートに徹しているので、魔物には軽く注意を割くだけでいい。

 今はリオンを知る事が一番大事なので、リオンの行動を細かく観察していた。

 

 五階層の魔物が束で掛かって来たとしても、リオンには余裕があり危なげなく短時間で殲滅していた。

 

 それらの行動一つ一つに俺は違和感を覚えていった。


「どういう事だ?? リオンの動きが遅い? いや…… 遅く見えるって言った方が正しいか?」


 リオンのサポートをしていた俺はリオンの戦闘が遅いと感じた。


 しかしそれはS級パーティーでレベルの高い冒険者達とダンジョンに潜っていた俺だから、そう見えたのかもしれない。

 そんな疑問を抱きながらも更に観察を続けていく事にした。


 その後、五時間の狩りでリオンはたった一人で魔物を五十匹は倒していた。

 一人でそれだけの魔物を倒せれば、A級パーティーの冒険者にもなれそうである。


 俺はリオンの動きが遅いと気付いてから、更に何時間も観察していた。

 そして俺は気付いた。


 リオンの戦い全ての戦闘において無駄な動きが一切なく、余裕のある動きで戦闘は終結されている事を。

その場面では無駄に思える動きでも、全体で見れば必要な動きであった。

 リオンの動き方は、まるで事前に魔物の動きが解っているかの様だった。

 ならば導き出される答えは一つしかない。

 

 そして小休憩を取っていたリオンに俺は結論を伝える。


「リオン、言いたくなかったら言わなくてもいいんだが…… お前、もしかして魔物の動きが事前に解っているのか?」


「嘘…… まさか気付くなんて…… 今まで誰も気づかなかったのに……」


 飲んでいた水筒を口から外し、リオンは頷いていた。


「やっぱりそうなのか。そんな凄いスキルを持っていてどうして今までのパーティーメンバーは知らなかったんだ? ぶっちゃけチートスキルだぞ」


「それは私が言わなかったから…… 母さんが絶対に自分から言っては駄目だって言ったから」


 俺が気付いたのも、違和感を覚え、ずっとリオンだけを観察し、数時間をかけてやっと気付いた位だ。

 何も知らず魔物を倒しながらでは、中々気付けないだろう。


 確かにこんな馬鹿げたスキルを持っていれば、引く手はあまた。

 メンバーさえ揃えば即時S級の冒険者にだってなれるかも知れない。

 しかしスキルの力が強い分、望まぬ争奪戦に巻き込まれるのは明らかでもあった。


「リオンのお母さんはリオンを愛しているんだな。きっと心配だったんだろう」


 俺がそう言うと、リオンは嬉しそうに頷いた。


「私から言えないけど、気付かれたのなら仕方ない。私はほんの少しだけど未来が見える」


「凄いスキルだ。そのスキルを大事に育てろよ」


「ラベルさんが居れば大丈夫だと思う。だってこんなに戦いやすかったのは冒険者になって初めて。何故だか知らないけど普段よりも体も軽いの。それに指示も的確で、ラベルさんを捨てた人達はきっと後悔すると思う」


 うれしい事を言ってくれるし、意外と勘の良い子でもあった。

 俺も自分の秘密を言い触らすのは嫌いなのだが、リオンは隠していた秘密を話してくれた。

 

 俺も少しは返しておきたい。


「リオンが秘密にしてたスキルの事を話してくれたから、俺も話すとしようか」


「ラベルさんの秘密?」


「あぁ、俺はポーターで戦闘系スキルを一つとして持っていない…… だけど支援スキルなら手に入れているんだ。リオンが体が軽く感じたのもたぶん俺のスキルが影響したからだろう」


「やっぱりそうだったんだ。今までと全然違っていたから…… どんなスキルなの?」


「俺のスキルは俺が所属しているパーティーメンバーの基本能力を1.2倍に向上させる。スキルとして魔力を使わなくても起動している限り常時発動するパッシブスキルだ。便利な事に俺の意思で切る事も出来る。このスキルの存在を知っている者は俺が信頼しているほんの数人だけだ」


「パーティー全体の能力が1.2倍になる!? すごいスキル」


「確かに凄いスキルだと思う。だけど俺自身には効力が無い残念スキルだし、俺は冒険者になりたいから補助スキルじゃなくて、戦闘系スキルが欲しいんだよ」


「ラベルさんって冒険者になりたいの……って言うか、噂で聞いたけどS級冒険者パーティーメンバーだったんでしょ?」


「その通りだけど正確にはS級冒険者パーティーの荷物持ちポーターだな。残念な事にポーターは冒険者として認められていない。だから俺はS級の冒険者じゃないんだよ……」


 自分で説明して情けなくなってくる。

 俺の会得したスキルは確かに凄いとは思うけれど、それは俺には全く意味を持たない残念スキルであった。

 俺は冒険者になりたいと願い、長い年月を掛けて会得したスキルは他人を強くするスキルという笑えない事実。


 再度その事実を実感し、俺の表情は自然と曇っていた。


「大丈夫。ラベルさんは絶対に冒険者になれる。未来を見れる私を信じて……」


 そんな俺の心を察して、リオンが励ましてくれた。

 なんて優しい子なのだろう。


「未来が見えるって言っても数秒だろ? だけどありがとう元気がでたよ。俺は何度だって言うよ。絶対に冒険者になって見せるってね」


 俺達は更に数時間狩りを行い。

 八時間ダンジョンに潜り続け、計七十個の魔石を集めた。

 稼いだ金は約銀貨17枚。

 たった二人のパーティーしかも攻撃できる者が一人の変則的なパーティーで稼げる金額ではなかった。

 

 今までとは何かが違う、S級パーティーでも得られなかった何かがこのパーティーにはある。

 今後もリオンと共にダンジョンアタックを続ければ、きっと俺にも何か大きな変化がもたらされる。

 そんな予感を俺は感じていた。

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