第1話 そのヒロイン、誕生
「今日は17歳のお誕生日パーティね、新調したドレスのサイズはどう?」
「最高よ、お母様。デザインもとても素敵」
私は鏡の前でくるりと回る。その様子にふふふ、とお母様は笑う。
「とっても綺麗だわ。私にもお父様にも似ない美しい自慢の子にぴったり。きっと他の貴族の方々も喜んでくださるわ」
あれから17年、魔物が蔓延る世界の一大貴族の長女として転生した私はあまり街から出ることも叶わないまま、前よりもっと厳しいマナーが必要な令嬢として暮らしていた。チーム3人とは未だに合流できてない。けれど両親ともとても優しく、兄も私を慕ってくれているとても恵まれた環境に生まれたと言っていい。
「あぁそうだわ!今日勇者様御一行がこの街にもいらっしゃるらしいの。だから今回のあなたの誕生日会は勇者様の歓迎パーティも兼ねているの。主役は貴方なんだからお話してきたらどうかしら?」
この魔物に怯える世界で今までは神父のみが魔物を辛うじて追い払える結界を作ることができる人間だった。しかし、5年前、まだ12歳だった子どもがこの近くの田舎町から魔物の蔓延る結界外へ旅立ち、もう半分もの街を回ったという。魔物を倒すほどの力を持つ人をいつしか民衆は勇者と呼び崇めるようになった。
「それは面白そうね。もし会えたなら私の探し人のことを聞きたいわ」
「あなたって不思議ね。まるで前にもどこかで生きていたみたい。崩壊寸前だったこの街を守ったあなたの姿も勇者そのものだったわ」
お母様は冗談めかしたようにお上品に笑うと私の後ろにぴったりとくっついた。
「こんなに背も高くなって。こう言うと他の家から白い目で見られそうだけれど、もっと世界に飛び立って欲しいわ。なんて言ったってあなたはすばらしい才能を持っているもの。あなたの頭脳と魔法なら、魔物から守るすべをもっと考えられる気がするの。お母さんはあなたのしたいことを応援するわ」
本当にこの人の元で生まれて良かったと思う。私が魔物の研究を始めた時も驚きこそしたものの全力でサポートしてくれた。その為に私は神父の使う結界という名の魔物が嫌う匂いのする成分を研究し、魔除のお守りを作ったり、毒薬を調合して当たるだけで確実に仕留めることができる銃弾を開発したりしていた。
そう、私がこのプロジェクトに選ばれた理由は親の資産は大前提として日本でもトップレベルの能力があったから。それこそが化学知識と技術である。中学校のお嬢様学校のたっぷりある資金を使った自由研究の取り組みの中で、今まで見つけられていなかったとある病気に効く成分の調合に成功した事からたちまちニュースで取り上げられ、有名になった。だからこそ私はここに居る。
「お母さんもね、昔は世界を旅して色んな景色を見たかったの。あなたならそれを叶えられる気がするわ」
私がにこりと微笑むとお母様も笑い返す。私の1番の目的は日葵を探すこと。その為にはこの街を出る必要があるかもしれない。勇者が手がかりを持っていれば1番いいのだけれど…
「さぁマナーの最終確認をしましょう。色んな貴族の方がくるから粗相のないようにしないとね」
「えぇ、お母様」
私はそっと部屋のドアを閉めた。
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