第2話 第二の調停者

聡「初めまして。

 小蔭ちゃんから話は聞いていると思いますが、私が志方聡しほうさとるです」


蛇姫「聡殿、よくぞ参られた。

 わしがこの国を治める蛇姫じゃ」


黒い甲冑の女性「玄武です。 以後、お見知り置きを」


聡「こちらこそ。

 御城の前まで出迎えて下さるなんて、小蔭ちゃん想いなんですね」


蛇姫「正しく、その通りじゃな。

 ……本当に、シェリナ殿の様な殿方なのじゃな」


 白無垢に白装束を掛け合わせた様なこの格好は外観には不釣り合いだし、各国の姫君が湖に顔を見せる今日は早めに切り上げて小蔭ちゃんを待っていたとしても、普段も深窓の令嬢をしているのだろう。

 きっと白蛇の亜人だし、生粋の大型種だけれど。


朱雀「(小声)とても柔和な御兄さんという意味ですから、気にしないで下さいね。

 蛇姫様も、ああ見えて女性意識の人なのです」


聡「そう言う事だね」


 僕が二人に向けてそう返すと、蛇姫様は少しばかり棘の有る少女のような瞳をした。

 御付きの人の立回りも考えると、実年齢は年下なのかも知れないね。



蛇姫「なあ、玄武。

 二度も小蔭を救って頂こうと言うのは、流石に虫が良過ぎるというものであろうか?」


玄武「異世界の殿方ですし、最終的には当事者である彼の御意向次第でしょう」


蛇姫「女性たるもの、やはりそうであるよな」


 そこは姫君ではなく女性たるものなんだね。

 確かに、王道戦記の男性なら有力者としての務めに言及して我等も尽力する分力を貸して欲しいとか言いそうだけれど、女性が多いこの世界では彼女程の人でも柔和を目指す花嫁修業の御姉さんなんだね。

 古典東洋の流れは批判されがちだけれど、さっきの様な謙譲表現のできる御淑やかな女性を立てる御相手が居てこそのそれと言うのであれば、敬意と礼節でできている古典らしくて良いんじゃないかな。



聡「その御話についてですが、僕はシェリナさんと小蔭ちゃんとのどちらかの国を選べる条件下で、この子や貴方様の助けになるためにこの東洋怪異の国に降り立ったのです」


蛇姫「それはまことか!」


小蔭「お兄ちゃんは、昔から優しいの♪」


聡「ですから、東洋と縁の有る男性という理由で他国から警戒される事は重々承知で、護衛を伴った少人数での全国視察をするつもりで僕はこの地に来ています」


 言い方は重かったと思うけれど、この位言ってあげた方が彼女等も安心して送り出せるだろう。


朱雀「良かったですね、蛇姫様♪」


蛇姫「誠にそうじゃな」



聡「後、僕は見掛け上全くの部外者なので、遠方の種族の目を掻い潜るという意味では、できれば護衛はこの国以外の方が望ましいのですが」


蛇姫「御主が言わんとしている事は良く分かるが、大型種の国同士は互いに距離を取り合っての三つどもえの状態に有り、他に大型種以上の影響力を持つ種族と言えばマグノリアじゃが……」


聡「その種族は、そんなに強力なのですか?」


蛇姫「そうじゃが……いや、種族を理由に怖れていては、最強大国である我等を深く考えずに疑いおる他種族と同じじゃな。

 それに、木本である事を理由に彼女等を怖れる時代は、もう終えても良いと思うのじゃよ」


 彼女にここまで言わせるなんて、相当色々有ったんだろうな。


小蔭「流石は、蛇姫様なの」


聡「それでは、僕は木本の国を目指しますが、どの位の距離感でどの様な大型種なのですか?」


小蔭「お兄ちゃん、木本プリバドは御隣の小型種なの」


 御隣の……小型種!?

 一瞬、小蔭ちゃんが何を言っているのかが分からなかった。



蛇姫「そうなると、次の行き先は左下のシュクレになる訳じゃから、道中の案内は朱雀に任せるとしよう」


玄武「それが一番ですね」


 左下? この世界では、方角を湖を中心とした地図上での方向で呼ぶんだろうね。


小蔭「お兄ちゃん……向こうでは一人になるのに、大丈夫なの?」


聡「通貨が違う事と通信用の魔法具が有った方が望ましい事を除けば、他に問題は無いね」


蛇姫「確かに、異世界の者にこれだけの重責を任せる訳じゃから、視察団相当の活動費は工面くめんするべきじゃな。 見た所、聡殿は貴族の様でもあるし」


聡「そう言って貰えるのは有難いですが、僕の国には貴族制は無く服装とかも技術が進んでいるだけですから、そこまで大層な扱いをして頂かなくても大丈夫ですよ」


 さっきのは通貨が違うと色々と苦労するという意味だし、地球側でも昔の貴族は意識されない様に御忍びでこう言った格好をした事も有ったみたいだからね。


朱雀「(小声)そう言う所が、シェリナ様みたいなのですよ♪」


小蔭「そう言えば、さっきからのお兄ちゃんはシェリナ様みたいなの」


聡「距離感と言う意味では、むしろ黒いドレスのあの子だと思うけれど」


玄武「黒いドレス……」


 何か思い当たる節が有る様な玄武さんと蛇姫様を見送った僕等は、小蔭ちゃんの案内で入口の広い茶室に招かれた。

 現世側での茶室がかがまないと入れない造りをしているのは、位の高い人でも御辞儀をする形になるからだし、元々身分の差をそこまで意識していないこの世界ならではの造りなのだろうね。



 一時の後、僕は火水氷等が軽量の魔法具だけでまかなえる、席以外の角を丸くした小型のホバータンクの様な魔道気球である風珠かざたまを用意して頂けた。

 中には勿論、地図や魔力の実と呼ばれる食料等の冒険の必需品も完備されている。


 流石にこれで市街地を通る訳には行かないから隣の御堀を超えての出発となった訳だけれど、これだけの設備と活動費を用意して頂けた分も、彼女等には是非とも結果で報いたい。

 向こうの世界への偽装のために持って来た重たい荷物の置き場にも、これなら困らなくて済む訳だし。


朱雀「申し訳有りませんが、このまま進めば国境に着きますので、ここから先は聡さん一人で進んで下さい。

 下側……湖から見た地図上での下側はとても温厚な地域ですから、一人で向かわれてもきっと大丈夫ですよ」


 通信用の魔法具で玄武さん辺りと話していたらしい朱雀さんがこう切り出したのは、出発してから一時間近く経ってからの事だった。

 あれからの小蔭ちゃんの事を話していたら時間の経過も早かったけれど、穏やかなこの人もかなりの重役の筈だし、昔木本と何か有ったという事は、間に居るシュクレとも何か有った様なものだろうからね。


聡「こちらこそ。 隊長格で忙しいのにここまでして頂いて、有難う御座いました」


朱雀「それについては御構い無く。

 四聖獣の中でも唯一の中型種である私の担当は主に護衛ですし、稀に来て頂ける国賓こくひんの御相手も私に任せられていますからね。 それでは♪」


聡「朱雀さん、またね」


 通りで、柔和な割にあの様な反応をした訳だね。

 この世界の人々って、本当に実写みたいな性格なんだ。

 ともすると、風珠みたいな東洋怪異の高級品はやはり諸刃もろはの剣と言えそうだね。 異世界に着いて早々これに乗って来た人には、確実にこの国との縁が有る訳だから。


 シュクレ側は避けようか。

 こう言った御話にもきっと理解の有る木本プリバドは、彼女等が下側と呼んでいた南側の森林に住んでいる筈だし、何も知らない可能性すら有る小型種の地域はその後の方が良いだろう。

 木本に協力者になって頂けたあかつきには、彼女等も友好国になる訳だから。



 そう思いつつ、僕は南側の森伝いにプリバドの地域に続くと思われる一本道を探し当てた。 見付けたは良いけれど……これ、どう見ても間伐された熱帯林だよね。

 地球の方でも初期の頃の植物が居た中生代は高温多湿だったみたいだから、花に特化した被子植物に移行した頃の原初森林という意味合いであれば、それはそれで筋が通るけれど。


 この様な土地を一人で進むのは流石に怖いけれど、柔和な世界みたいだし不敬が無い様にと敢えて風珠を後ろに連れて進んでいると、一本道の向こうから花のかんむりかぶった女の子がやって来た。

 草本か木本は分からないけれど、想像以上に日光の入る明るい森林に似付かわしい下の尖った黄緑色のワンピース姿だから、きっと植物系のプリバド属だね。

 2cmの蕾も含めると155cmは有るけれど、大人が170cmの東欧目線なら小5サイズだろう。


すみれの冠を被った女の子「東洋怪異の風珠に乗って来るなんて、まるであの国との縁が深い天界の人みたいなの」


 ああ、この子はきっと木本プリバドだ。

 表情も含めて寡黙な雰囲気だし、小蔭ちゃんと比べてもえ過ぎているからね。


聡「僕は天使ではないけれど、地球って言う異世界から来たから大体合っているよ」


 きっと内向きな種族だし、直感とは言えここまで見抜いているのなら隠す必要は無いだろう。



菫の冠を被った女の子「……そう言う事なら、安心できるの。

 ラミ達はラミフロルス。 木本プリバドの一系統なの」


聡「僕は志方聡しほうさとるって言うんだ。 宜しくね」


ラミフロルス「宜しくなの。

 何か事情が有るみたいだし、ツリピフェラちゃんにも知らせておいた方が良いから、付いて来てなの」


聡「御願いするよ」


 無表情ながらも、ぺこりと御辞儀をしてから道案内を始めた木本の女の子。

 この子よりも小型種らしい草本みたいな女の子は、木陰から風珠を眺めているだけで近付いては来ないから、その昔色々有ったと言うのはやっぱり本当みたいだね。


 そんな風に思いながら、規則的に枝分かれしている道を進んだ僕等の前に見えて来たのは、いかにも小さい女の子が描く様な、御家おうちと言った雰囲気の三角屋根の付いた白とピンクの直方体だった。

 看板もチューリップ印だし、この国の姫君は草本なのかな? シュクレと仲の良さそうな草本プリバドを姫君に立てての木本政治なら、筋は通るよね。



ピンク色のはすの様な蕾を付けた女の子「東洋の風珠が近付いて来たと思ったら、見慣れない種族のお兄ちゃんだったの」


 木本プリバドって、エスパーか何かかな?


ラミフロルス「そこまで分かるなんて、流石はツリピフェラちゃんなの」


 聖木が聡明と言うのはいつものパターンだし、気配察知と分析レベルの洞察力は基本装備なのだろうけれど、それらを持ち合わせたこの子も中々の強者つわものだよ。


聡「僕は、シェリナさんとの縁で地球って言う異世界からやって来た中型種で、志方聡しほうさとるって言うんだ。 宜しくね」


ツリピフェラ「ツリはツリピフェラなの。 宜しくなの。

 つまり、その風珠は小蔭ちゃんとの縁で借りている物なのね」



 何だろう。 この木本とか言う女の子達、有能過ぎるんだけれど。

 シェリナさんとの縁からあの時の小蔭ちゃんとの一件を連想すれば、そのつてで蛇姫様から借りたともなる筈だけれど、僕はまだ名乗っただけだよ。


 例のごとく冴え過ぎているこの子を相手にどう立ち回るか考えていると、彼女はおもむろに通信用の魔法具を取り出した。


ツリピフェラ「チューリップちゃん、もう出て来て大丈夫なの」


チューリップ「はーいなの♪」


 向こうの御家おうちから走り出て来たのは、正にその家の通りの雰囲気の女の子だった。

 ツリピフェラちゃんが木本の中でも一際優しい事が分かって安心したけれど、きっとあの子がこの国の姫君だね。



チューリップ「チュリは、チューリップ=ブルーミーなの!

 お兄ちゃん、宜しくなの♪」


聡「可愛らしい名前だね♪

 僕は志方聡って言うんだ。 宜しくね」


チューリップ「ありがとうなの♪ ……ねえ、ツリピフェラちゃん。

 お兄ちゃんはとっても優しそうだけれど、どうしてチュリを残して行ったの?」


ツリピフェラ「それは……」


 きっと、珍しくも言葉に詰まったツリピフェラちゃん。


聡「その昔、この風珠を持っている東洋怪異と色々有ったんでしょう? それでも、僕は木本の女の子達の事も東洋怪異の人達の事も信じているから安心してね」


ツリピフェラ「……ありがとうなの。 ところで、それを持っているのは小蔭ちゃんとの縁としても、どうして単独行動だったの?」


 やっぱり、そこは気に成るよね。

 見た所この子達は内向きな種族だし、あの疑惑を知らない可能性も有るからね。



聡「それはね、あの子達に聞いた限りでは、この世界では近頃どこかの国が魔法具を過剰生成しているって言う疑念が有るみたいで、全国の中でも特に有力な東洋怪異の国が一番武装応用を疑われているからなんだ」


ラミフロルス「そう言う事なの(?)」


聡「そこで、確かにあの子達は僕の旧友だけれど、皆から疑われていない強力な種族に助けを求めた方がこれ以上の疑念や争いを避けられると思って、僕は初めに君達の居るこの森に来たんだ」


ツリピフェラ「それが本当なら、今度こそツリ達が動かないといけないの。

 まずはツリだけで見て来るから、チューリップ様やラミフロルスちゃん達はいつも通りにしていてなの」


ラミフロルス「あの時に動いたのはラミ達なのに、ありがとうなの」


聡「込み入った御話なのに、協力してくれてありがとう」


 それにしても、動くってそんな大層な言い方をするものなのかな?

 ツリ達という言葉にこの子達も含まれるなら、過去に動かな過ぎたから後手の動き方をする結果になった様にも聞こえるけれど……今までの御話を総括すると、その方が筋は通るよね。



チューリップ「何だか、チュリには難しい御話だったの」


聡「確かに、自分達の能力を悪用させないために他種族と距離を置いていた木本プリバドの御話だから、難しかったよね。 セイレーン辺りと仲良くしている他種族とは当時の彼女等は立場が違い過ぎた筈だし」


ラミフロルス「聡お兄ちゃん……」


 はっとした様子で言葉を詰まらせたラミフロルスちゃん。

 この子達も寡黙ながら色々と考えて来ていた証拠だね。



ツリピフェラ「それでも、この分なら今回はきっと大丈夫なの。

 準備ができたら出発するから、チューリップ様、ラミフロルスちゃん、行ってきますなの」


ラミフロルス「ツリピフェラちゃん、聡お兄ちゃん、行ってらっしゃいなの」


チューリップ「いってらっしゃーい!」


聡「チューリップちゃん、ラミフロルスちゃん、行ってきます」


 僕は、両手を元気に振るチューリップちゃんに控えめに手を振り返してから、風珠の向きを調整してツリピフェラちゃんの合流を待つ事にした。



聡「ねえ、ツリピフェラちゃん。 その重そうなのは何かな?」


 出発した僕の第一声はこれだった。

 と言うのも、風珠に積み込まれた装備は……。


ツリピフェラ「原初属性の三元素メイスと、高純度オリハルコンアーマーなの」


 最強(確信)。 ディフェンダーソードみたいな幅広のガード部分を含む木本専用なツーメイススタイルで、両下腕部に小盾を装備する物理防御特化。

 バリアごと低空で突入して来そうだけれど、これなら確かにマグノリア属だね。

 元々の意味は多分高木の種族名だと思うけれど。



聡「僕にも護身用の装備とか必要かな?」


ツリピフェラ「風珠に積んで有った身代わり石だけ持っていれば、後はツリが何とかするの」


聡「ツリピフェラちゃんが居れば、地図に描いて有る三大強国も手を出しにくいとは思うけれど……資金を工面してくれた東洋怪異の皆さんも戦いたくは無い訳だから、普段は温和にしていてね」


ツリピフェラ「ツリは、チューリップちゃん達ともロリポップちゃん達とも仲良しな、温厚な木本プリバドなの」


聡「それなら安心だね」


 武装はそう言ってないけれど、西洋の装備を着けた東洋怪異もそうだったし、そう言う世界なんだろうね。



 一先ひとまず安心してから数分が経った頃、これまでの事を冷静に振り返った僕にはもう一つどうしても確認しておきたい事が有った。

 万が一王道に乗っていた場合に後先が心配されるのはむしろこの子の方だけれど、この子の言う三元素属性にもしも光が入っていれば、その場合に数百年前がつい最近なこの子の事を救うのはきっと僕の役割だからね。


聡「……ねえ、ツリピフェラちゃん。

 もう一つだけ折り入って聴いておきたいんだけれど、木本の女の子が物静かにしているのは本当に種族の特徴なのかな?

 見た所ツリピフェラちゃんも小型種だし、これからは一緒に旅をする訳だから、僕としてはもっと甘えてくれる子が相手の方が嬉しいな」


 言い方はあれだったとも思うけれど、僕もドレスのあの子に肩入れして来た身だからね。 この際、この子の外見だとか、あの子との距離感については気にしないでも良いだろう。


ツリピフェラ「聡お兄さんは……本当に愛情の人なんですね。

 これなら……この分なら、今回はきっと大丈夫です」


 俯き加減に安心してくれたツリピフェラちゃん。

 周りは外圧ばかりだと思うけれど、これについてはきっと大丈夫そうだね。



聡「それじゃあ、ここから先はシュクレの平原だし、2人で外を進もうか。

 確かにこれは風珠だけれど、僕等がその前を歩いていればシュクレの皆も安心でしょう?」


ツリピフェラ「それなら、ここからはツリの手を引いて欲しいの」


聡「それが良いね。 頼ってくれて、ありがとう」


 こうして、この子の手を引きながら移動する運びとなった僕は、夕日を浴びる魔力の実畑を抜けてシュクレの街道に入った。

 魔力の実がソテツとパイナップルを組み合わせた様な低木である事についてはもう慣れっこだけれど、街の造りがこうなっているのはシュクレの地域が東洋怪異とサラマンダーの国に挟まれている言わば中継地点だかららしい。


 争い事に巻き込まれそうな立地だけれど、その都度木本のこの子達が止めて来たのだろう。

 それとも、サラマンダーが東洋以上の豪傑で小型種に手を出さなかったのか、彼女等も隣国相手が忙しくてシュクレに目を遣る暇が無かったのか……いづれにせよ、これなら確かにこの地域は安全だね。



シュクレと思われる銀髪の女の子「ねえ、チューリップちゃん! 何してるの?」


ツリピフェラ「ツリは木本プリバドなの」


 いかにも小型種と言った雰囲気の可愛らしい白ワンピ姿の女の子に対して、全くブレないツリピフェラちゃん。


シュクレの女の子「こっちに出て来る木本の女の子なんて、珍しいのね!」


ツリピフェラ「ツリにも、森の外を歩きたくなる事は有るの」


聡「そう言う事だね。 それじゃあ、僕等は先を急ぐし……」


 僕がその先を言おうとした所で。


シュクレの女の子「東洋のお兄ちゃん、木本の女の子には沢山の魔力の実が必要って聞いた事が有るから、買い出しは多めにしてあげてね」


聡「そうなの?」


ツリピフェラ「ツリには三元素分の魔力が必要なの」


聡「適格な助言をありがとう。 それじゃあ、次に進むのは湖側かな?」


ツリピフェラ「湖の砂浜で待っていれば、あの子がこれを見逃す訳が無いの」


シュクレの女の子「それじゃあ、またねなのー♪」


聡&ツリピフェラ「またね♪&またねなの」



聡「やっぱり、シュクレの女の子は良い子揃いなんだね」


 他の子達も僕等の風珠を特別気にしている様子ではなかったし、本当に良くできた子達なのだろう。


ツリピフェラ「そう言う事なの」


聡「ところで、湖に居るとやって来るあの子って、やっぱり……」


平面な氷の塊に乗った女の子「チューリップちゃーん、何してるのー!」


 言うよりも早く、当の彼女がやって来たみたいだね。


ツリピフェラ「……ツリは木本プリバドなの」


 ピンク色の蓮型の蕾とチューリップ位、流石に見分けは付くと思うけれど。

 良く分からない氷の塊みたいな乗り物も含めてツッコミ所が多過ぎるんだけれど。



氷の塊に乗った女の子「チューリップちゃん、何してるのー?」


ツリピフェラ「ツリは木本プリバドなの」


 聞こえる距離まで来てやっと木本と分かったらしいシュクレの女の子。


氷の塊に乗った女の子「木本の女の子がこっちに来るなんて、珍しいのね!」


 何だろう? 皆して同じ事を言って来るなんて、軽くホラーなんだけれど。

 一部のSFや行動心理学は割とそう言った世界だけれど。

 この状況に置かれた人が、まずこれをする確率は90%みたいな物だし。



ツリピフェラ「ツリは珍しい木本プリバドなの。

 ところで、ロリポップ様に御願いしたい事が有るのですが」


ロリポップ「なあに? ツリピフェラちゃんもミックスフロートに乗りたいの?」


ツリピフェラ「そう言う事なの」


聡「ツリピフェラちゃんも、ロリポップちゃんも流石だね。

 改めて、初めまして。 僕は志方聡って言うんだ。 宜しくね」


ロリポップ「ロリポップ=プチパルフェなの! 初めましてなの♪

 それじゃあ、お兄ちゃんもこれに乗ってなの!」


聡&ツリピフェラ「ありがとう、ロリポップちゃん&ありがとうなの」


ロリポップ「それじゃあ、出発進行なのー!」


 見た目以上に冴えていながら、風珠について詮索する事無くミックスフロートに乗せてくれたロリポップちゃん。

 事の発端から察するに、次の行き先はスノードロップ辺りだと思うけれど、聡明なこの子の助言次第では他の見解も有り得るかも知れない。

 僕は、そんな緊張感の下この子達のホームとも言える広大な湖に乗り出した。

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