10 アウグス冒険者ギルド本部(4)

 二人とも口をポカンと開けてこちらを凝視している。

(転移者ってのは必ず女神に会うのか…これはいよいよ俺の転移はミスだった説が有効か。女神の謝罪あるし。他の転移者に巻き込まれたんだろうな。巻き込まれってのも定番ネタらしいし)

「あー、すみません。たぶんなのですが、女神様と会った転移者は他にいるんだと思います。私は巻き込まれたのだと…」

「…んんっ、申し訳ありません。そうですね、その可能性も否定できません。ですが、如何様な理由かは不明でも、女神様がそのお力を使われた事は間違いありません。そうですね…私から教会に問い合わせてみましょう。何か神託を受けているかも知れません」

「なるほど…そうですね、お願いできますか?」

「ええ、お任せください。これまで転移者殿にいつて神託があったことはありませんが、今回は状況が異なりますからね」

(あ、これは無いやつだな。今まで無かったならたぶん無いわ…)

 残念な気持ちが顔に出ていたのか、ギルマスが殊更明るく和かに話し始める。

「それでは、エイトさんの今後の生活についてお話ししましょう」



 途中夕食を食べながらこの世界のことや町での生活など、覚え切れない程に話題は多岐にわたった。改めて異世界で生きることの大変さを実感する。

(異なる世界…呼んで字の如くってな)

 各国の要所となる町には突然現れる転移者に備えて支援体制が整っているそうだ。もちろんここ、アウグスにもある。

「今日の宿についてですが、こちらはクラウスが手配しています。戻ったら案内させましょう」

 そういえば少し前にギルマスから何か頼まれて出て行っていた。

「それから、エイトさんには冒険者ギルドに登録をしていただきます。町の周辺には採取が簡単な素材や動物、見習いでも余裕で討伐できる魔物もいます。安定して稼ぐことができますよ」

「はあっ!?」

(いやいや、なに恐ろしいこと勧めてんの!? 虫くらいしか殺したことねーわ! 虫だってうじゃうじゃカサカサしてるのは無理だから)

「もちろん、しばらくは…そうですね、案内役としてクラウスを付けましょう。彼は若手の中でも優秀ですから」

 無理だ、嫌だ、やりたくないと副音声が聞こえる態度を前面に押し出してみたのだが、華麗にスルーされた。

「エイトさんは魔力量が人族としては多いですからね。中、遠距離から攻撃ができる。そこにクラウスが付きます。町の周辺であれば十分に安全を確保できますよ」

「私は魔法など使ったことありません。実際、魔法名を口にしても何も起きませんでした。生活魔法は使えましたが、それで魔物と戦えるものですか? 私は命のやり取りなどしたことがありませんよ」

 実は町までの移動中、生活魔法が使えたのならとこっそり試していた。

(オッサンだって魔法使いたかったんだっつーの!)

【ウォーター】はできても【アクアバレット】はできない、残念な結果に終わった。そもそも、戦闘経験なんてかけらもないオッサンが冒険者になるなんて、無謀以外の何物でもない。

「ああ、なるほど。女神様とお会いしていないのでしたね。生活魔法と違ってコツがいるのです。では、身体強化もまだですか…大丈夫ですよ、明日にでもギルドでお教えします。そうですね、私が指導を担当しましょう。ふふっ、誰かに教えるのは久しぶりですねぇ〜」

(魔法教えてくれるのは嬉しいけどな…でもそれ、冒険者にはならんでよくないか?)

「えぇーですが……………はい…分かりました。じゃあ、まず登録だけ。魔法のご指導お願いします」

「ええ、明日が楽しみですね」

(くっそう…いい笑顔しやがって…だかしかーし!登録するだけで危険なことは絶対やらん! 魔法は使いたいから指導はしてくれ)

 今後のこともある。魔法の指導を受けられるのはメリットだ。ここはギルマスの言う通りにしておこう。登録しても冒険しなきゃいいだけだ。

 その後、住民登録と一緒に冒険者ギルドの登録手続きをし、それぞれのカードと支援金、この世界の地図などを受け取った。ここでクラウスが戻ってきて、宿屋に案内してもらうためお開きとなった。


因みに、フィナンシェはクラウスに全部食べられました。こんちくしょうめ!

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