9 アウグス冒険者ギルド本部(3)

 クラウスに続いて中に入ると手前に応接セット、奥に大きなデスクがあり、煌びやかな美形がニッコリと微笑んでいた。

「クラウス? 返事を待たずに開けてはノックした意味がないよ?」

「あ、すんません! ティアナにメモ渡したしいいかなって」

 クラウスはヘラっと笑い返す。

(おー…心が強いな君は…)

「はぁ…まぁいいよ。それで、そちらの方が転移者殿で間違い無いかな?」

 溜め息を吐きクラウスを見た後、こちらへ視線が移る。体が緊張で強張る。

(男でもとんでもない美形は緊張するんだな)

「そう。エイトさん。依頼で三つ岩から帰る途中に倒れてたんだよ」

「初めまして、エイト・ネカサと申します」

 背筋を伸ばし斜め45度、腰から上体を曲げる。昔マナー研修で習った最敬礼を披露する。こっちを見るでないクラウスよ。

「これはご丁寧に。私はベルノルト・アルホフと申します。このアウグスの冒険者ギルドでギルドマスターと、町の代表を任されております。以後、お見知りおきを」

 向こうも立ち上がり頭を下げる。背中から長い髪がさらりとこぼれる。美形はただのお辞儀も絵になるらしい。

「立ち話しも何ですから、そちらへお座りください。クラウスも」

 ごく自然に応接セットの上座へ誘導して、自分は下座へ向かう。素直に勧められた場所に足を運ぶと、目の前の美形から再度どうぞと着席を促される。

(金髪碧眼、高身長で手足も長い。そしてイケメンという言葉が霞むほどの美形…圧が…煌びやかオーラが…物理で目潰されそうなんですけど!?)

「さて、いろいろとお話しを伺いたいのですが、少しお待ちください。お茶を用意させております」

「あ、お構いなく…」

「クラウス。後ろの棚に…あぁそれです。こちらに」

 スッと立ち上がったクラウスが女性が好きそうなピンク色の小箱を持って席に戻り、そのままそれを美形に手渡す。

「これはフィナンシェという焼き菓子なのですが、ご存知ですか? 我が国に300年ほど前に現れた転移者殿が伝えた菓子なのです」

 そう言いながら箱を開けて中身をこちらに見せてくる。

(おおー! 焼き菓子なら断トツでフィナンシェが好きだ!)

「フィナンシェは好物の一つなんです。男だてらに甘いものが好きでして。こちらでも口に出来るなんて、300年前の転移者さんには感謝しなければなりませんね」

「おぉ、そうでしたか。それは良かった。さぁどうぞ、召し上がってください。ああ、それと私のことはギルマスと呼んでいただければ結構ですよ」

 皆さんそう呼んでいますからとこちらに箱を差し出す。こちらも分かりましたと頷き、箱から一つ掴み口に運ぶ。

(へぇーまぁまぁじゃないか。フランス産バター使用が売りの有名店と比べるとバターの風味が足りないが、異世界でこのレベルなら充分だ。マジでありがとう転移者さん!)

「とても美味しいです」

 本当はテンションが上がって口元が緩みそうなのだが、平凡な容姿のオッサンがやれば気持ち悪いだけなので表情筋を総動員している。

「うん、マジ美味いよなここの」

 残りはお持ちくださいと美形改めギルマスに言われ、思わず前のめりでお礼をした横でクラウスがパクパクとテンポ良く焼き菓子を口に運んでいる。そろそろ食べるのやめてくれないだろうか。ギルマスと雑談しながらもクラウスを気にしているとお茶が届いた。


 お茶を飲み一息ついたところで本題に入るためかギルマスが背筋を伸ばす。

「では、エイトさん。あなたのステータスをお見せいただけますか?」

「あ、はい。これです」

 頭の中でステータスが見たいと念じると、目の前に半透明の画面。


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名前:エイト・ネカサ(男)47歳


魔力:310


属性:水、風、氷、無


魔法:アクアバレット、エアーバレット、アイスバレット、身体強化、生活魔法


スキル:料理4、解体2、調合1、計算3、小物作成2、筆耕2、水泳4


隠しスキル:言語翻訳、鑑定、収納魔法(日本で所有しておりイエナウルムで使用可能な物有り)、状態異常無効、女神の謝罪



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「見えます?」

「私に見せてもいいと意識をして…はい、大丈夫です。見えます」

(なるほど…意識すればいいのか)

「うーん、少し珍しいといいますか…なんとも…これまでの転移者殿とはスキル構成が違うというか…」

 「あー、この、ここの隠しスキルにあるスキルの使い方なんですけど…」

「は? ちょっと待ってください! なんですかその隠しスキルとは!」

(あれ?)

「ほらここに、隠しスキルあるじゃな…え? ありますよね? おー…そーゆーことー?」

 隠しスキルの箇所を指差したが、どうやら見えないようだ。

(まさかのちゃんと隠してましたってか?)

 ギルマスは顎に手を当て考え込んでしまった。クラウスも困惑しているようだ。

(よし!構うもんか。見せちまえ)

 テーブルにあったメモ用紙に隠しスキルを書き出す。

(この鉛筆、四角いから持ち辛い)

 見えているまま、書き出したものをギルマスへ渡す。日本語で書いたはずなのにちゃんとこっちの言葉になっている不思議さよ。

「これです。見てください。この隠しスキルにあるスキルなんですが、言語翻訳以外…いや、状態異常無効は使えているかも知れませんが、他は現状使えないんです」

 クラウスも見たそうにしていたので許可を出す。

「え、なにこれ…日本で所有? 日本てエイトの故郷だよな? わっ見てぇ!!!」

(そこっ!?いや、そこもだけども!)

「女神の謝罪が目立つよなー! 気になる〜」

「クラウス…楽しそうだな」

「あははっごめん! 睨むなって。だってさー隠しスキルってなんかすごくね? カッコいいじゃん!」

「お前なぁ…」

「あ、俺のも見る? ってか、エイト…魔力多くないか?」

「そうなのか?」

「うん、多い。こんなの王宮の魔法士にもいないんじゃないか? あ、ほら。俺のステータス」

「よろしいですか?」

 クラウスのステータスを見ようとしたらギルマスに声を掛けられた。二人で話している間、デスクで調べ物をしていたようだが、何か分かったのだろうか。

「質問なのですが、女神様からそのスキルについてはどう聞かれていますか?」

「いえ、何も聞いていません。と言いますか、女神様とやらにお会いしておりません…」

(あぁ…二人の顔が…残念なことに。それでも俺より断トツでイケメンだが)

 今日は長い一日になりそうだ。









=====

クラウスのステータス。

同世代の冒険者の中では優秀です。


クラウス・シュッテ(男)18歳 

魔力: 75

属性: 火、無

魔法: フレイムバレット、フレイムアロー、身体強化、生活魔法

スキル:木工3、 剣術4、盾術2、体術3、解体3、料理2、交渉2

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