8 アウグス冒険者ギルド本部(2)

「へー、綺麗なもんだ。美術館みたいだ」

「びじゅ…なに?…ま、いっか。冒険者ギルドはこっちだ」

(美術館はないのか? クラウスがしらないだけか…どっちだろう)

 クラウスは向かって正面の入り口ではなく、右側にある入り口へ歩いて行く。

「正面からでも行けるけど、案内所があって混んでんだ。あ、左側は商人ギルドだよ」

 クラウスに続いて中に入る。入ってすぐに長椅子がいくつかあって、奥にはカウンター。その向こうには20人程はいるだろうか、生成り色のシャツにモスグリーンのズボンを着た男女が忙し気に行き来している。

(制服があるのか…おかげで、ザ・役所って感じだな。あ、本当に酒場とか溜まり場みたいなのないんだ)

 さきにクラウスから建物について聞いていたから期待はしていなかったが、やはり酒場は併設されていないようだ。異世界モノの定番イベント、昼間から酔っ払って絡んでくる冒険者というのはいないらしい。

(まあ、現実にそんな奴がいたら迷惑以外の何ものでもないしな)

 特に誰からも誰何されず、カウンターに向かうクラウスの後を大人しく追う。

「ティアナ、ギルマスいる? ちょい報告あるんだけど」

 (おぉ、こりゃまた美人だねぇ。こっちはみんな顔面偏差値高めだなぁ…)

「あっクラウス!! お帰りなさい! ギルマスは執務室にいるよ?」

「お、そっか。じゃあさ、取り次いでくんない?…うっし、これ。大声出すなよ?」

 美人さんと話しながらカウンターにあるメモ用紙に何か書き込み、そのまま目線をジッと合わせて渡す。美人さんは少し顎を引き、先程までの華やかな笑顔から真面目な顔に。メモに視線を落とし、すぐに元から大きな目をさらに大きくする。

「そのメモ、ギルマスに渡してきてよ」

 クラウスが静かな声音で話す。美人さんはチラリとクラウスと俺を見て頷き、二つ向こうにいる男性に声を掛けて席を立った。

「なあクラウス…なん」

「発表するかしないかはエイトとの話し合いになると思う。今は騒がれない方がいいかなと」

 話しを遮るようにまぁまぁと手を振り、声量を若干抑えて話す。

「どこの国にも黒髪や黒目はいる。この辺りは黒目は珍しいけどな。6巻みたくどっちも揃ってても、それの子孫で通せる。エイトが嫌ならそこら辺は隠せると思う」

「うーん、そうか…そうした方がいい場合もあるってことか?」

「いや、さっきの乗合での事を思い出したんだよな。エイト、ちょっと嫌そうだったじゃん? んで、俺にはペラペラ話していいか判断できないっつーか…お、まぁまずはギルマスに報告だな」

 意識は奥に向けていたらしく話しを止めてこちらを見る。美人さんがこっちに戻ってきた。

「ギルマスが執務室に来いって」

「ありがと。ではでは、行きますかー」

 カウンターを回り込み、奥にある扉に向かう。美人さんの視線はこちらについて来ている。心配なのだろうが何も言わない。彼女も若いのにしっかりしている。

(気になるだろうにな。転移者の事も、クラウスの事も)

 美人さんはクラウスの事が好きなのだろう。先程のパァッという効果音が付きそうな笑顔を見たら分かりそうなものだが、肝心のクラウスは気付いていないようだ。

(お前、残念イケメン属性か?)

「ん? 入るけどいい?」

 こちらの心の声が聞こえたのか、タイミングよく振り返る。扉の前に着いてノックしようと右手を上げた格好で。

「ああ。いいよ」

「?…クラウスでーす、入りまーす」

 ノックと同じに声を掛け扉を開ける。

(ノックの意味!!!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る