7 アウグス冒険者ギルド本部(1)
門を潜った先は馬車が余裕ですれ違えるほどの大きな通りがあった。さらに奥には広場のようなものが見え、そこは遠目にも人や荷車などで混雑している。門手前から見えてはいたが、通りは石畳が敷かれている。流石にアスファルトはないらしい。
(おー、両脇の建物が石造りだ…木造もあるけどヨーロッパに旅行にきた気分になる!
お、あれ行商人ぽい。あんな荷物満載の荷車引くとかどんだけ力あるんだよ)
クラウスは、キョロキョロと落ち着きのないアラフィフのオッサンの背中をさり気無く押し、道の端へ誘導するよう通りを進む。奥を指差しながらこちらに笑いかけるその顔は少し得意そうだ。
「あれ、あそこの広場に冒険者ギルドがあるんだ。でかい建物でさ、1階に冒険者ギルドと商人ギルドがある。2階は資料室な。で、3階と4階が役所」
「へぇ役所なんてあるんだ」
「町には必ずあるぜ。子供が生まれたら必ず申請すんの。さっき見せたカードあるだろ? 申請するともらえる。あれがないと乗合馬車は有料になるし、結婚できなかったり、家建てるときの許可がでなかったりするんだ」
孤児でも孤児院の院長が代表して申請するらしい。申請を怠った奴はそれだけで犯罪者扱いを受けるそうだ。
(これも転移者がなんかしたんだろうな)
「あそこから乗合馬車に乗る」
左手にある木造二階建ての建物を指し示しながら、そこに向かって歩き出す。その建物の前には側面の幌を捲り上げた幌馬車と、出発を待つ人達がいた。
「建物の看板読める?乗合場って書いてあんだけど」
「お、おおぉ、読める! 読めるわぁ」
(不思議な感覚だな。日本語じゃないって分かるのに日本語として読んでる。これが言語翻訳ってスキルなのか)
「よかった! 馬車は町中のでかい通りなら必ず走ってるから、迷子になったらあの看板探すといいよ。どこから乗っても広場は通るからさ」
「分かった。方向音痴だからありがたい」
乗合馬車に乗り込むと然程待つことなく出発となった。俺は住民カードもギルドカードも持っていないから本来は有料だ。今回はクラウスが門番君に仮カードをもらってくれたらしい。因みにどこまで乗っても鉄貨1枚とのこと。
(日本円で10円相当…安すぎませんかね?)
席は全て埋まっており利用客は多いようだ。右隣にはクラウスが座っていて、御者の髭オヤジと楽しそうに話している。
(そんなことより、左からの視線の圧が強い!)
左隣には10歳くらいの少女が乗っていて、その奥には母親らしき人もいる。しかし、何故この子はこっちを見ているのか。このぐらいの子供は苦手なんだが…。
「ねえ、おじちゃん。ニポン人でしょ!バラのお皿作った人よね?」
(…は?)
「あっこら、ミア! もう、何言ってるの。すみません〜」
奥の女性はやはり母親だったらしく、少女に注意しながらこちらにも頭を下げてきた。
「あぁいえいえ、大丈夫です。ミアちゃん、おじさんはニポン人ではないよ。お皿も作ったことないなぁ」
(ニポン人…日本人の可能性大だけどな…)
愛想よく笑いながら少女に話し掛ける。
「なぁんだ…ちぇー…」
なにやらブツブツと言いながら残念そうに口を尖らせている。
本当にすみませんと眉尻を下げた母親に、お気になさらずと微笑みクラウスの方…つまり進行方向に視線をやる。もう話しかけないでねのポーズだ。こちらのやり取りは聞こえていたのだろう。クラウスがニッと笑いながら流し目をくれる。
(イケメンか!!)
さらにこちらに顔を寄せ、ニヤニヤしながら周りに聞こえないよう小声で話す。
「6巻の転移者は黒髪黒目なんだ。きっとあの子も転移者シリーズのファンなんだよ。同じ黒髪黒目のエイトは7巻になったりして?」
「アホか。遠慮する」
なに言ってんだとジト目で見てからフゥと一息つく。
「ごめんごめん。お、もう着くぞ。ほら、あれ」
指差し先には石造りで重厚な建物。若い頃、ヨーロッパに一度だけ旅行をした際に見たパレロアン美術館に似ている。いや、博物館だったか。どちらにしても、とても美しい建物だ。
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