5 初めまして異世界(5)
時々声を掛けられながら歩くこと10分程。やっと人の出入りが目視出来る程になった。意外と人が多い。何かあったのか、それともこれが普段の光景なのか。クラウスを見ても特に動揺している様子はない。ならばこれが普通で、想像よりも大きな町のようだ。クラウスもこっちが町の様子を見て少し驚いたのが分かったのだろう。振り向いてニヤリと笑う。
「おー見える? あれがアウグスね。ほら、あっちに森があるだろ? ベルナウの森っての。あそこさ、結構強めの魔物がいて10年くらいの周期でスタンピード起きんだよね。んで、それを防ぐためのアウグスの城壁で、冒険者ギルドなわけよ!」
クラウスが指差す方向には確かに鬱蒼とした森がある。かなりの広さがありそうで、奥の方に目をやっても森の切れ目は分からない。スタンピードとか、小説や漫画でしか見聞きしない。
(でも…ここではそれが現実で、若いクラウスが気負いなく話すくらい日常的なことなんだな。…異世界…か)
「随分と大きな森だな。クラウスもスタンピードは経験しているのか?」
「経験ってゆうか、5年前かな? スタンピードが起きてさ、そん時俺はまだ成人前でさ。町の中にいて無事だった。アウグスには等級の高い、強い冒険者がゴロゴロしてるからね。ただ…親がさ…大工だったんだけど、運悪く森に木を伐りに行っててさぁ。その日はたまたま母さんも手伝いで…ね。二人ともダメだったよ」
(おうふっ!すぐ目の前に被害者家族が…やっちまった)
「そうか…それは災難だったな。たまたま、運が悪かったといえばそうかも知れんが、身内としては割り切るのも難しいものだ」
「まあね。最近はやっと仕方がなかったんだって思えるようになったかな。うん、エイトには…なんだろなぁ? 話しやすいっつーか…年上だからかな? 親のこと聞かせても困るよなって思ったけど、つい言っちまった」
(年上も年上だぞ。ダブルスコアは余裕である気がする。なんなら、自分の息子だっていっても通用しそうだ…)
「そりゃあ、こっちの世界では新米だが、47歳、50近いんだぞ? 酸いも甘いも…いや、酸いばっかか? ま、それなりにだな。いろいろ経験してるさ」
(あまり人とは関わらずに、むしろ避けて来たからなぁ。経験豊富とは言えんか)
「うえっ? 47ってマジで? めちゃ若く見える…30ちょいくらいと思ってたよ。うわぁ…俺より29コ上かー…なんかごめんなさい。やっぱちゃんと話し方勉強する」
(29…クラウスは18歳ってことか。ピッチピチやないかい)
「あ、いいって! 気にしないでくれると助かる。種族特性ってのも…違うか。まあ、なんだ…俺のいた国は国民全体が他国から見ると若く見えるらしいんだ。俺は割と老け顔だと思うが、それでもクラウスみたいな彫りの深い顔立ちからすると若く見えるんだろうな」
(ありがとう平たい顔。30ちょいだとさ。若く見られるならラッキーってなもんだ)
本当にいいのかと少し心配そうなクラウスに、これまで通りでと話しながら歩いていたら、立派な石造りの門が、装飾までもはっきり分かるくらい間近に見えた。門の左右には金属の鎧をきた門番が立っており、町へ入る人達に声を掛け何かを確認している。
(これは…身分証明的なものがいるのか。小説とかだと定番イベントだよな。あーもう少しいろいろ読んどけばよかった。流行ってたんだし、いくらでも読めただろうに…)
まさか自分が異世界に転移するなんて…いやいや、そもそも異世界が本当に存在するなんて思わないだろう。いくつか読んだ小説ではなんの躊躇いもなく異世界に馴染む主人公が登場する。50近くのオッサンには無理だ。柔軟性なんてもんはない。準備がないと些細な事で動揺してしまうのだ。ただ、運が良かったのかここは日本人を含め転移者が多い。自分が適応できなくても、この世界が異世界人に適応してくれている。周囲には転移者だと告げれば、常識外の行動を取っても大目にみてもらえるだろう。
「門番いるだろう? あそこで一応確認してんだよ。町の住人かどうか。住人なら…これ! このカードか持ってるからそのまま通してもらえる。あと、アウグスの場合はギルドカードでも大丈夫。冒険者ギルドのはこれな! どれも持ってないと銀貨1枚いるんだ」
「へぇ。じゃあ俺もいるよな。クラウス、悪いが貸してもらえるか?」
「あ、大丈夫! 転移者ならいらないから。そのかわり、門番のところで転移者って伝えてギルマスにステータス見せなきゃいけないけどな」
「え、ステータスみせるのか?」
(うーん、若干の不安を感じる。あの隠しスキルがなあ。確証が得られてない事についての反応が分からんからなあ…)
「見せるのはギルマスのみだから安心してよ。アウグスは他の町と違って冒険者ギルドが仕切ってるんだ。ギルマスが町長みたいなもんだな。どんな内容だったとしてもギルマスはエイトの許しなく誰かに喋ったりしないぜ!」
随分と信用の置ける人物らしい。
(それなら安心か? 自分でもよく分からんスキルがあるんだ。教えてもらえるだろうか。特に女神の謝罪というスキルについて。知りたくない気もするが…)
「分かった。どちらにしても現状は誰かに頼らんとならんしな。クラウスが信頼する人なら大丈夫だろうさ。よろしく頼む」
任せとけと笑うクラウスに促され門番の前まで進む。
「おーう、クラウス! 問題ないか?」
「ねえよ! この辺りで問題あったらやばいだろうがよ!」
はっはっはと軽快に笑いあい会話をする二人と様子見するオッサン。そこで門番君がこちらを見る。居たことは分かってただろうに、自然な感じで話し掛けてくる。
「そちらは? 見たところ町の住人ではありませんね」
「あ、フリッツよぅ。ギルマスって今日はギルドから出てない? ちょ耳かせ!…この人、エイトさんね。転移者なんだよ」
(あぁ…門番君…フリッツ君か。固まった。まぁそうなるよねぇ。なんだかねぇ…ごめんよーオッサンもなぁ…ビックリしてんだよー)
一応、クラウスは周りを意識して門番のフリッツ君に小声で話してくれた。フリッツ君は固まったままだが。
(どうするかな…もう一人の門番へ…おーこっち見てる。だよな、警戒するよな)
もう一人の門番に気を取られている間に、フリッツ君は無事に再起動したようだ。
「さっきまで王都から商人ギルドの連中が来てたしいるはずだ。おい、それより…本当に? お前、これは冗談じゃ済まんぞ?」
後半部分は小声で話すフリッツ君に、クラウスが右手をヒラヒラと振りながら問題ないと笑いかける。
「んじゃ、ギルマスんとこ行ってくる。じゃぁな!」
「おーう! あ、今度お話しを聞かせてください」
フリッツ君はこちらにも和かに声を掛けて通してくれ、俺も右手をヒョイと上げた。
(さて…無事に町には入れたが、ギルマスとやらに会わなきゃならんのだよな…クラウスは信頼してるようだが…余所者、しかも転移者とくればどうなることやら…)
軽く心拍数を上げながら、門を潜った。
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