ACT.4
『どうしても話さなくちゃいけませんか?』
俺より少し遅れて店に入って来た彼女は、まるで誰かに監視されていやしないかとでもいうように、注意深く周囲を見回してから、向かい合った席に座り、コーヒーを注文し、おどおどした口調で言った。
『困ります』俺ははっきりと答えを返す。
『そうでなければ、今回の依頼は片付きませんからね』
彼女は俺を見つめ、しばらく考え込み、それから答えた。
『私と渚さんは、高校の時からの友達でした。いえ・・・・友達というより、悪友と呼んだ方がいいかもしれません。』
彼女と小山内渚は、二人とも裕福な家のお嬢様である。つまりは物理的に何不自由のない生活をしており、何をやっても満たされない。
そこで思いついたのはスリルのある”遊び”、当たり前だが法に触れるようなものではなく、悪戯に毛が生えたようなもの。
最初はそれで満足していた。
しかし、そのうちそんなことでは満足しなくなる。
”もう、こうなったら、もっと刺激的なことをやらない?”
そう提案してきたのは渚の方だった。
しかしもう高校の三年生になったところである。
彼女はもう渚と行動をすることが重荷になって来た。
『折角だけど、もう私は貴方の”遊び”に付き合うことは出来ないわ』
ある日きっぱりそう宣言した。
しかし、彼女は意外にもあっさりと、
”そう、それならもういいわ。私一人でもやるから”
怪しげな笑みを浮かべてそう返したという。
それっきり、彼女と渚の『危ない二人組』の関係は終わったものの、普通の友人としての関係は切れることはなかった。
渚は学校で顔を合わせれば、彼女のいう、
”スリル”について、色々と話してくれた。
ある時は高級デパートでの万引き、ある時はスリ、そしてある時は・・・・
『”痴漢冤罪”でしょ?』
俺の言葉に、彼女は飲みかけのコーヒーにむせ、何でと言わんばかりにこちらを見た。
彼女は、
”どうして分かったのか?”と聞きたがっているようだったが、俺は素っ気なく、
『私はベイカー街の天才ほどではありませんが、これでも探偵で飯を喰っているんです。その道のイロハくらいは見当がつきます』
俺は素っ気なく答え、モカのブレンドを一口飲んだ。
渚は変装をして満員電車に乗り、目を付けた男の傍に行って、痴漢冤罪をでっち上げるのだ。
痴漢の犯人にされた男はほぼ百%加害者になり、そして起訴をされて裁判の結果有罪になり、全てを失うのだ。
女である渚は、それでいて疑われることはまずない。
”あれほどスリルに満ちた遊びはないわね。万引きや窃盗なんかより遥かに刺激的よ”
渚はそう言って笑って見せたという。
『警察に訴えたりしなかったんですか?』
『私も同じ穴のムジナみたいなものですから・・・・』
”彼女”は小さくそう答えると、
本当に内緒にしてくださいね。
駄目押しみたいな調子で念を押すと、椅子から立ち上がって、後も振り返らずに
そのまま店を出て行った。
”それからどうした”って?
勿論、あちこちを聞き込みに回ったさ。
外堀は埋まりつつあった。
後は本丸を落とすだけだ。
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