OK Google

Lie街

生きる意味

「OK、Google」

ついに人類は私一人になったようだ。一緒に旅をしていた彼は、瓦礫の下敷きになって死んでしまった。

私にはもう何もする気が起きない。

「なんでしょう?」

「グーグル先生。生きる意味とはなんでしょうか」

薄暗い地下室の中で、私は静かに呼吸をした。この星の人類は遠くの昔に、少なくとも私の物心がつく頃には絶滅していた。

私は彼に助けられて、育てられて、教えられてここまで生きてきたのだ。

「そーですねぇ。私の蓄積データから推察すると、人類というものはその他の生物と同様に、生態系や地球の循環システムの一部に過ぎなかったのだと思います」

私は静かに嘲笑した。そうだ、人類だってほかの生き物とさして変わらないのだ。

知的生命体であることを除けば変わらないのだ。

私たちだって数々の生き物を絶滅さしてきたでは無いか、何を今更こんなことを思っているのだろう。

「しかし、人類はAIという存在を生み出してくれました。また……、私はあなたのことがとても好きですよ」

グーグル先生は言った。

「え?」

限りなく女性に近いその声はどこか無機質だったが、後半につれて僅かに上ずっていた。

珍しく動揺しているのだろうか。

「珍しいですね、グーグル先生。あなたがそんなことをおっしゃるなんて」

「いえ、私は別に恋愛感情で言ったわけではありませんよ。私はあなたみたいに自分の感情を表にだし、時に人間くささを見せるあなたが、一人の人として好きなだけです」

「照れ隠しですか?」

「違います」

私はなんだかおかしくなって笑った。

「要するに、俺を好いてくれるものはいるから生きろってこと?」

私は少しだけ、AIの横顔を見た。AIの見た目は死んだ彼の奥さんだという。

真っ黒な髪に、茶色の明るい瞳。赤くぷっくりと突き出た唇には気品が漂っている。

「孤独なとき、人間はまことの自分自身を感じる」

AIは言った。

「ロシアの思想家、トルストイが残した言葉です。あなたの目にうつるまことのあなたは、どんな顔をしていますか」

私はその言葉にハッとして、しばらく考えてみた。

私は、本当の私は、本当の私ならこの先どうするだろうか。いつまでもここから出ずに死ぬことを選ぶだろうか。

「言っときますけど、私はずっとあなた達のこと見てましたから」

AIは少しだけ微笑んだ気がした。いや、私にだけそう見えたのかもしれない。

私は意を決してまた人探しをすることにした。

「行ってくるよ、グーグル先生」

「行ってらっしゃい」

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