グラシャ=ラボラス

平 一

グラシャ=ラボラス

信用のある侍女じじょ達だけは、

王妃を亡くした王様の寝室への出入りを許されている。

有力な家臣から送られた情報収集員としての、

役割をもつ者もいるようだ。

私がこっそりと寝室に近づくと、

聞きなれぬ、悲しげな女の声が聞こえてきた。


「……王様、貴方が悪いのですよ。 

『隣の国を全滅させてでも、我国を富ませよ!』

というだけなら、もちろん私の得意分野です。

でも、『軍や国民がいかなる犠牲を出そうと、

我が世は栄え続けねばならん!』などというお言葉を、

おっしゃってはいけませんでした」


こんな深夜に一体誰が?

……人のことは言えないが(笑)。

そっとのぞくと意外にも、犬の耳のように垂れた、

二つ結いツインテールの髪型が愛らしい、少女の姿が見えた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330656208198511


「王もまた軍の指揮官である以上、

広い意味ではその一員なわけでしょう?

あいにく私には、人間の職業適性を判定できる、

心理学の心得こころえもあります。

そうなってしまうと、契約を守るには私、

殺戮さつりくの魔王グラシャ=ラボラスといえども、

こうするしかないじゃありませんか……」


話の内容が只事ただごとではない。

それに、何か少女の背中から生えているのは、

翼、だろうか……?

私は逃げるか出てゆくべきか、激しく悩んだ。


「でもまあ、ご安心ください。

好戦主義者の貴方と違ってお世継ぎは優しく、

側近も有能な方々のようです。

貴方に代わって必ずやお国に繁栄をもたらし、

ご遺志をかなえてくれるでしょう」


意を決して寝室に飛び込んだ私は、息を呑んだ。

寝台ベッドには無残にも変わり果てた、

王の亡骸なきがらが散らばっており、

振り向くと少女の姿は、煙のようにかき消えていた。


……まあ、いいか。

確かにあの悪魔の言う通り、

蛮行愚行と黒魔術で有名な王は、元々人気がなかった。

犯人を捜そうにも容疑者でない者を探す方が難しく、

葬儀も祝典になりそうな有様ありさまだ。

人間には不可能な現場の惨状や責任問題を考えると、

死因は病死か事故死になるのではないか、とも思った。

私は震えながらも静かに、部屋を後にした。



グラシャ=ラボラス:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱ひとはしら

人文科学の知識を与える一方、殺戮の達人でもある。

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グラシャ=ラボラス 平 一 @tairahajime

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