八つ当たり(9)

 二郎は俯き加減で話した。


 13丁目には恐ろしい妖が、2体いること。


 1体目は、人間の肉と人間の命を食べる狸。

 2体目は、人間の罪と人間の寿命を食べる狐。


 近衛家には妖を倒す特殊な血が流れていること。

 遥か昔、近衛家は貴族の町––––月城町1丁目に暮らしていたが政敵に陥れられ、13丁目へ追いやられたこと。


 妖の町に嫁いでくれる貴族の娘はいなかったこと。

 子孫を残すために近親婚を始めたこと。


〝近親相姦〟という罪を狙われて、狐との戦いが始まったこと。


 狐に襲われた自分を助けるために、父は罪と寿命を食われたこと。


 たまたまその場に居合わせた狸の助命嘆願により、自分だけが殺されずに生き残ったこと。




「僕は父さんの戦い方をずっと見てきて、真似をしてきた。けれど今は分からない。頭に靄がかかったように、父さんの姿を思い出せない。もう妖は倒せない」


 無表情で言いながら、


「狐は、僕が殺さなければならないのに」


 二郎は内心ではひどく狼狽していた。


 どうして自分は、今日初めて会ったばかりの彼にこんな話をしているのだろう?

 家族にさえ打ち明けていないのに。

 

「……あんたさぁ」


 ザアザアと吹いていた風が止むと同時に、ずっと静かに耳を傾けていた晴が話しかけてきた。

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