そこは月城町13丁目

序章 手紙

手紙 （1通目）

拝啓、私の愛おしい娘

　こんにちは。

　お兄ちゃんとは仲良くしていますか？

　文字の読み書きの練習はどうですか？

　あなたはがんばり屋だから、きっと頑張っているでしょうね。

　さて今回は、あなたにずっと話したいと思っていた町について書こうと思います。

〝月城町13丁目〟

　この町の名前をあなたもよく知っているでしょう。

私たちが暮らす10町目からは少し離れた場所にありますね。汽車だと2時間くらいかかるかしら？

　私を含む大人たちは、昔からずっと言い続けてきました。

『絶対に13丁目へは行ってはいけない』と。

　あなたを含む子供たちは問い続けました。

『どうして行ってはいけないの？』と。

　その問いに、大人たちは答えませんでした。それは〝行ってはいけない理由〟を知らないわけではなく、意地悪で教えなかったわけでもありません。

　答えられなかったのではなく、答えたくなかったのです。

　何故なら13丁目は、とても不思議な町だからです。

　同じ空の下にあるにも関わらず、他の町とはまるで違う世界なのです。

　実はあの町はーー。

ーー中略ーー

……と、いう理由なのです。

　ここに書いてあることに1つも嘘はありません。全てが本当のことです。

これを話すと、子供たちが13丁目に興味を持ってしまうのではないかと怖くなり、ずっと黙っていました。

　あなたはどう思いましたか？

　あなたが好奇心ではなく、恐怖心を感じてくれることを祈ります。

　どうか、あの町へは近寄らないでください。

　私はいつもあなたを想っています。病気のせいで直接は話せなくなりましたが、私はあなたとお兄ちゃんの幸せをいつも祈っています。

　どうかお兄ちゃんと力を合わせて生きてくださいね。

　手が震えてきました。これ以上は書けそうにないので、最後にもう一度伝えます。

　絶対に月城町13丁目へ行ってはいけません。

手紙 （2通目）

　疲れました。

　もうお前の面倒は見たくありません。

　お前のために人生を使いたくありません。

　俺はお前の兄をやめます。遠い場所で自由に生きていきます。

　お前は月城町13丁目へ行ってください。

　さようなら。