第34話「無限の妖怪」
「……! 李一様」
凜花たちが飛行する大蛇と交戦し始めたところへ、蓮井隊が援護をしてくれた。
「凜花様。この先で間違いなさそうですね」
李一も邪気の出処に見当がついたらしい。
実際、凜花はかつてない濃さの邪気を近くに感じていた。それも、濃いだけでなく異質さも孕んでいる。
「あと少しで邪気を絶てる。一気に仕留めましょう!」
李一を筆頭とする蓮井隊と共闘したことで、雑魚妖怪はあっさり片付いた。
しかし、ここから進めばもう息をつく暇はなくなる。
雑談ができる最後の機会とばかりに李一が尋ねてきた。
「凜花様と隼斗様の距離が縮んでいるように見受けられますね。もしや恋仲に?」
今の戦いの間だけで見抜いたのか。さすが討伐隊士随一の眼力の持ち主。
「はい。俺の方から告白して、それを受け入れてもらいました」
隼斗の回答も間違ってはいないのだが、凜花としては、一度保留にしてしまった都合上、最終的には自分側から告白し直したという認識だ。
「それはうらやましい限りです。凜花様のような女性はそうそういるものではありませんからね」
「そうですね。僥倖だと思っています」
李一との会話を終えた隼斗が凜花に耳打ちする。
「やっぱり李一様も凜花のこと好きだったみたいだね」
「そ、そうでしょうか……? 社交辞令では……」
「ひょっとして後悔してる?」
李一が本気ではないとしているのは、もし本気だったら李一を選んでいたからだとも受け取られかねない。
その誤解だけは避けねば。
「それはありません。隼斗さんが一番だと確信してからお付き合いを決めましたので」
今度こそ、きっぱりと答えることができた。
「それはうれしいな。あの李一様に勝てただなんて」
隼斗がある種の栄誉のようなものを感じてくれていて、凜花もうれしくなる。
少しの間、そうして話していると、穴の空いた岩壁の前まで来ていた。
「この洞穴の奥に異質な邪気の塊があるようです」
妖怪の気配とはどこか違う。しかし、無関係とは到底思えない邪悪な力だ。
「樹……樹……」
突如、地面の下から重苦しい声が聞こえてきた。
あわてて一行は飛び退く。
すると、地面が割れて無数の妖怪が這い出てきた。
洞穴の奥から感じる邪気に気を取られていて通常の妖気に対する警戒がおろそかになっていた。
地中深くに潜っていたことも発見できなかった原因だろう。
それより驚いたのは。
「真ん中にいる妖怪……人間の姿を保っている……?」
飛び回っている数多の妖怪は虫や獣、爬虫類といった姿をしているが、隼斗の視線の先にあるのは、皮膚の一部が焼けただれた人間の姿だ。
「しかもこいつら、樹くんの名前を呼んでる!?」
反射的に樹を守るよう前に立つ千夏。
「父さん……? 母さん……?」
樹は、この人型をした妖怪を親と呼んだ。
まさか妖怪に殺された樹の両親は妖怪化してこの世に存在し続けていたのか。
「どういうこと!? 樹くんの両親は死んだんじゃなくて妖怪に取り憑かれてるってこと!?」
千夏は半ば願望のように言うが、妖怪を祓うことで樹の両親が助かるなどという喜ばしい状況ではなかった。
「樹さんのご両親は霊力を……?」
「うん……。持ってたらしい」
樹も人づてに聞いたということは、物心つく前に死んだということだ。
「霊力を持った人間は妖怪への変異が遅れる……。相当霊力が高かったのでしょう……」
それでも数年間人間の姿を保つことはそうそうない。
生前の記憶を一部残しているらしい彼らは、樹の魂を取り込もうとしている。
「斬るしか……ないのか……」
苦々しげな面持ちで隼斗が剣を振るう。
刀身から放たれた霊気の刃は樹の父に命中し左腕を斬り落としたが。
「な――ッ!」
すぐに新しい腕が生えてきた。
蓮井隊の面々も、周りにいる妖怪たちを斬るが、そちらも再生して浄化されることも消えることもない。
「この奥から邪気が供給され続けているせいでしょう……。それを断ち切らないことには……」
凜花の予想はおそらく外れていないが、簡単に解決できる問題でもなかった。
無限に蘇る無数の妖怪。それに阻まれては、洞穴に入ることすらできない。
「……ご両親と戦うのは樹様にとってつらいはずです。ここは私たちに任せて進んでください」
「李一様……?」
凜花と樹に名を呼ばれた李一は、妖怪の群れに突撃した。
蓮井隊の隊員も続く。
彼らは次々に妖怪の身体を打ち砕き、洞穴の前に空間を作った。
「ですが、このままでは李一様たちが……!」
「最も危険なのは得体の知れない邪気の根源と戦うあなたたちです。私たちには構わずこの先へ……!」
凜花は、李一の気迫に押されて走り出した。
隼斗・千夏・樹も、その後を追う。
邪気の供給さえ絶てば、妖怪の復活は止まる。今は進むしかない。
「凜花様、どうかご無事で」
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