第13話「同室」

「一部屋しか空いてない?」

 町に着いて訪れた宿屋で受付の女性から言われたことを復唱する隼斗。

 なんでも祭りが近くて人が集まっているらしく、他の宿屋は満室ばかりだった。

 ようやく空き部屋のあるところが見つかったのだが、いざ泊まろうとしたらこういうことになっていた。

 この分だと他に泊まれる場所はないだろう。

「どうする? あたしは隼斗と樹くんがいても平気だけど、凜花ちゃんは困るよね」

「……? なぜでしょう?」

 千夏の言葉に、凜花は首をかしげた。

 本当に意味が理解できていないのだ。こういう点で凜花は世間とずれている。

 千夏と隼斗は、凜花が赤城隊に入る前からの付き合いのようだった。幼馴染とまでいえるかは分からないが、気心の知れた仲なのは間違いない。

 仲がいいから同室で問題ないというなら、自分も入れてほしいというのが凜花の考えだ。

「いや……なんでって言われても、なんかダメっぽくない?」

 千夏の方も首をかしげている。

「千夏は女扱いしなくていいけど、凜花はそうもいかないって話だよ」

「なんだとー」

 隼斗が説明する傍ら、千夏が軽く怒りを見せている。

「ですから聖女扱いはいいんです。みなさんと一緒に扱っていただければ」

「聖女扱いじゃなくて女扱いね。まあ、樹は子供だし、俺さえなにもしなければ問題はないんだけど」

 とぼけたことを言ってしまい隼斗につっこまれた。

 『聖女』ではなく『女』なら千夏と同じのつもりなのだが。

「ここは隼斗を信じるしかないか。凜花ちゃん、あたし、樹くん、隼斗の順に並んで寝るってことでいいかな?」

「私は構いませんけど」

 凜花としては、どんな順番でも文句はない。

「まあ、そうなるよね。一人だけ野宿させられなくて良かったよ」

 隼斗も納得している模様。

 樹はというと。

「いいけど、僕も男なのに神谷さんと扱いが違うのはなんで?」

 どこか不満げな表情だ。

「だって樹くんは子供じゃん。なんならお風呂も一緒で大丈夫でしょ」

「そ、そっかー……」

 千夏の答えに対し、なぜ残念そうにするのだろうか。

「ってことで、四人宿泊します」

「かしこまりました」

 隼斗が受付での手続きを済ませたので、四人で部屋に向かおうとしたところ。

「あの……もしかして討伐部隊の雨宮凜花様でいらっしゃいますか?」

 受付の女性から確認されたので答える。

「はい。そうです」

「やはりそうなのですね! 類い稀な霊力を持ち、どんな妖力や邪気も浄化する聖女様だとお聞きしました。お目にかかれて光栄です!」

「え……?」

 詳しい話を聞くと、東の村から出稼ぎにきていた人がうわさしていたらしい。

 霊力の高さも容姿の美しさも段違いだからすぐ分かるとか。

 赤城隊時代にはそこまで言われていなかったので少々面食らった。

「そういえば、ずっと近くにいたからあんまり意識しなかったけど、凜花ちゃんって前より霊力強くなってるよね? しかもなんか前以上に美人になってる気も……」

 千夏の言っていることに心当たりがない訳でもない。

「私の刀が妖力を吸って進化したからでしょうか、霊力については。容姿についてはなんとも……」

「いや、容姿の方も根拠がないってことはないぞ」

 隼斗が自身の知識に基づき力説する。

「霊力は使い手の身体の中を流れて容姿を変化させる性質がある。俺と千夏の髪、茶色っぽい

だろ? これは霊力が目覚めてこうなったんだ。凜花の美しさに磨きがかかったのも同じ理屈だろう」

 霊力によって外見的変化が起こることは凜花も知ってはいた。しかし、自分は髪も黒いままだったし、大きな変化はなかったものと思っていた。

「それはその……」

 霊力だけならともかく、容姿について、元々美人だった上さらに美しくなったなどと言われると、どう反応していいか分からなくなる。

 素直に肯定するには称賛の度合いが大きすぎる。

 無意識に樹の方へ目をやるが、彼からもやはり称賛の言葉が。

「持って生まれた美しさも、努力して得た美しさも全部本物だと思うよ。凜花さんはもっと自信を持って」

「は、はあ……。なんとかがんばってみます」

 ここまでの褒め言葉をすべて自信にしてしまっては嫌な女になってしまいそうだが、とりあえずはこのように返す他なかった。


 受付の女性から尊敬の眼差しを受けながら部屋に到着。

 もう夜遅いので、さっそく布団を敷く。約束通り、凜花が左端、隼斗が右端だ。

「凜花ちゃんが綺麗だからって変な気起こさないでよー」

 千夏がいたずらっぽく隼斗に声をかける。

「まあ、がんばるよ」

 なにをがんばる必要があるのだろう、と凜花は一人首をかしげる。

 ともあれ明日も妖怪退治だ。ゆっくり身体を休めるべきだろう。

 布団に入って目をつむる。

「ホント、凜花ちゃんって純真だよね」

「赤城隊長みたいに自意識過剰じゃなくて良かったよ。あの人だったら、自分だけで一部屋使うとか言いかねないし」

「凜花さんについてきて正解だったってことだね。この隊なら、もうすぐ赤城隊の実績を超えられるよ」

 仲間たちの話す声が聞こえるが、町に入る直前に高度な術を使っただけに少しは疲れていたらしく、じきに睡魔がやってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る