第11話「新たな旅立ち」
野盗退治を終えて村に帰還。
互いの戦闘結果を報告し合う。
「すごかったんだよ、凜花ちゃん。一滴も血を流さずに勝ったんだもん。赤城隊どころか全討伐隊士の中で最強じゃないかな」
恩義を感じているからか、千夏は凜花をべた褒めしている。
「いえ、私がすごいというよりは、刀が強いだけで……」
「霊刀の強さは使い手の実力に比例する――討伐隊士の常識だと思うけど」
謙遜していると隼斗につっこまれてしまった。
「雲外鏡にしたって、凜花さん以外であんなにあっさり勝てる人はいないよね」
樹も凜花を称賛している。
赤城隊から追放された時は情けない気分になったものだが、あれ以降の方が褒められることが多くなっていた。
「俺たちの方も死者は出さずに済んだよ。樹の術が強力だったおかげだけど。この歳でここまでできる奴もなかなかいないだろうね」
隼斗は樹の方へ目をやる。
「そんなに大したことじゃないよ。本当に……」
対する樹は、照れているというより、なにか憂いを帯びたような表情をした。
「ところで今後の報酬の分配についてですが……」
凜花は千夏の事情と彼女への分配額を増やしたいという旨を隼斗たちに伝えた。
「なるほど。そういうことなら、俺のもいくらか分けていいよ」
「僕も。病気だったら少しでも早く手を打った方がいいだろうし」
隼斗も樹も賛成してくれた。
当初は、彼らの取り分を減らすのではなく、凜花の分を千夏だけに与えることを認めてほしかっただけだが、仲間を想う気持ちは皆同じのようだ。
「みんな……ありがとう……」
涙ぐむ千夏に対して隼斗が補足する。
「千夏のためじゃなくて、千夏のお父さんのためだからな。勘違いするなよ」
隼斗は千夏の父親と会ったこともないはずなので、千夏への慈悲があるのは間違いない。これは照れ隠しだろう。
凜花は以前、異世界から持ち込まれた書物を読んだことがあるが、その中に似たような言動をする人物が出てきていたのを思い出した。
「分かったよ。お父さんの病気が治ったら、それまでの分返していくから」
さすがにもらいっぱなしにしておくのは気が引けるようだ。
千夏の父親の病気を治すことが最優先であるため、治療が終わった後は逆に千夏の取り分を減らしてもいいとは思う。
凜花は見返りなしで譲るつもりだったが、本人が返したいというなら、拒否することもない。
「ところで……」
千夏の問題に関する話に決着がついたところで、樹が口を開いた。
「僕が今までに集めた情報の中に、動物を妖怪化させる邪気の出処は一か所だっていうのがあるんだけど、みんな信じる?」
「――!」
これまで、邪気はどこからともなく湧いてくるものであり、邪気をなくすということは不可能とされていた。
しかし、この情報が正しければ妖怪化の問題を一気に解決できる可能性が出てくる。
「いつの間にそんなことを?」
隼斗に尋ねられて樹は苦笑する。
「だいぶ前からうわさは聞いてたんだけど、僕自身半信半疑だったし、赤城隊長に話したら『それはない』って一蹴されちゃったから」
赤城はかなり頭が固い。従来の常識から外れた情報を信じてくれないのも無理はない。
「うーん。あたしじゃ判断つかないなー。凜花ちゃんはどう?」
学がないことを自覚している千夏は凜花に意見を求める。
「邪気というものの性質を考えると、いい加減なうわさ話ではなさそうに思えます」
凜花は自身の考えを話すことに。
「邪気には負の感情が込められているようですが、目の前にいる人が怒っているからといって、その人や自分がいきなり邪気に侵されることはありません。場所を問わずにどこからでも湧くものではないという方が自然じゃないでしょうか」
「となると、どこかに邪悪の化身みたいな奴がいて、そいつがすべての元凶ってことなのかな?」
隼斗は、自分でもよく分からないといった調子で尋ねてきた。
「少なくとも普通の生物とは違うと思います。野生の動物に悪意はないでしょうし、人間に絶対悪というのはありませんから」
邪気を
それほどまでに強大な力が普通に生まれることは考えにくい。特殊な現象が起きていると見るべきか。
一つ言えることは。
「私は樹さんの得た情報を信じます。突拍子もないような話ではありませんし、仮に事実なら討伐部隊として大進歩です」
妖怪が現れる度に討伐するより、発生源を潰す方が有益だ。
二者択一なら、この情報を信じて行動した方が人類を救える期待値が高い。
「じゃあ、これからは各地を転々として、その場所を探すことになるのかな。村の人たちにあいさつしておかないとね」
隼斗は凜花の意見を聞いた時点で今後の方針が決まったような口振りだ。
「私はそうするのがいいと思いますけど、みなさんはいいんですか?」
疑問を投げかけると、三人は当然といった表情をした。
「俺は凜花についていくって決めて赤城隊を抜けてきたんだよ」
「あたしだって凜花ちゃんの判断なら信じられるよ」
「元々それなりに信憑性のある情報だったから、凜花さんの意見も加わったら疑う余地もないよ」
皆、凜花を信頼してくれている。
ならば、自信を持っていこう。
「分かりました。それでは準備をしましょう」
「今までお世話になりました。また近くを通る際は立ち寄らせていただきます」
見送りにきてくれた村人たちに凜花が深々と頭を下げると、彼らは恐縮した様子で答えた。
「お世話になったのはこちらです。凜花様のお名前は未来永劫語り継がせていただきます」
それはまた大層な話だ。
「そういうことでしたら、隼斗さんと千夏さんと樹さんの名前も一緒にしていただけると」
自分一人だけ扱いがいいと彼らに申し訳ない。
「もちろんでございます。私たちにとって雨宮隊は最高の討伐部隊です」
村長はこう断言してくれた。
隊全体の評価なら、誇らしいこととして素直に受け入れられる。
邪気の根を絶つことに成功すれば、それこそ万人から最高の部隊として認められることになろう。
凜花は、実家と部下たちの名誉のために志を新たにした。
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