第7話「副隊長」
「そういえば、副隊長って誰なの?」
雨宮隊の四人で妖怪討伐に向かっている道中、千夏が思い出したように言った。
特定の一人に対してというより、仲間全員に対して尋ねているようだ。
「そういえば決めてなかったね。凜花、誰にする?」
「え、私が決めるんですか?」
隼斗に聞かれて少々戸惑う。
「討伐部隊の人事権はすべて隊長が持つ――このしきたりは別に変える必要ないだろう?」
そう言われても、凜花は人を評価して選ぶということには慣れていない。
「僕は遠慮してもいいかな? そういうの苦手だから……」
具体的な年齢は聞いていないが、樹はまだ十歳ぐらいと思しき子供だ。
「もちろん、やりたくない人に無理にとは言いません」
やりたいというのが一人だけなら、その人に任せればいいのだが、どうなのだろうか。
「隼斗さんと千夏さんは副隊長やりたいんですか?」
「んー、どうかなー。隊長の凜花ちゃんがあたしたちと同じ報酬しかもらってないんだから、副隊長も同じだよね。別に隊の運営になにか言いたいことがある訳でもないし、どっちでもいいよ」
千夏は、やってもやらなくてもいいということらしい。
「俺も特別やりたいってほどじゃないけど、二人が乗り気じゃないならやろうかな。凜花に適性を認められればの話だけど」
一番積極的なのは隼斗か。
「では、隼斗さんにお願いしてもいいでしょうか? 私より統率力はあると思いますし」
「じゃあ引き受けよう。凜花の右腕として恥ずかしくないよう努力するよ」
隼斗が副隊長に任命されたところで、そろそろ妖怪の気配が近づいてきた。
「鏡?」
視界に入った妖怪の姿に千夏が目を細める。
「
隼斗は腰の剣を抜く。
今回の標的は、妖怪化した鏡だ。
妖怪とは動物や道具が邪気に侵されて変異したもの。元々はなんの罪もない。
おそらく、この鏡も妖怪となる前は人間の役に立っていたことだろう。
「妖怪ってことは人を襲うんだよね。鏡が人間を食べたりするの?」
千夏の疑問に凜花が答える。
「鏡の性質から考えると人の魂を映して取り込む――といったところでしょうか」
「ああ。俺が聞いたのもそういう話だったよ。凜花も知ってたの?」
「いえ、予想というか、今までの妖怪の例からするとそうなるはずだと」
「すごいね、凜花ちゃん。事前に情報がなくてもそこまで分かるんだ」
隼斗も千夏も感心している。
「来ます! 長時間鏡面に映らないよう気をつけてください!」
凜花の指示を受けて、四人は散開した。
雲外鏡は、これまでに魂を奪った人間の霊力によるものと思われる火の玉を飛ばしてくる。
凜花・隼斗・千夏の三人はそれぞれの得物で斬り払い、樹は法術によって生み出した霊気の壁で防ぐ。
「こっちの攻撃がどの程度効くか……。試してみるか」
隼斗は手にした剣から霊気の刃を飛ばした。
隼斗の剣は斬鉄剣の異名を持ち、あらゆる物質を切断する。
妖怪は身体を切り離しただけでは死なない個体も多いため無敵ではないが、それでも高い攻撃能力があるのは間違いない。
しかし、雲外鏡の鏡面に触れた霊気は隼斗の元へ跳ね返っていった。
「くっ」
隼斗はこれをなんとかかわす。
「ウソ!? 隼斗の剣圧を反射した!?」
赤城隊時代から隼斗の実力を見ていた千夏は驚きを隠せないようだ。
「やっぱりこういう能力もあるか。全力で撃たなくて正解だったね」
隼斗自身は予想していたらしく、意図的に力を抑えていた。
「遠距離攻撃を反射するなら、直接叩ッ斬るしかないね!」
千夏が太刀を構えて一気に敵との間合いを詰める。
「待ってください! この能力は――」
凜花がさけんだ時には、千夏は太刀を振り下ろしていた。
太刀が鏡面に触れる寸前。
「法術・
樹の術により千夏と雲外鏡の間に光の壁が出現し、千夏の刃を止めた。
「中森さん、うかつだよ!」
樹がいなければ危なかった。
「敵の能力を見る限り近接攻撃も反射されます……! あの距離で太刀の威力が跳ね返ってきたら……」
凜花の説明を聞いて千夏は青ざめる。
樹が止めなければ、千夏の身体は両断されていたところだ。
「こ、攻撃を全部反射するなんて、どうやって戦えば……」
千夏はうろたえているが、凜花は絶望していない。
ようやく隊長らしいことができる機会だ。
「私に考えがあります。隼斗さんと千夏さんは威力を抑えて霊気を撃ち込んでください。樹さんは術による防御を」
「了解」
「こ、これ以上足を引っ張らないようにがんばるよ」
「分かった。防御は任せて」
凜花の指揮の下、三人は戦闘を再開する。
当然威力に関わらず攻撃は反射されてくるが。
「月影!」
凜花は霊気を放たずに、反射されてきた隼斗と千夏の霊気を刀で吸い取る。
樹は見た目の幼さに反して頼もしく、凜花が吸収したもの以外を巧みに防ぎきっている。
「どうすんの? これじゃあ防戦一方だよ!?」
千夏は凜花の意図に気付いていないようだが、まだしゃべらない方がいいだろう。
元が鏡とはいえ、妖怪化したことで聴覚を得ているかもしれない。
「魂……ヨコセ……」
雲外鏡が言葉を発した。それなりの知能があるということだ。
やはり作戦を口にしなくて良かった。
「鏡の裏面に回ったらどうだろう?」
隼斗の提案は敵の目を欺くのにちょうどいい。
そろそろいける。
「では、攻撃はいったんやめてください。私が裏に回ります」
「じゃあ、俺たちは敵の前面で細かく動こう」
凜花と隼斗たちで分かれて移動する。
今話した戦法は雲外鏡も理解しているはず。
凜花が背後を取った瞬間、鏡が裏返った。
「まずい! 凜花ちゃん!」
千夏のさけびは好都合だ。
凜花はこちらに鏡面が向いていることに構わず刀を振るう。
その刃は雲外鏡を斬り裂くことに成功した。
真っ二つに割れた鏡は邪気が消えて、人間が使っていた道具としての姿に戻る。
「やったか!」
「うん。やったね」
隼斗と樹が安堵の声を漏らす。
同じく安堵してはいるが、千夏は状況が分かっていない様子。
「なんで今のは反射されなかったの? 凜花ちゃんが強かったから?」
「私の刀が妖力を吸えることは話しましたよね? 跳ね返ってきた攻撃に乗っていた妖力を吸収していたんです」
「でも、いくら強くなっても反射はされちゃうんじゃ?」
「反射は雲外鏡の妖力によって実現しているものです。つまりその妖力を奪えばこちらも一時的に反射の能力を得られるということ。そして、同系統の能力は相殺することができます」
「あー、なるほど」
千夏も納得したようだ。
「雲外鏡は結構な妖力を持ってたし、協会からの報酬も多いんじゃないかな。報告ついでに町で食材を買って、ちょっとぜいたくな夕飯にしない?」
「お! いいね!」
隼斗と千夏は意気投合している。
「樹さん、疲れてませんか? 高度な術を使わせてしまいましたが」
「あ、ありがとう凜花さん。大丈夫、このくらいは……」
心配する凜花に対し、樹は恥ずかしそうに視線を逸らした。
今回の戦いも仲間が負傷することなく終えられてホッとした。こんな日々を続けていくためにも、隊長としての力を磨いていくつもりだ。
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