第6話「聖女」
鬼に襲われていた村を救った凜花たち。
脅威が去って、邪気も浄化されたことで、生き残った村人たちに明るさが戻った。
「邪気さえなければ、がんばればなんとかなる。またみんなで村に活気を取り戻そう!」
「ああ!」
苦しい状況下でも懸命に生きる人々を見て、凜花には思ったことがある。
「みなさん、相談なのですが、しばらくこの村の復興を手伝うというのはいかがでしょう?」
この村の被害は相当なものだ。どこからも援助を受けずに立ち直るのはなかなか大変だろう。
「いいんじゃないかな。特に急ぐ旅でもないし、妖怪の目撃が多かったのもこっちの方面らしいしね」
隼斗の賛成は得られた。
「あ、いえ、そこまでお世話になる訳には……」
さすがに村人は恐縮しているようだが。
「お金のことなら心配しないで。近くに湧いた妖怪を倒してれば協会から報酬が出るから」
同じく賛成している千夏が言った通り、妖怪討伐の報酬には二種類ある。
一つは助けた人もしくは団体からもらうもの。もう一つは討伐隊協会から一定額支払われるものだ。
協会は、さほど気前が良くはないので、そちらの報酬だけでは十分とはいえない。大抵の場合は。
しかし、雨宮隊の場合人数が少ない上、凜花のような実力者がいるため、大物を倒して多額の報酬を四人だけで分けることができる。
しばらくこの村に拠点を置いて妖怪討伐を繰り返すということで問題はない。
「せっかくの縁だし、僕もそれがいいと思うな。元々、困ってる人を助けたくて討伐隊士になったんだし」
樹も含め、これで全員の同意が得られた。
あとは、村の人々が素直に受け入れてくれれば決定だ。
「こちらは誰も反対していませんし、いかがでしょうか?」
問いかける凜花だが、村の代表者は答える前に妙なことを尋ねてくる。
「もしやあなたは聖女様でいらっしゃるので?」
「え……?」
急に意外な単語が出てきて面食らった。
聖女というと、基本的には宗教的な事柄に生涯を捧げた女性のことだ。
「鬼を容易く倒す力と邪気を浄化する力を持ち、博愛の精神をも持ち合わせていらっしゃる――これが聖女様でなくてなんだというのでしょう」
ずいぶんな過大評価をされている気がする。
「いえ、特に宗教とは縁がないですし、私は普通の人間です」
否定する凜花をよそに、村人たちは盛り上がりを見せた。
「いや! 宗教なんて関係ない。このお方は聖女様だ!」
「ああ、そうだ!」
「こんなに清らかな女性が聖女でなくてなんだ!」
聖女という言葉には一応、単に神聖な女性という意味もある。
どうにも村人たちは、凜花をそう呼びたいらしい。
「凜花。ここは好きに呼ばせてあげよう」
隼斗もこう言っているし、わざわざ拒否する理由もないか。
「では、私たちが村に滞在することは――」
「もちろん、願ってもないことでございます!」
それからは、近くの森の木を切り倒してきて建材にしたり、料理の手伝いをしたり、周辺に出現した妖怪を討伐したりして村の復興に尽力した。
人として討伐隊士として当然のことをしているだけなのだが、誰もが凜花の存在を聖女として崇めるようになっていった。
隼斗たちも同じように村の助けとなっているのに、彼らは凜花の従者というような見られ方をすることがあり、なんとも申し訳ない。
強大な妖怪は今のところ現れていないので、稼ぎも少ないが、村での生活でお金は要求されていないので不自由はなかった。
それに、雑魚妖怪であっても妖怪を斬れば凜花の刀は力を増す。これから先の戦いの準備としては申し分ない。
「意外となんとかなるもんだね。あんだけボロボロにされてたのに」
「うん。村の人たちががんばった成果だね」
千夏と樹が村の様子を見て話す。
「村人たちががんばれたのは、凜花がいたおかげかな?」
「私……ですか?」
隼斗に言われて凜花は目を丸くする。
「信仰心を持ってる人って良くも悪くもすごい力を発揮するだろ? 凜花が村人の信仰対象になったからこそ、みんなここまでやってこられたんだよ」
「どうして私なんでしょう? 役に立たないからと赤城隊長に捨てられた私なんかが」
「それは赤城隊長に見る目がなさすぎただけだよ。霊力の高さも容姿の美しさも人と接する時の優しさも、すべてが聖女のようだから人の心を惹きつけてるんじゃないかな」
隼斗までこんなことを言い出している。
「凜花ちゃん、かわいいもんね。男の人は好きになるだろうし、女の人は憧れるだろうし、一度傷ついたみんなの心の拠り所になってるんだよ、きっと」
千夏も同じ調子だ。
「そ、そんな、私なんて見た目も地味ですし、男性に異性として好かれてるなんてことは……」
「それは清楚っていうんだよ。男は大抵、凜花みたいな女の子が好きだと思うけどな」
隼斗に続けて樹も。
「凜花さんって嫌味がないから、女の人たちも嫉妬したりしないんじゃないかな? 中森さんもそうでしょ?」
樹に尋ねられて千夏も答える。
「そうだね。同じ美人でも、正直、赤城隊長みたいな人にはいい印象なかったから。凜花ちゃんぐらい謙虚なら素直に尊敬できるもん」
なにか他意があるのではないかと勘繰りたくなるほどに褒めちぎられている。
これ以上おだてられても、隊長としての責務を果たす以外のことはできないのだが。
「おーい。聖女様ご一行!
村人の一人が呼びにきた。
悲しいことだが村の人口が減ってしまっているだけに、残った村人と凜花たちはすっかり家族同然の付き合いになっている。
食事はみんなで取るのが当たり前。実家で暮らしていた頃や、赤城隊で活動していた頃には考えられなかったことだ。
こうした経験ができるだけでも、自ら隊を結成した甲斐があるというものだ。
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