第4話「新隊長」

「君が隊長をやる気はないか?」

 隼斗からの提案。

 それは凜花が予想だにしないものだった。

「私が隊長に……ですか?」

「そうそう。三人で話し合って決めたんだ。凜花ちゃんに隊長をやってもらおうって」

「中森さん。まだ決まった訳じゃないよ。最終的には凜花さんの判断なんだから」

 千夏と樹が言っていた考えというのもこれのことらしい。

 確かに自ら隊を結成するなら、追放された過去に関係なく妖怪討伐を始められる。

 しかし、凜花に隊長を務められるほどの度胸があるかというと。

「あまり自信がないです……。一隊員としても役立たず扱いされたのに隊長なんて……」

 元々凜花は他人を引っ張っていくような性分ではない。

「俺の見た限り、赤城隊の守りの要は君だった。君が抜けた時点であの隊の戦力はガタ落ちだよ」

 隼斗は凜花の能力を高く評価してくれている。

 千夏と樹も首を縦に振っている。

「君は他の隊員を守るように戦っていただろう? それこそ、トドメだけ持っていく赤城隊長とは真逆に。俺たちは、敵を多く倒す人より、仲間を守れる人の方が隊長にふわさしいと思ってるんだ」

 隼斗の言葉を受けてハッとさせられた。

 自分のがんばりは、ちゃんと見てもらえていたのだと。

 凜花は父の方へ顔を向ける。

「やってみなさい。お前は私の自慢の娘だ。隊長が務まらないなんてことがあるはずがない」

 父は、こちらの意図を察して答えを提示してくれた。

 追放されて弱気になっていたが、皆、自分のことを信頼してくれているのだ。

「残念なのは、当分お前と会えなくなることだけだよ。それが一番深刻なんだがね」

 父は少しおどけてみせる。

 もう一度討伐隊員として働ける――その好機が向こうからやってきた。それはとても幸せなことではなかろうか。

 凜花が妖怪討伐部隊に入った理由は、単に霊力が目覚めたからだけではない。

 愛する父がいるこの家にさらなる名誉を与えるためだ。

 元々お金は十分にあり、親子揃って過度なぜいたくはしない主義なので、普通に稼いだだけでは親孝行にならない。

 しかし、自分が妖怪討伐で立派な功績を残せば、自分を育てた父も大人物として尊敬を集めることになる。

 凜花にたっぷり愛情を注ぎ、男手一つで今まで育ててくれた父に報いるには、討伐隊員はうってつけだったのだ。

「じゃあ……やってみようかな」

 凜花が前向きな姿勢を見せると、隼斗たちも歓喜した様子になった。

「そう言ってくれると信じてたよ」

「あたしも! だからさっき『決めた』って言ったんだよ」

「凜花さんが隊長なら、僕も安心して戦えるよ」

 決意を固めた凜花は立ち上がって三人に頭を下げる。

「それでは、私は討伐部隊を新たに結成します。みなさん、私についてきてください」

 それを受けて隼斗たちも同じように頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」

 この時、赤城隊とは違い隊長と隊員が互いに敬意を払っている新たな部隊・雨宮隊が誕生したのだった。


 善は急げということで、四人はさっそく旅立つことにした。

「時には休むことも必要だからね。たまには帰ってくるんだよ。できれば手紙も、もっと書いてほしいかな」

 見送りにきてくれた父は、名残惜しそうでもある。

 凜花自身が隊長なら、赤城隊時代よりも都合のいい時期に帰郷することができる。父や自分の誕生日に帰ってきてもいいかもしれない。

「うん。お父さんも元気でね」

 凜花に続き、隼斗たちもあいさつを済ませて出立した。

 それぞれの想いを胸に秘めて。

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