待機室

目標ポイントが見えてきた。


量子ワープポイントとは、量子が溜まり、量子ワープが比較的簡単に行える場所のことである。


量子ワープ自体はどこででも出来ないことはない。

ただ、特殊な装置と専用のカプセルが必要なので、

ヒトレベルの小さなものを飛ばすときは、量子が溜まるポイントを使う方がコストも手間も省けるのである。


量子ワープはテレポートではなく空間を超えるようなものなので、

正しい角度、正しい速度で通過しないとちゃんと成功させることはできない。


「ポイントを視認。侵入角度調整、相対速度0.5マッハで固定。準備良いか?」


振り向かずに確認する。


『角度良好、速度安定。いいよ!』


よし。


「カウントダウン、3、2、1、通過!」


***


視界が青飛びし、若干の離脱感の後、視界が戻ってきた。


視界いっぱいに広がるのは、不自然に均一なガンマ値の青みを帯びた

地下都市である。


「ふぅ・・・上手くいったな」

『よかったぁ』


無事成功したようだ。失敗したら壁や岩盤などにめり込んで、

最悪死に至ることもある。


何回やっても緊張するものだ。


「よし、さっさと本部にお宝を届けるぞ」

『うん!』


IFFを出しながら、第三演習場の検問所の前に着陸する。


***


詰め所から警備兵が端末を持って出てくる。


「所属と認証をお願いします」

「第2特装部隊三神隼斗中尉」

「同じく三神玲那。階級は少尉です」


これはまあ儀式のようなものだ。

バイオメトリクス認証で情報はわかるし、量子パターン識別は偽装が不可能だ。


まあ念の為、といったところか。


「認証完了。お疲れさまです」

「警備御苦労様です。廣田大尉はどちらに?」


警備兵が端末を操作する。


「えー・・・B1区画東棟の執務室にいらっしゃるそうです」

「ありがとうございます。では」

「ええ、どうぞ」


ゲートを通り、演習場の装備調整室兼更衣室へ行く。


「じゃあ、あとで」

「ん」


クォートスーツは量子操作の補助を主な目的とした装備だ。

無論むろん装甲がない訳ではないがたいしたものではない。

着脱も比較的簡単にできる。


5分ほどで着替えを済ませ休憩室に向かうと、同じ隊の戸高が休憩していた。


飲み物を持って、隣に腰掛ける。

まてよ、今の時間帯は訓練中の筈だ。


「おいおい、さぼってていいのかよ」


戸高は苦笑いしながら首を振る。


「大丈夫。サボりじゃないよ。今日のノルマは終わったからね」

「ほー。てっきりまたサボったのかと」


訓練日に抜け出して遊んでいたのは記憶に新しい。


「なわけ。そう言えば、そっちの特務は成功したのか?」

「追跡部隊に捕捉ほそくされたけどなんとか逃げてきた。今から報告するところだ」


できれば捕捉されずに帰りたかったのだけれども。


「まあ任務は達成したんだから良いじゃないか。ブツはもう送った?」


戸高はニヤニヤ笑いながらいてくる。

〈送る〉というのは量子化したものを文字通り転送することだ。

ただ何かあったときが怖いので今回は〈持って〉帰っている。


「いや。モノがモノなだけに、別で暗号化してある」

「じゃあ見ることは出来ないか。残念」


暗号化したオブジェクトはデコードが面倒で、しかも失敗したら破損、最悪霧散してしまう。

だからこそ暗号化したわけだが。


「まあそういうことだ。どうせ報告書で見れるだろ」

「そうだが……お、妹ちゃんが来たぜ」


言われるまでもなく気付いていたが、玲那が休憩室に入ってきた。


「おまたせー。順くんはさぼり?」


俺と同じことを訊く。まあそりゃそうだ。


「兄貴と同じこと訊くな。終わったんだよ」

「へー。またサボったのかと思ったよ」


またも同じことを言われた戸高は呆れ顔で呟く。


「お前ら揃いも揃って同じこと聞きやがって……。実の兄妹って言われても驚かねぇぞ俺は」

「……」


突然玲那が黙る。

少し不穏な空気を感じたのでさっさと報告に行くことにした。


「戸高、報告行ってくるわ。玲那、行くぞ」

「うん」


戸高はもう少しここで休むようだ。


「ああ、おつかれ。あとでな」


本部行きのリニアに乗るまで玲那は一言も喋らなかった。

「玲那。いい加減機嫌直せよ。戸高だって悪気はないし、そもそも事実じゃないか」

「……分かってる」

絶対納得してない顔でそっぽを向いた。


***


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2日おきくらいのペースを目標にしてます

のんびりですがよろしくおねがいします

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