蜘蛛と道化師

“僕“は昔から人より劣っている。勉強も運動も対人的な意味でも。とにかく、何に対しても人より劣っている。底辺で無いにしろ、平均以下だ。

そんな自己評価とは裏腹に、周囲の人は僕を褒める。正直、理解し難い状況だ。だが、いつの時代でも他者からそれなりに評価されるのはいいことだ。仕事にしろ友人関係にしろ他者からの評価が良ければ世間一般でいう順風満帆な人生を歩める確率が高くなるからである。時に誰かの恨みを買うことになるかもしれないが、恐らく少ないケースだと思っている。

幾分か人より劣っていても、うまく立ち回るようにすれば上手くいく。僕はこれまでの経験からそう学んだ。だからそこに“僕“の感情なんて必要ない。感情なんて邪魔なだけだから。“僕“は人形のようにただ静かに毎日を送る。

今日も“僕“は見えない糸に身を包み、不自由な体を動かす。糸の先にあるものは黒く静かに在り続ける“無“のみ。

僕は言う。「糸の先を見てはならない。考えてはならないよ。」と、優しく微笑みながら。

「見て仕舞えば最後、完全に飲み込まれてしまうからね。」

まるで人を揶揄うように、小馬鹿にするように微笑みながらも、優しく告げる。だから“僕“は何も言わず、何も考えずに、この果てしなく広がる醜い世界に在り続ける。朝日が登り、遥か遠くの地平線へ消えていくまで。ずっと。ずっと。

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