果実

熟れた果実は甘い香りがする。その魅惑的な香りに、人は手を伸ばす。中が腐っているかもしれないのに、香りに惑わされてあまつさえ口にしてしまう。

腐っていることに気づいた時にはもう、遅い。胃に入った果実は内側から体を蝕んでいく。少しずつ、確実に。そうして、腐っていく。


人は果実に似ている。その代表格が“大人"だ。

あたかも美味しそうな果実を装いながら、中は腐っていたり空っぽだったりする。この地球上にいる大人が全てそうとは言わないが、大半がそうだ。

腐った果実は腐った果実しか生みださない。その上、きちんと熟れた果実を処分しようとする。だから結果として腐った果実が増えていく。

そんな世界は自分にとって、とてもいきづらい。

いつか見た道徳のビデオの中で

「何か困った時は近くの大人を頼りましょう。一人だけではなく何人かの大人に悩みを話し、力になってもらいましょう。」と言っていた。

その言葉を愚直に信じ、何度も、何度も、何度も試みた。

しかし、得られたのは人間不信と大人に対する嫌悪感だった。

幼少期に見た童話に出てくる子供の世界の王様はきっとこんな気持ちだったのだろう。大人というものに絶望し、未来を憎み、全てに嫌悪感を感じる毎日。

今日も今日とて眩しいだけの日が顔を出し、静かで綺麗な月は地平線の彼方へ追いやられる。

色々なイロのラムネを頬張る。腐った身体に染み渡っていくそれは麻薬に近い。

日を追うごとに、ラムネの種類は増えていき、身体は朽ちていく。

芳醇ほうじゅんな香りに惑わされ、気づけば中身が空っぽの実に成り下がった果実。満たされない感情を満たそうと足掻く日々。死にたくはないが生きたくはない人生。出来損ない。失敗作。腐って中身が空っぽのになった果実は、熟れた果実に夢こがれ、成ろうと必死になる。狭く暗い世界の中で腐っていく毎日。

そうして今日も日が暮れる。

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