キリトリセカイ

─カシャン─

その音は、一瞬をキリトル。



「じゃじゃーん!見て見て〜、カメラ〜!」

ハイテンションで出社してきた太宰の手には確かに一台のカメラ。

「全く、遅刻してきたと思ったら。カメラの前に席に着け!」

「まぁまぁ、そんなにカリカリしないでって〜。国木田くんもかっこよく撮ってあげるからさ。」

国木田の言葉など気にも留めないどころかさらに煽る太宰。いつもの2人のやり取りを見ながら国木田さんがカリカリする理由は何時いつだって太宰さんなのでは?と思ったが、口には出さず敦は尋ねる。

「そのカメラ、どうしたんですか?」

「昨日、居酒屋で隣にいたおじさんに貰ったんだよ!もう使わないらしくてね。いやぁ、昨日のお酒も美味しかったなぁ」

「貴様、昨日も呑んでいたのか。仕事はしろよ。」

国木田が今日のスケジュールを確認しながら釘を刺す。

「太宰さん、使い方分かるんですか?」

一方、カメラを初めて見る様子の敦は覗き込む。

「昔、少し触ったことがあってね。大したものを撮ったわけじゃないけれど。」

懐かしさを滲ませるようにファインダーを覗く太宰。

「おっ、ここに素敵な被写体が…」

そう言って、太宰は机の上にあったカニ缶を撮影し始めるが、それを国木田が許すはずもない。

「仕事をしろと言ったばかりだろうが、太宰!早く報告書を書け!」

「はいはーい。じゃあ国木田くんも撮るよ〜、ほら笑って笑って!」

バキッ!!!

国木田のペンが折れる音がした。




しかし、その後も太宰が反省するはずもなく、

「私ってカメラマンも似合うなぁ、うふふ。どう?どう?」

と撮影して回っている。どうやら今日はもうカメラマン気分のようだ。次のターゲットは…

「敦くーん!」

敦が呼ばれた声に振り向いた瞬間

─カシャン─

シャッターを押す。と共に、誰かのシルエットが敦と重なり、太宰は息を飲む。自分の右側にいつも座っていた記憶が蘇る。

「太宰さん?」(太宰?)

心配した敦の声はなんだか懐かしかった。

「うふふ、敦くんもかっこよく撮れたよ〜」

「あはは、ほんとですか?それにしても太宰さん、カメラ好きだったんですねぇ。」

苦笑しつつ、敦は太宰の意外な趣味に少々驚く。

「たまにはいいじゃない?こうして今を残すってのも。」

そう答えた太宰の目は優しかった。と思ったのも束の間、太宰はまたカメラを向けてくる。

「はい、じゃあ敦くん!次はキリッとした感じでいってみようか!」

そんな無茶振りが始まったところへ社長が帰ってきた。

「ん、カメラか。」

「社長!すみません、すぐに仕事に戻らせますので!」

国木田が焦るが、

「いや、かまわん。せっかくだから皆で撮るか。」

鶴の一声だった。



「社長…。本当に良いんですか?仕事をストップさせてまで、。」

国木田はまだ不安そうだった。写真を撮ることは良いのだが、カメラを持ってきた太宰が調子に乗ることが目に見えていたからだ。

「良いじゃないか、国木田。集合写真なんて今まで撮ったこと無かったんだから。」

「カメラって本当に写るんですねぇ。」

「早く撮ってよ〜。焼き菓子が冷めちゃう。」

「お兄様、くっついて撮りましょう!」

「鏡花ちゃん、リラックスして大丈夫だよ」

カメラをグラスの上にセッティングして、タイマーをかけた太宰も入ってくる。

「はいはーい、皆いくよ〜!せーの、」


『はい、チーズ!!』

─カシャン─




─数日後─

出社した敦が見つけたのは机の上に散らばったたくさんの写真。

「あ、おはよう。敦くん。これこの間太宰さんが撮ってた写真みたいだよ。現像できたみたい。」

谷崎も写真を見ていたようだ。

怒りでブレてる国木田さん。お菓子を食べる乱歩さん。ナオミさんに押される谷崎さん。兎を抱える鏡花ちゃん。渋くてかっこいい社長。野菜を貰って帰ってきた賢治くん。手術室で備品の手入れをする与謝野女医せんせい。そして、下からのアングルが男前に撮れると所望してきた太宰さんの写真と不意打ちで撮られた僕の写真。敦はたくさんの写真の中から一枚を手にする。皆で撮った一枚。綺麗に決まっているわけでもなく、わいわいと相変わらずな面々が写った写真に思わず笑みが零れた。


僕が今ここにいる証。皆がここにいる証。


今を残す。

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