人生ゲーム

「人生ゲーム!!敦くーん、ねぇ、これ面白そうじゃない?やろうよー!ね?ね?」

 突然妙なテンションで話しかけてくる先輩探偵社員・太宰治。

「え、どうしたんですか急に。」

 怪訝な顔で聞き返す敦。

「いやぁね、鏡花ちゃんが商店街の福引きで当てたんだってさ。鏡花ちゃん人生ゲームやったことないっていうからみんなでやろうって話になってね。」

 太宰の後ろから心なしか楽しそうな鏡花が顔をのぞかせている。

「鏡花ちゃんも人生ゲームやったことないの?実は僕もなんだ。一緒にやろうか。」

 優しく話しかけると目を輝かせた鏡花に

「うん。一緒にやろう。」

 と手を引っ張られた。

「えっ、鏡花ちゃん!?どこ行くの?」

 驚いて尋ねるが、鏡花は歩調を緩めない。

「ちょっと敦くーん、私と鏡花ちゃんで態度変わりすぎじゃないー?私が誘ったのにー。」

 太宰の文句を聞きながら、鏡花に手を引かれるままにたどり着いた先はゲーム会場・・・と化した応接室だった。


 「じゃあ、始めようか。」

 谷崎の声でゲームが始まり、その場にいた敦、太宰、国木田、鏡花、谷崎、ナオミでじゃんけんをする。国木田が勝ち、そこから時計回りに進めていく。

「よしっ、太宰よりも先にゴールしてやる!!」

 そう息巻いてルーレットを回し、出た目は最大の10。しかし、止まったのは

『電車に乗り遅れる。一回休み。』

 のマス。悔しそうな国木田を見て、ぷくくっと笑う太宰。そんな太宰に

「俺が電車に乗り遅れる訳がないだろう!!」

 と掴みかかる国木田。一巡目からこれだ。やれやれと思いながら

「国木田さん、これゲームですから!次は太宰さんの番ですよー!」

 と敦がなだめる。太宰は9マス目まで進み、止まったマスは・・・

『虹色のゾウリムシを見つける。賞金¥50,000貰う。』

 謎だ。しかし、ゲームとはこういうものなのかもしれない。虹色のゾウリムシ。どこかで聞いたことのあるワードのような気もするが。

「次は僕ですね!えーと、、」

 と言いながら敦、鏡花、ナオミ、谷崎の順に駒を進めていく。


「クレープ屋さんかぁ、良かったね。鏡花ちゃん。」

「作るよりも食べたい。」

「あははっ、国木田君ってばゲームの中でも教師なのかい?」

「兄様、、?どなたと結婚されたのですか?私聞いていませんわよ。」

「ち、違うからねっ!これゲームだからぁ!!!」


「人生もこれくらい単純だといいのにねぇ。」

 がやがやと盛り上がり続けている部屋の中で太宰は窓の外を見上げていた。一番にゴールした後、ソファでまだゲームを続けている社員達を待っているのだ。窓の外には青空が広がっていた。雲一つ無い空。邪魔するものもなく、純粋な。自らの思うままに真っ直ぐ生きられる者が果たしてこの世界にどのくらいいるのだろうか。様々な者の思惑が絡み合う、摩擦だらけの世界。求めるものは手に入らず、大切な人は奪われ、答えのないままに歩いていく。

 

 その時急に声が上がった。ゲームが動いたようだ。

 「猫を助ける。¥15,000貰う!」

敦の声だ。ゲームの中でも人助け、、いや動物助け。相変わらずだなぁと思う。彼も壮絶な日々を生きてきたはずだ。周囲に押しつぶされ、奪われても信念を曲げることのない強さ。彼の中では無意識だろうが。

「眩しいなぁ。」

思わず声に出てしまっていたようで、気づいた敦が振り向く。

「何が眩しいんです?」

「ん?敦君の尻尾。」

躱した太宰の答えに

「へっ?尻尾は光りませんよ!っていうか僕尻尾生えてませんからね!」

と敦は抗議する。

「虎助けはしないの?」

隣の鏡花も敦に聞く。真顔で。

「もうっ!鏡花ちゃんまでー!!!」

そんな敦をからかいながら、太宰の表情は穏やかだった。未だゴールできない国木田の声が響く探偵社の窓からは午後の日差しが差し込んでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る