親バカ

「首領がわっちをお呼びとはのう。何用じゃろうか。」

 尾崎紅葉は疑問顔でポートマフィア最上階執務室へと向かっていた。五大幹部会等で顔を合わせることはあるが、個人として呼ばれることは滅多とない。

「首領殿の守備範囲は十二歳以下のはずじゃがのう。」

 などと冗談を言いながら執務室のドアをノックする。返事はない。代わりに中から中年男性と少女の声が聞こえてきた。

「入るぞ、首領殿。」

 と軽くため息をつきながら入室する。


 そこには床一面に散らばった少女サイズの洋服とその真ん中で一悶着しているポートマフィア首領―森鴎外―とエリス。もう一度声を掛ける。

「首領殿、参ったぞ。何用じゃ?」

 森はやっと振り向き一言。

「あぁ、紅葉君。エリスちゃんの服を選んでほしくてねぇ。私の勧めるものは着てくれなくて。」

 ―――沈黙――――。何をほざいておるのじゃ、この男は。本当に口を縫い合わしたほうが善いかのう。

「何事かと思うたじゃろう。全くそのような用で呼び出すんでない。」

 うちの首領殿はエリス嬢のことになると周りが見えなくなるから困る。再びため息をつきながら部屋を出て行こうとする紅葉に慌てて森が懇願する。

「お願いだよぅ、紅葉君しかいないのだよ。」

「任務でもない首領殿の趣味に付き合うておれぬわ。どうしてもというなら樋口でもいいじゃろう。」

「だめだよ、樋口君は部下として私の趣味を全肯定するだろう?私は他の人間の率直な意見が聞きたいのだよ。」

「そう言っておいてわっちが本当にもの申したら拗ねるのじゃろう?面倒な男じゃ。」

 軽い言い争いをしていると、着物の袖をくいっと引っ張られた。目線を下ろすとエリスだった。

「私、紅葉さんに選んでもらいたい。」

 くっ。紅葉は少女のお願いに弱かった。


 三人はショッピングストリートを歩いていた。

「これなんかどうじゃ?」

「うん!かわいい!」

「えぇ、エリスちゃんにはこっちの方が似合うと思うんだけどなぁ。」

「今日は紅葉さんに選んでもらうの。リンタロウは黙ってて!」

 ポートマフィア重役達がショッピングストリートでする会話とは思えないが、本人達は至って真剣なのである。

「ほう、これは鏡花に似合いそうじゃ。」

「紅葉君?今日はエリスちゃんの洋服を選びに来たんじゃ・・?」

「おぬしの趣味に付き合うておるんじゃ。私も鏡花への土産を見ても善かろう。」

 かくして森と紅葉のそれぞれエリス、鏡花へのプレゼント選びの一日が始まったのである。


 ――――後日――――。

 探偵社に鏡花宛ての大きなダンボールがポートマフィアから届き、ちょっとした騒動になった。爆弾か何かの罠かと慎重に開けたところ、中から出てきたのはかわいらしい洋服たち。その時の探偵社社員達の微妙な表情は言うまでもない。

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