第18話 予選第二回戦【CHOICE4・ステージ】

「ここはわたくしがセンターですわ!」

「いいえ! あなたは去年センターだったでしょう! 次はあたし!」

「あなたの楽器は大きいからセンターになったらじゃまだわ!」

「みんな……ケンカ……しないで……」

「そうよそうよ! ここは最年長の私よ!」

 きゃいきゃいと小人が言い合いをしている。小人さんたちの数字は6から10番までの5人。それぞれがきらびやかな衣装をまとっている。

「どうする尚也君」

「ひなた、これが俗に言うセンター争いだよ。こんな間近に見る日が来るなんて」

「いや、多分違うと思う」

 三番の小人が龍之介をキッチンに連れて行ったので、二人がすることはこのごちゃごちゃしたステージの片付けだ。

 5人の小人たちがめいめいに自分が真ん中に立ちたいと主張している。五人はそれぞれ楽器を持ち、自分こそセンターに相応しいと言い合っている。

「でも、楽器って動きがあるからじゃまになったり、音が聞こえにくかったりするからどうしても立ち位置は決まっちゃうよね」

「うん」

「ねえ、練習の時はどうだったの?」

「練習の時?」

「ほら、この楽器の隣だったとか、その逆だったりとか」

「じゃあ、私……私がきいてくる、ね」

 一番声の小さい小人が言う。背中の数字は7番。持ってきた楽器は小人の背丈をはるかに超えるほど大きいハープだった。ステージの裾に座っている小人たちは、誰が立ってもいい、といった表情を浮かべている。

(困ったを通り越して、面倒くさいが勝っちゃったのね)

 小人たちの様子を見ていて、ひなたはそう思った。

「こりゃ、長引きそうだね」

「まったく。気にせず進めばよかった」

「でも、気になっちゃったんだろ?」

「……うん」

「みんなの……練習の時の立ち位置、思い出したよ」

「ありがとう! 紙か何かに書いてくれる?」

「……わかった」

 7番ちゃん、と呼ぶのも何なのでナナと呼ぶことにした。ナナは紙に小さく書いていく。虫眼鏡が必要になりそうなくらい、小さい。

「ごめん、僕が書く」

「ごめん……なさい」

 今にも泣きだしそうになったナナを抑えて尚也が書きとったのは次の通りだった。


 ・小人の名前はロク、ナナ、ハチ、クウ、トオにする。

 ・それぞれの楽器は、ヴァイオリン、ハープ、たいこ、チェロ、トランペット。

 ・立ち位置は左から1,2,3,4,5 (3がセンター)とする。

 ・1の位置にはナナかクウがいた。

 ・2の位置にはハチ、トオはいない。

 ・3の位置にクウはいない。

 ・4の位置にはロクがいた。

 ・ハチの右隣に人はいない。

 ・トオは一番のさびしがり屋。


「これ、一回別の紙に書いて調べた方がいいわ」

「そうだね。ヒントが多いから、一つずつ確定したことから拾っていこう」

「確定したこと?」

「ほら、4の位置にロクがいたってところ。これからスタートさせていこう」

 そう言って、尚也はロクを4番の位置に立たせた。ロクは手にしたヴァイオリンを奏で始めた。練習を始めたようだ。

「次にハチの右隣りに人はいない、って事はハチが一番右の5番の位置にいるって事だね」

「あいよ」

 ひょいひょいとハチが右端のステージに上がりたいこを鳴らす。これで残るは3つだ。小人たちが何が起こったんだろうとこちらを見てくる。

「って事は、クウが2番だね。消去法的にここに埋まるのはクウだ」

「そうみたい―。練習の時ここだったの思い出したー」

 ぽてぽてとクウが楽器を手にして上っていく。これで残るはナナとトオ。

「さっきから気になっているんだけど、トオが一番のさびしがり屋って順番でも何でもないじゃない」

「さびしがり屋って本当?」

 尚也に言われたトオは軽くジャンプした。先程までのやり取りを聞いていないようだった。

「そんな! べ、別にわたしの楽器は、その。一番派手だから、一人でも、その……練習できるわ!」

「本当、みたいね……」

 この村の小人達はみんな正直だ。だから、本心と違う時はあからさまにうろたえている。嘘にならないぎりぎりのところを言っているな、と尚也は思った。

(……こんなに精密なやり取りをできるのかな)

 尚也はずっと、それこそサモンバディーズに登録できる一年生からやってきた。だからこそ、この公式大会にちょっとした違和感を覚えていた。

「尚也君?」

「あ、ごめんひなた。えっと、それなら君がセンターだね。トオ」

「え? なんでさみしがりならセンターなの?」

「さみしがりって事は一番人が見えていないといけないって事だ。センターになれば一番お客さんも、他のメンバーも見れるからね」

「そういう意味だったの。じゃあナナが1番の位置ね」

「そう、これ! この位置……安心するわ」

 小人たちが位置につくと、心が弾むような音楽が奏でられ始めた。その音に耳を傾け、二人は小さく手拍子をした。

「おーい! みんなー! 料理ができたぞー!」

 大きな鍋を抱えて龍之介が三番ちゃんと走ってきた。その様子を見ていた小人達の目の色が変わった。

「カレーだ!」

「カレーライスだー!」

「食べよう!」

「いいにおいがする!」

「いただきますー!」

 われ先にとカレーを食べていく。その勢いに三人は圧倒された。


「あの……皆さん」

 演奏が一段落したのだろう。ナナが小さな小箱を抱えて走ってきた。その箱もまた絵本に出てきそうな白地に金色の細工がされた見事なものだった。

「これ、この先で必要になるものです。これを持っていってください」

「なんだ、ここも【CHOICE】の一つだったんだな」

「開かないけれど、大丈夫なの?」

「大丈夫です。必要な時に空きます、から」

 そう言ってナナは演奏に戻っていく。村の外に目を剥ければ、先程閉ざされたゲートが再び開いた。矢印のアイコンが出たのを見た龍之介は全速力で駆けだしていった。

「よっしゃ!」

「さっき私たちの邪魔したのに!! 待ちなさい!」

 出遅れたひなたの黒猫が後を追う。二足歩行の犬と本来の動きの猫なので、当然猫の方が先に進んでいく。

「お先に失礼!」

 競り合っている二人を尻目に空高く跳んでいくのは尚也のナナホシテントウだ。

「ずるいぞ! 空なんか飛んで!!!」

「空を飛ぶのも戦術の一つだよー」

 なんてことを言いながら尚也が飛んでいく。三人でゲートをくぐると、いつもの見慣れた迷宮の光景が広がっていた。


『【CHOICE】クリアおめでとうございます。これから引き続き、【SLAYER】をお楽しみくださいデシ』

 ざらざらとした音質で見慣れぬ音声が聞こえてきた。

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