第17話 予選第二回戦【CHOICE3・キッチン】
「4リットルと6リットルから5リットルを作る……要は、偶数から奇数を作るって事だろ?」
「偶数? 奇数?」
「あぁ、簡単に言えば2で割れるか割れないかだな。4も6も2で割れるから偶数で、5リットルは2で割れないから奇数だね。
でも、こういうのって大抵奇数同士から偶数を作るのが多いんだけど、初めて見る問題だな」
「できるです?」
不安そうにこちらを見上げてくる三番ちゃんの頭を撫でて、龍之介はふっと息をついた。
「5リットルの水はこっちで用意するから、三番ちゃんは他をお願い」
「了解―」
ぱたぱたとニンジンを抱えて三番ちゃんがまな板の前に立つ。すぱぱぱ、と目にもとまらぬスピードでニンジンを切っていく。
(得意な事ってそういう事か)
料理が得意な子、片付けが得意な子、絵を描くのが得意な子、色々いるのだろう。
問題に戻ろう。
「まずは2リットル分を作るのは簡単だよな」
「2リットル作れるです?」
「ああ。まず、6リットルめいいっぱいに水をくむんだ」
蛇口をひねる動作をすると水が出てくるのだけれど、感覚が無い。こういう時VRだという事がまざまざと感じられる。
「で、これを4リットルに移して、4リットルの方を捨てる。これで2リットルが残るんだ」
「ふむふむ」
「でも、こっからさきがわかんねー」
残り3リットル。こういう問題の場合、与えられた入れもの以外の物を使うのはルール違反だ。
できることは「水を入れる」「片方の入れ物に移す」「水を捨てる」の3つだけ。それに今残っているのは4リットル分の空きが2つ。これではどうやっても3リットルはつくる事は出来ない。
空いている所に移したいが、偶数から偶数分を移動させても、奇数である3リットルはつくれない。
龍之介が迷っている間にも三番ちゃんはてきぱきと野菜を切っていく。ゲームだからというのも差し置いてもきちんと切っている、というのが分かるので、サモンバディーズのグラフィックはかなり凝っているんだなぁ、と龍之介は思った。
さく、と三番ちゃんがジャガイモを切り始めた。皮をむいた後、一口大に切っていく。
(単純に3は6の半分だから、このますが真っ二つに斬れたらいいんだけどね)
なんかこう、伝説の剣士が一刀両断して真っ二つに割れないだろうか。あ、今の龍之介は剣士だ。犬剣士。
「よし、やってみるか」
6リットルますを床に置き、龍之介は刀に手を伸ばし身を屈める。
(真っ二つ、真っ二つ……)
呪文のように唱えて、龍之介は柄を握った。そのとたん、ビービーと警告音が流れた。
「このルールでは戦闘ルールは適応されません。その行動は登録されていません」
「マジか……」
最後の望みも消えた。がっくりと膝をついた。それもそうだ。戦闘ルールができるのは【SLAYER】だけだ。それ以外で戦闘行動をとった場合、ペナルティがある。サッカーみたいに最悪強制退場という事もある。
「でも、3リットル分は6リットルから作れるって事は分かった」
って事は、この余った2リットルはいらないな。4リットルの方に移しておこう。テーブルの上にますを2つ並べる。
(こういう時、部屋のどこかにヒントがあるはず)
サモンバディーズは子ども向けのゲームだ。滅多なことじゃ詰まない。その証拠にわざわざキッチンという別のエリアがある。
「なにか、なにかあるはずだ」
いくら見渡しても、絵本の中のようなキッチンとダイニングだ。冷蔵庫には可愛らしいシールがべたべた貼られているし、テーブルにはクリスタルの置物がある。
「?」
普通テーブルの上には花や調味料の類が置かれているはずだ。このクリスタルの置物は変な形をしている。中に水色の砂が入っている。数字の8を延ばしたような形をしていて、ひっくり返すたび砂が少しずつ移動していく。
「それは砂時計です」
「砂時計? そっか。だから移動していくんだな」
さらさらと落ちていく砂を見るのは心休まる。それに全て落ち切った後にひっくり返すのもなんだか癖になる。
チカ、と龍之介の脳裏に何かが光った。
(ひっくり返す、傾ける?)
何かが引っ掛かる。どう考えてもヒントだこれ。でも、ひっくり返してしまったら水はこぼれてしまって跡形もない。という事は、傾ける。
(傾けても同じじゃないか? だって、水が流れて―――!)
はっと気づいた龍之介は大きなますに水をもう一度満たした。
「また2リットルになるですよ?」
「傾けるんだよ!」
「?」
傾けるとその水の水平線はマスの対角線になる。ますが木じゃなくてガラスでできているのはこういう事だったんだ。
じゃばじゃばと水が勢いよく流れていく。そして、水平線がますの角と角を結んだところで傾けるのを止めた。
「これで3リットルだよ!」
「どうしてです?」
「対角線はその四角の半分を示しているからだ! 6リットルの半分、つまり3リットル! それにさっき作った2リットルを足して5リットル!」
その言葉と共に龍之介は5リットルの水を作った。とたん水が金色に光りはじめた。そしてその水の中で大きく「当たり」という文字が浮かんで消えた。
「よっしゃ!」
知恵の問題が一問とけた。次の問題はきっと、外だ。
(2人ともがんばれ!)
「龍之介さん、火加減をお願いするです」
「おう!」
初めて知恵の問題が解けて上機嫌な龍之介はキャンプファイヤーを作りかけて三番ちゃんに大目玉を喰らった。
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